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#9 裏社会

「やはり、ダメだな。これでは使い物にならんな」

「は、はぁ、ダメですか……」


 辛辣な言葉を支社長に投げかけているのは、アーシャさんだ。手に持っているのは、粉々に砕かれたセラミック包丁。切れ味と耐久性に優れた包丁ではあるが、魔力を込めた途端に粉砕四散してしまう。

 かつてこの王国に、剣に炎の魔力を込められる伝説の剣があったという。が、普通の剣でそれをすると、発生した熱で変形し、一瞬でダメになる。そこで高温に耐える剣を所望してきた。

 で、支社長が強引に売り込んだのが、セラミック包丁だった。が、結果はご覧の通り、粉々に砕けてしまった。当社の製品の全てが、この星の要望に応えられるというわけではないことを示すものだった。

 もっとも、そんなことはやる前から分かっていた。


「だから僕は事前に、あのセラミック材は魔力との相性が悪いと言ったんですけどね」


 その後、律君からはそう告げられた。どうやら彼は彼なりに、この星の魔法を調べており、その結果、セラミック包丁とは相性が悪いことを察していたという。

 が、そんな意見など耳を貸さず、ただ自身の勘と経験だけで売り込んだセラミック製の刃物への期待は、文字通り砕かれてしまった。


「多孔質なセラミックに封じ込められた樹脂材が、セラミックの脆さを補うという特性を備えているがゆえに、そこに魔力が入り込むと途端に力の逃げ場を失った魔力がセラミックの脆弱さを突いて粉々に砕いてしまうだろうという仮説を持っていたのですが、それを実証する前に売り込まれてしまってはどうにもできず……」


 饒舌に、しかし意味不明な言葉がちょくちょくまじりつつも、律君は答える。相変わらず、商品に対する知識量、そしてそれ以上に、この星の魔法についての知識を着実に蓄え始めていることに、驚きを感じていた。

 が、そんな支社長のプライドの失墜などどうでもよくなるほどの任務が、我々には待っていた。

 国王陛下、直々の勅命である。

 すなわち、この王都にある「裏社会」を探れ、というものだった。

 そっちの方に頭を悩ませる私は、正直、セラミック包丁の失敗の件などどうでもよかった。


 裏社会。簡単に言えば、非合法なことをこの王都内で平然とやってのけている場所のことを指す。そんなもの、王国の総力を持ってすればすぐに見つかる……のかと思いきや、どうやらその後ろに大貴族か王族の影があるらしい。それゆえ、王国でも手が出せない場所なのだという。

 そういうのは、どちらかというと軍の仕事じゃないのかなと思ったが、軍もそれどころではないらしく、本腰をいれてくれない。どうやら近くの中性子星域で、連盟軍の動きが活発らしいのだ。


 この宇宙は千個以上の人の住む地球(アース)があるが、我々が属する連合と呼ばれる集団と、敵対する連盟という組織がある。数百年以上も戦いを続けており、拡大しすぎてもはや手がつけられない状態に陥っている。特に中性子星やブラックホール、白色矮星域など超新星爆発の起きた場所には、ワームホール帯というワープ航法には欠かせない次元の穴が多数存在し、そのワームホール帯を使って多くの星々を行き来できるようにするため、両勢力がその星域での支配域を争っているのが現状だ。


 このため、軍は今、その連盟軍との戦闘準備にかかりきりで、王都の一部で行われている悪行まで手が出せないようだ。

 ゆえに、民間企業である当社にそんな依頼がきてしまった。無理難題の度合いが、前回の比ではない。


「裏社会を探れって、うーん、どうしたものか。こればかりは、アーシャさんを連れていくわけにはいかないよねぇ」

「そりゃあそうでしょう。すでに王国騎士団長として顔が知られた人を連れては元も子もないですから。我々だけで、やり抜くのです」

「律君、簡単にいうけどさぁ、その裏社会ってのがそもそもどこにあるのかすら分かってないんだよ」

「えっ、分かってますよ」

「えっ、なんで?」


 営業成績だけで見ると、律君は凡庸な営業マンの一人だった。が、どうして、調査能力に関しては圧倒的じゃないか。もうそんなことまで調べ終えていたというのか。


「もっとも、僕もそれを知ったのは偶然だったんですけどね。夜の王都の平民街を彷徨いていたら、偶然にも『アクセル』の売人に出くわしたんです」

「アクセル? なにそれ」

「この星の、麻薬の一種ですよ。飲めば疲労感が消えて、猛烈に力が湧いてくる。だけど、効能が切れるとその反動で、一気にやる気が落ちる。このため、依存性が強くて飲み続けると徐々に身体を蝕まれる。要するに、我々でいうところの『アヘン』と同じものですよ」

「まさか……買ったんじゃないよね」

「買いましたよ。もっとも、それを持って門の中には入れないから、こっそり王都の川に投げ捨ててきましたけどね」

「で、その話からどうして、裏社会の場所が特定できるのよ」

「アクセルを購入した時、売人に尋ねたんです。仲間を大勢、連れて行きたいから、ぜひそのアクセルがたくさん買えるところを知りたい、と」

「……ああ、だから買ったのね、その麻薬。でもさ、こっち側の人だと知って教えてくれるものかな」

「その通りですよ。そこで僕は、姿格好も王都の商人のフリをしたんです。しかも、多めに買った。だから相手もあっさりと信用してくれたんですよ」


 なかなかのやり手だな、恐ろしい後輩が味方になってくれたものだ。ともかく今夜、その裏社会のある場所へ向かうことになった。

 そこは、まさに文字通りの「裏」の雰囲気満載の場所だった。


 平民街の奥、アーシャさんが持っている地図上では大きな四角に「平民住居」とだけ書かれた場所。

 そういう場所、実は王都には何箇所かあるが、その一箇所は、とても単純な四角一つで描き表せる、そんな場所ではなかった。

 一歩足を踏み入れると、細い路地が迷路のように複雑に入り組んでいる。その路地を、まるで知り尽くしたかのように律君が右へ左へと曲がる。


「この奥が、麻薬の売人の総元締めがいるという場所、だそうです」


 ごくりと、私は緊張のあまり口の中の唾液を飲み込む。アーシャさんのような強力な剣士、魔術師がいるわけではない。が、そのため腕力頼みな連中が多いと聞く。フライパンなど、通用しない相手だ。そんな私は腰に抱えたカバンに、あるものを詰め込んでいる。

 そして、律君が指し示した狭い路地の奥にある扉に、手をかけた。

 ギィっと、軋んだ音を立てて扉が開く。

 一瞬、香辛料ともタバコとも思えるムッとした臭いが、顔面を襲う。

 そんな中に、私と律君は入る。

 大勢の人たちが、テーブルの上で怪しげな植物を広げ、先端のやや膨らんだ実のような部分にナイフを刺し込み、そこから滲み出る白い液を容器に集めている。

 ああ、これはまさに、アヘンだな。

 そんなテーブルの列の奥に、ターバンのようなものを巻き、濃いベージュ色の衣服を纏ってパイプタバコを咥えている人物が座っているのが見える。

 私は、思い切ってその人物の方へと向かう。


「なんだ、珍しい。星の国の者か」


 私と律君を見るなり、その咥えタバコの男はそう告げる。

 私と律君は、いつも通りの制服姿でここにやってきた。前回の律君のように、偽装はしない。それが不要だと、考えたからだ。

 下手に偽装するより、正々堂々と行った方が結果的には上手くいく。

 私はそう考え、敢えて制服姿で乗り込んだ。


「ここで、アクセルというのを売ってると聞いたので」


 で、私は正直に答える。当然、そんな麻薬を買うために来たわけではない。


「なんだ、まさかアクセルを買い付けに来たと?」

「いいえ、違います」

「違う? ならどうして、ここに来た」


 その総元締めらしき人物に名刺を差し出しながら、私はこう答えた。


「私、株式会社『テラダ』の社員で、倉田 美優と申します」

「クラタ ミュー? はて、どこかで聞いた名だな」

「我々の会社は主に、調理器具を扱う会社です。焦げ付かない特殊加工のフライパンや鍋が主力製品ですが、それ以外にも様々な商品を扱っております」

「そうだ、思い出した。お前、ちまたで噂になってる、騎士団長と張り合った『剣魔除けのミュー』だな」


 えっ、私にそんな二つ名がついてるの? いやいや、そんなことでいちいち感動している場合ではない。ここはいわば「敵地」なのだから。


「で、そのミュー殿が、何のご用で?」

「二つの用事で、参りました」

「二つ?」

「一つは、この裏社会を支配している貴族の方の名を、教えてほしいということ」


 この言葉を口にした途端、周囲で作業をしていた人たちがガタっと立ち上がる。各々の手には、あの植物に傷を入れるためのナイフがある。

 まさに私たちは、命の危機にあった。それほどまでに、ここではタブーな質問だ。それを知れば、生きて帰れるはずがない。が、ここを乗り切らなければ、その先の話は進まない。


「馬鹿正直だな。お前、そんなことをこの場で言って、生きて帰れると思ったのか?」

「正直がモットーの弊社ですから。なので、もう一つの提案をお持ちしたのです」

「もう一つの、提案? それが二つ目の用事というやつか」

「はい。そうです」

「で、なんだその、提案とやらは」

「あなたのところで、栄養ドリンクを売りませんか?」


 一瞬、その場の空気が固まる。なにを言っているのかという表情だ。心落ち着けるためか、タバコを吸ってひと煙吐き出した後に、総元締めが尋ねてきた。


「なんだその、栄養ドリンクというのは?」

「あなた方が今、売っているのは、やがて人々の健康を害し、死に至らしめる、そういう薬ですよね」

「そうだ。だが、王都には次々とアクセルに手を出す奴が現れる。常連がやがて死のうが、別に困ってはおらんよ」

「ですが、同じような効果を持ちながら、死に至らないものがあると知ったら、どうします?」

「何だと? おい、そんなものがこの世に……」

「あるのですよ、我々には。それが、栄養ドリンクという製品です」


 正直いうと、栄養ドリンクには麻薬ほどの絶大な効果はない。が、麻薬ほどではないにせよ頭が冴えるし、おまけに適量に抑えれば健康被害は出ない上に、常習性もない。そんなものが出回れば、果たして麻薬に手を出す者がこの先も出続けるだろうか?

 ついでに言うなら、律君の話では、ここの麻薬はあまり質の良いものではないらしい。だから、栄養ドリンクとさほど大きな差はないようだ。となれば、なおのこと栄養ドリンクはアクセルという麻薬と競合する製品となる。

 総元締めともあろうお方が、そんなことに気づかないわけがない。

 つまりはいずれ、彼らの商売が潰されることを意味する。ならば、それに代わるものを売らなければ、今のような商売は続けられない。


「……つまりお前は、俺たちが潰される前に、その代わりとなるものを持ってきたと、そう言いたいのだな」

「ご理解いただけて、幸いです。もちろん、条件付きですが」


 緊迫した時が、あのタバコの煙のようにゆっくりと、そしてどんよりと流れる。しばらくの間、考え込む総元締めは、やがて口を開く。


「……なるほどな、こちらにとちゃ、願ったり叶ったりな話だ。が、残念だが、俺はこの『裏社会』を仕切っているという貴族のことは知らない」

「えっ?」


 想定外の答えが、返ってきた。知ってて、それでもなお口止めしているのか、それとも、本当に知らないのか?

 が、次の言葉で私は、本当にこのお方が裏社会を操る貴族の名を知らないことを、確信する。


「だが、その名を知っている者ならば、知っている。それを教えるということなら、可能だ」


 言われてみれば、これほどの違法な場を仕切る大貴族が、こんな末端の商人に自身の名を知らせるわけがないか。間に誰かを挟んでいて、当然だろう。


「その条件で良ければ、その話に乗ることにしよう」


 うーん、どう考えても条件的には私の方が上なのに。だけど一方で、断れば命がない。状況的には向こうの方が上だ。


「はい、それでいいです」


 私は観念した。律君が心配そうに問いかける。


「いいんですか、倉田さん」

「まあ、一応、目的には近づけるわけだし」

「それはそうですが……」


 言いたいことはわかる。こちらの提案だけを受け入れて、結局は何の情報も出さないという可能性も考えられる。

 が、それならばそれで、我々には手がある。

 実に簡単だ。製造に必要な道具は、メンテナンスが必要だ。こちらの条件に合わなければ、メンテナンスを止めてしまえばいい。

 しかしだ、この総元締めが、それほど簡単に裏切るとは思えない。人間性云々ではなく、損得勘定だ。

 裏社会にまで、噂になっている者が、目の前にいる。

 そのつながりを得ることの大きさを、彼なりに計算しているはずだ。


「あの、総元締めさん」

「ああ、そうだ、俺はまだ名乗ってなかったな」


 私が話しかけるや、その総元締めさんがなんと、名乗り出す。


「俺の名は、マルチェロ。平民街でも、貧民の集まる王都の北部出身の男だ」

「は、はぁ、どうもよろしくお願いします、マルチェロさん」

「で、ミューよ、何か言いかけてなかったか?」

「ああ、そうです。持ってきたんですよ、その栄養ドリンクを」


 と言って、私は抱えていたカバンを置き、それを開いた。


「どうぞ、皆さん、飲んでみてください」


 そう言いながら、その場にいる一人一人に渡す。それらはアルミ缶で、当社の製品の一つでもある。

 が、あまりにも売れなさすぎて、生産終了に追い込まれようとしている品だ。ならば、マルチェロさんに製造権を渡し、ライセンス料をもらった方がマシだろう。


「……なんというか、甘い味に、どことなく刺激のある舌触りだな」

「即効性はないですが、しばらくすると効果が出てきますよ」


 半ば、半信半疑だ。だが、麻薬だっていきなり効果が出るものではない。多少なりとも時間差があると聞く。

 が、意外にも早く、効果が出始める。


「と、頭領! なんだか急に冴えてきましたぜ!」


 そんな声が、作業を続けている皆から次々と上がる。


「確かにな……俺もさっきから、やけに頭が冴えてる気がしている」

「そうなんですよ、それでいて、同じようなものが宇宙港の店ではたくさん売られてる、合法的なものなんですよ」

「これで、合法なのか?」

「そりゃあそうですよ、でなきゃ、私は売り込んだりしません」

「そ、そうか……確かにこれは、我々にとって脅威だな」


 この栄養ドリンクの威力を、実感いただけたようだ。そして続いて、律君の出番となる。


「それでですね、これを作るための機械がこちらになります」


 彼も抱えてきたカバンから、機械を取り出す。簡単に言えば、原材料を入れて缶を封入するための機械だ。


「うむ、なるほど。だが、これだとここにいる全員は必要なくなるな」


 それを聞いた周囲の者は一瞬、顔をこわばらせる。クビにされるのではないかと、戦々恐々だ。


「いえ、この機械だけで作れるものじゃないですから。意外と人手がいるんです」

「そうなのか?」

「まずは材料を加工し、それをこの機械に詰め込めるようにしなくてはなりません。ここにいる人だけだと、一台を回すのが手一杯ですね」

「なんだ、一台あれば、十分だろう」

「そうですかぁ? だって、王都で真っ昼間から堂々と売れるんですよ。たった一台で足りるはずがないじゃないですか」

「おい、まさかもっと人を集めろと、そう言いたいのか」

「作るだけじゃなくて、売る人も集めないといけませんね。そういう人、たくさんいるんでしょう、この街には」

「だ、だがな、アクセルにはケサの実というものから取れて、それを作っている者もいる。その者たちはどうするのだ?」

「栄養ドリンクも、それ用の植物を作る必要があります。それを代わりに作って貰えばいいんじゃないですか?」

「しかし、問題はこれをどうやって売るかだ。表通りに店を構えて売るなど、我々には経験がないんだが」


 マルチェロさんの言うのはもっともだ。店を構えること自体は、たいした事はない。が、問題はインパクトだ。客を寄せるには、インパクトが必要だ。おそらく、そのことを一番、気にしているはずだ。

 だから私は、こう言ってのけた。


「その栄養ドリンク、『アクセル』という名前で売ればいいんじゃないですか?」


 この提案に、さすがのマルチェロさんも持っていたパイプタバコを落とすほど驚愕する。


「お、おい! 麻薬の名前で売るやつがあるか! 確かにその名につられて買うやつ入るだろうが、体裁が悪いだろう!」

「何を言っているんですか。マルチェロさんはアクセルというものを、ずっと売り続けてたんですよね?」

「それはそうだが……」

「実はそれが合法的なものだったけど、大量生産ができなかった。が、大量に作る目処がついたので、大々的に売り出すことができるようになった。そういうことにしておけばいいじゃないですか」


 つまりだ、アクセルというのは最初から合法的なものだった。だから、その名前で売ってしまえ、というのだ。実際にはたくさんの犠牲者を出している麻薬だから、無茶苦茶な論理だ。だが、そのイメージを逆に利用する。

 こうすれば、彼らは過去に遡って訴えられる心配もない。堂々と「表社会」に出られる。もちろん、これまでのことを思えば倫理観に欠ける行為だと承知しているが、今の王都では綺麗事ばかり言ってられない。

 それを、綺麗事が言える世界に変えるんだ。

 これが、私がこの栄養ドリンクの名前をあえて麻薬の名前を使うべき、という提案の根拠だ。


「……まいったな、そこまでのそちらの手の内を見せられて、こちらも黙って返すわけにはいかないな」


 マルチェロさんが、そう私に語る。が、ちょっと待て。黙って返すわけにって……聞きようによっては、生きて帰さないとも聞こえるぞ。私は少し、身構えた。


「一つ目の条件だった、ここを仕切る大貴族の名を知る者、そいつの名を教えるという話だったな。今から、そいつの名を教えてやる」


 あ、そっちの話か。私は答える。


「は、はい、それで、どちら様なのですか?」

「ベアトリス・ド・ダルポン伯爵だ」

「えっ、伯爵? ということは、その方がここを仕切っている大貴族さまなのでは?」

「違うな。この伯爵は、あくまでもその大物と裏社会をつなぐだけの使いっ走りだ。裏社会に住むやつに、真っ正直に大物が名乗ってくるはずがねえ。その伯爵の裏には公爵か、王族ぐらいの大物がいるはずだ」

「は、はぁ……」


 驚いた。まさか貴族の名が出てくるとは思わなかった。貴族が使いっ走りとは、一体相手はどれほどの大物なんだ? 末恐ろしくなってきた。

 国王陛下にそそのかされて、とんでもないことに足を踏み入れてしまったのではないか。今さらながら、そう思うようになった。

 で、マルチェロさんと別れ、帰路につく。その途上で、私は律君に尋ねられる。


「倉田さん、本当にこれで良かったんですかね?」


 律君の気持ちも分かる。私だって、後味が悪い。とはいえ、正論を突き通すだけでどうにかなるレベルじゃない。それもまた、承知の上だ。


「ねえ、律君」

「はい、なんでしょう?」

「今すぐは無理だけど、少しづつ、変えていきましょう。私たちの会社がもたらすものは、幸せでなければならない。そう社訓にも書かれていたよ」

「そうですね。そんな社訓を皆、忘れかけてますけどね」


 暗い夜道で、空になったカバンを抱えながら、私と律君は宇宙港の街へと帰っていった。

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