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異世界旅行を終わらせる為に頑張る男の冒険譚  作者: Latte


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2 最初から警戒心はなかった

 ギルバートと関門を通り王都の大きな通りを歩くが、やけに周りの視線が2人に突き刺さる。


「ギルバートさんって有名人なんだ」

「俺よりもお前だと思うがな」


 やはりこの服だと目立ってしまうんだろうか。周りを見ると下町っぽく楽な格好をしている平民、そして装備を固めてる冒険者と呼ばれる人たちぐらいだ。

 だとしてもセスだけじゃなくギルバートにもかなり視線が向いてる。有名なのは間違いないだろう。特に冒険者からの視線がすごく痛い。


「(というかどこに向かってるんだろうか……)」


 ここに来るまでにある程度の自己紹介、王都の話などはざっくりしたが肝心のどこに行くかは聞いてない。こんな人通りの多いところで自分の無知さを醸し出すのはよくない。前に視線を向け、ギルバートの背中を追い続けると一軒の宿屋の前で足を止めた。

 ギルバートに視線を向けると、目線で中に入れと促してくるのでそれに従って中に入る。


「いらっしゃ、ちょ、お、お貴族様!?」

「ばぁさん、部屋あけてくれ」


 優しそうなお婆さんにギルバートは冷たい口調で話しかける。だがお婆さんはセスをみて萎縮してしまったかのように慌てふためいて緊張している。


「こんにちは、こんな格好をしていますが貴族ではないで畏まらなくて大丈夫ですよ」


 セスは優しく微笑み、胸に軽く手を当てて礼をする。セスは心を和らげようとしたのだろうがそれはかえって緊張感を与え、お婆さんはピシリと固まった。


「(コイツ……貴族の所作、無意識か)」


 ギルバートはそんなセスをみて頭が痛くなりそうだったが、腕を掴んで2階に上がる階段に誘導する。セスはされるがままに2階に上がり、一番奥の角部屋に案内される。

 扉を開けると2つのベッドに机、タンスが一つ置いてある部屋だった。


「服の替えは」

「亜空間にあるが…似たような服だ」


 ギルバートはまた舌打ちするとタンスを開ける。そこには数着の衣類が入っている。どうやらギルバートはここに泊まっているようだ。

 黒いワイシャツを投げるように渡され、受け取るとセスは自分の服に手をかける。

 無駄についてる装飾品をとって亜空間に放り込んでいく。ワイシャツも脱ぎギルバートの服に手を通すが肩幅も腕の長さも合っていない。セスもそれなりに筋肉がついてるので大丈夫だと思っていたが、やはり目の前にいる男の体格がよすぎるせいだ。


「ん、でかい」

「買うまで我慢しろ」


 第一ボタンまで癖で締めようとしていたのをギルバートは止める。セスの服に手をかけ、ぷち、とせっかく止めたボタンを2つほど外せばだらしがなくその辺の平民に……見えない。

 むしろ平民は見てはいけない気がする。貴族の癖に程よく鍛えられたその体つき、白い肌、そして何よりも顔。

 色男に変化したセスにギルバートは思わず眉を寄せ、ボタンをまた閉める。第一ボタンだけは開けておけばさっきよりはマシだろう。


 そんなことより初対面の男にここまで無防備になれるこの男のほうが一番の問題だ。いくら王都とはいえ治安が悪いところももちろん多い。


「俺に警戒心はないのか」

「あったけどなくなった」

「俺が今ここでお前を殺そうとしてもか?」


 セスの肩を押せば簡単にベッドに倒れこむ。上に乗って手をセスの首にかけてもセスは表情を一切崩さない。


「僕を殺すのか?」


 こんな状況だというのにセスは口に笑みを浮かべる。セスは自分の上にいるギルバートに手を伸ばす。まるで誘い込むかのようにギルバートの頬に手を当て、親指で頬を優しく撫でる。

 すると、ギルバートの表情は一気に固くなりセスの首から手をそっと避けた。


「どうした?」

「ッは、ふざけやがって」


 ギルバートはセスの上から避け、自分の心臓にそっと手を当てた。心臓がバクバクと音を立てて珍しく冷や汗が流れる。

 頬を撫でられた瞬間命を握られた感覚がした。笑みが怖いと思ったのは今日が初めてだ。自分が主導権を握っていたはずなのに気づいたら逆転していた。小動物だと思っていたのがまるで虎の尾を踏んだかの気持ちになる。

 ここ数年こんなに肝が冷えたのは初めてだ。


 ギルバートはセスの顔をみて、ハハ、と笑った。


「気に入った」

「よくわかんないけど君のお眼鏡にかなったようでなによりだ」


 セスは体を起こし、衣服を軽く整えるとベッドに腰かけてゆったりと足を組む。どうやら魔法がうまく作用したみたいでいい脅しになったみたいだ。

 ギルバートも正面に腰をかけたのをみてセスは悩む。 


 最初の時以降この男が嘘をついた素振りはないが、このまま一緒にいる程ではない。なによりこの宿につく前にこの街の物価などはすでに目にしているから一人でも生活していける。この男がわざわざ自分の存在を言いふらすような人ではないことは会話をしていて感じ取れるし口封じも問題ない。

 しいて言うならこの少し世話焼きな性格の彼が一緒に行動してくれるならだいぶ楽になるだろうということだ。


「考えは纏まったか?」

「あぁ、まずは君と同じ冒険者になろうかなと思うんだが、身分を証明するものは必要か?」

「必要ない、むしろ冒険者としての身分が取れるからお前には必要だろうが……」


 ギルバートの表情を見てセスは苦笑いをする。似合わないとでも思われてそうだ。

 だがこの世界に飛ばされた以上身分というものは大事だ。冒険者という誰でも気軽に手を付けられるところなら尚更いい。


「先ほど君は僕に警戒心がないかと聞いたが、君はどうなんだい?知らない初対面の男を自分の宿に連れ込むなんてそれこそ警戒心がない」

「俺が警戒しなくてもいつでも殺せると思っていたからな。まぁ、さっきのでその思考は変わったが」


 これも本音だろう。街中で歩いていた時の視線は畏怖も混ざっていたし、相当な実力者と伺える。実際に助けられた時も強かったのは目にしてる。


「ここまで俺に対価なく世話を焼いてくれる理由は?」

「そうだな……興味と好奇心」

「君は些か純粋すぎだな。だが嘘はなさそうだし……とりあえず一週間一緒に行動するのはどうだろうか。報酬は君の好きなように」

「情報提供者になれってことだな。報酬は俺の働きぶりをみて決めていい。前金なし後払いで」

「ギルバートさんがそれでいいなら」


 口頭での契約だが問題なさそうだ。セスが手を差し伸べるとギルバートはセスの手を掴む。軽く握手を交わすとギルバートは立ち上がりそのままセスの腕を引いて立ち上がらせた。

 早速町案内してくれるようだ。


「まずはその口調から直せ、お前の顔からさんなんて似合わねぇ」

「変な理由だな、本人がいいってなら遠慮はしないけど。なぁ、ギル」

「はっ、それが一番いい」


 ギルバートが満足そうに笑うのを見てセスの表情も少し緩んだ。








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