#10 展示会
「うむ、見事であった。首謀者までは分からぬまでも、ダルボン伯爵の名が引き出せた事は大きいな」
「はっ、父上。仰せの通りにございます」
「しかし、あのアクセルという麻薬の撲滅まで果たすとはな。それとなく、王都の広場にそのマルチェロとやらの店を構えるための土地を与えてやろう」
「えっ、あの、陛下、よろしいのですか?」
「ただし、条件付きだ。その者はおそらく、裏社会に通じておろう。様々な権謀術数が、裏社会を通るというからな。その監視役を果たすというのならば、その程度のこと、目を瞑ろう」
なんとまあ、国王陛下自らが麻薬の密売人の総元締めを手玉に取るという暴挙に出た。が、それほどまでにこの王国の裏事情が複雑であることを知る。
ということで、私はアーシャさんと共に王宮を出る。
「しかし、よくまあミューとリッツの二人だけであの裏社会へ潜り込めたものだな」
「まさかアーシャさんを連れて行くわけに行かないですから」
「そうだな。私がその場に入った途端、皆、逃げてしまったであろうからな」
そりゃそうだ。王国騎士団長ともなれば、顔も特徴も知られているはずだ。一緒に行っていたら、マルシェロさんとは会えなかったかもしれない。
しかしだ、考えてもみれば、私は結構大胆なことをしたものだ。あの場に武器も持たず、ほぼ丸腰で麻薬密売人の総元締めと交渉した。よく生きて帰れたものだ。
もっとも、支社長は今回の件で、かなり文句を言ってきた。非合法な世界に飛び込むとは何事だ、と。要するに、正論を並べられた。が、現場にも行かずに正論だけ並べられても、はっきり言って困る。が、この件については、国王陛下より許しをいただいたため、さすがの支社長も容認せざるを得ない。
さて、あとは王族とその家来に任せておけば、いずれ大貴族が誰かが判明する……と思っていたのだが、そこでまた、思わぬ難題を突きつけられる。
「えっ、貴族が集まれるような場を設けられないか、ですかぁ!?」
またしてもアーシャさんから、国王陛下よりの提案が持ちかけられる。いや、提案というより、もはや命令だ。
「あの、そういうのっていわゆる『社交界』というやつじゃないんですか?」
「おい、陛下の前でダンボル伯爵の当主が、その大物貴族と接する姿を見せるはずがないだろう。現にベストリア殿が社交界で自身より上の階級にあたる公爵や王族と接している姿を目撃した者はいないと聞く。だからこそ、王宮ではなくその外で、貴族たちを招いてその動きを探る場が必要なのだ」
ああ、なるほどね。敵もそれほど甘くないということか。謀を考える奴は、実に用意周到だ。
うーん、困ったなぁ。王族関係で振り回されすぎて、正直、本業が疎かになりつつある。貴族の動向調査よりも、鍋やフライパンを売って歩きたいんだが。でないと、いよいよ支社長からクビにされかねない。
アーシャさんに頼ってばかりもなんだから、そろそろ大々的に展示会でも開いて、当社の製品を大っぴらに見せる場を作りたいと考えていたところだったのに、貴族の集まる場なんて急に作れと言われても……
と、考えたところで、私はある名案にたどり着く。
「いいですよ。その貴族の動きを探れる場を、作ります」
「おお、そうか! で、どうするのだ?」
「宇宙港のショッピングモールのすぐ横に、大きな展示会場ができたんです」
「展示会場?」
「はい。で、実は当社の製品をその場で見ていただき、商談をする場を設けようと考えていたところなんです」
「そうなのか。で、それと貴族の集まる場と、どういう関係が?」
「お得意様のほとんどが、王国貴族様ばかりですからね。他にも豪商人や金持ちも招待します。当社製品は幸いにも人気がありますから、きっと大勢来るでしょう。さすがのダンボル伯爵も、この街の中なら馬脚を表すのではありませんか?」
「なるほど、それは名案だ」
「では早速、すべての貴族や豪商人たちに、案内状を出しますね」
うん、我ながら本当に名案だと思った。何せ、貴族様と商談ができる上に、さらに貴族同士の動向を探ることも可能だ。宇宙港横の街の中、ということもあり、王都よりも警戒心が緩むはずだ。となれば、おそらくは誰かと接触することになるだろう。一石二鳥というやつだ。
で、この提案、支社長にはすぐに認められた。当然だ。自身を売り込む絶好のチャンスだからな。当然、本社に多数の応援を呼び、可能な限り多くの製品を展示する場を設けてもらえることになった。
それから一週間ほどが大変だった。展示会の準備に加え、通常の営業活動と発注された品の納品作業、加えて、マルシェロさんの「アクセル」の店の立ち上げまでやった。
「おい、大丈夫か、ミューよ」
「は、はい、アクセル飲んで、頑張りますから……」
なんとまあ、自分が売り込んだアクセルを、自分が真っ先に消費する羽目になるとは思わなかった。いやあ、本当に効くわ、このドリンク。
そんな元麻薬の名前を冠したドリンクに頼りつつも、どうにか激務を乗り越えた。
そして迎えた、展示会の当日。
『皆様、ようこそお越しくださいました! 株式会社「テラダ」のアレッシア支社の支社長を務めております、寺田 雄二と申します! 本日は当社の製品だけでなく、その製品を用いて作られた料理も堪能しつつ、ご覧下さい!』
この支社長の第一声を受けて、展示会が始まった。皆が拍手を送る。この雰囲気、支社長も鼻が高いだろうな。
で、この展示会だが、調理器具を中心に扱う会社だけに、それを使って料理を振る舞う、というのが中心になっている。
具材は、協賛してくれる食材メーカーから提供してもらった。立食となるため、手軽に食べられるサンドイッチやハンバーガー、ピザのような形で提供されるものが多い。
ついでに、ワインも振る舞われた。これはアレッシア王国産のワインだ。陛下から紹介された豪商人にお願いして、数樽ほどを買い付けて振る舞った。あちらこちらで製品のデモと共に、料理が振る舞われる。
まあ、一種の社交界のような雰囲気だな。それを見た貴族の何人かが、早速、品を発注する姿が見られる。
我が社の製品は、一般向けのものばかりではない。一昨日に開店したばかりの栄養ドリンク販売店「アクセル」を作るために使われているドリンク封入機や、自在に鉄を成形できる重力子成形機なども、機械メーカー協賛で販売している。目の前で鎧や鍋を自在に作る重力子成形機は特に関心を呼び、多くの貴族たちがその驚きの機能に目を丸くしていた。
が、私とアーシャさんは、会場の上にある、警備室にいた。
「どうだ、ダンボル伯爵の動きは?」
「はい、何人かの方と接触が見られますが、もっとも行動を共にしているお方の顔写真がこちらです」
この会場には、各所に設置された防犯カメラと顔認識を組み合わせ、今、誰がどこにいるかがわかるようになっている。と言っても、名前まではわからないため、五桁の番号が割り振られているだけなのだが、ダンボル伯爵だけは事前にその顔写真を入手し、それを元にトレースできるようになっている。
そのダンボル伯爵と行動を共にしているお方の番号を探り、その顔を割り出そうというのだ。顔識別機上は「〇一三二二番」という番号をふられた方と、ずっと接触している。その顔を、アーシャさんが見てこう叫ぶ。
「このお方は……エメリ一世・ド・シャテルロー様だぞ!」
どうやら、アーシャさんの顔見知りの方だったようだ。
「あの、やはり公爵家のような、大貴族なのでしょうか?」
「貴族どころではない、王族だ!」
「えっ、王族!?」
どうやらシャテルロー家というのは現王朝であるアレッシア家の親戚筋にあたる家柄で、一応、王族とされているそうだ。それほどのお方が、ダンボル伯爵と行動を共にしている。
「社交界で、この二人が会話する姿などみせたことがないと聞いている。いや、そもそも伯爵が王族とこれほど長時間、共に行動するなど、普通ならばあり得ぬことだ」
「そうなのですか?」
「当たり前だ。身分が違いすぎる。せいぜい挨拶できるのが精一杯な身分差だ」
あー、そういう貴族の格式もあるんだ。言われてみれば、私と支社長みたいなものだよね。って、うちの支社は社員が少なすぎて、いつも顔を合わせてますが、普通ならば課長と社長くらいの関係か。
「ど、どうしますか、アーシャさん」
「まずは、アンリ様を介して陛下にご報告だな。それから、裏取りをせねばなるまい。なにせ相手は王族だからな。無闇に嫌疑をかけるわけにはいかない」
「でも、そもそもどうして裏社会なんてものを、王族の方が?」
「それは二つの理由が考えられる。一つは、資金だ。そしてもう一つは、混乱を作るためだろう」
「あの、その二つが合わさると、何か起きるんですか?」
「決まっている、玉座転覆だ」
それを聞いて、私は一瞬、背筋が凍った。そうか、王族である以上、王座を奪える位置にいる。となれば、莫大な資金と裏社会の人々を使い、この王都を混乱させて、クーデターを起こそうというのか。
なんか、昔の中世のおどろおどろしい権力闘争のようだな。って、そういえばこの星はまだ、そういう文化レベルの星だった。もしかすると今、当社の製品をその混乱のために使えないかと画策しているのかもしれない。
特に、あの重力子成形機の前で、熱心に担当者に質問をしているようだった。
あれが作れるものは、まさに鎧や盾といった武具だ。剣も作れないことはない。
実際にこの展示会で、ダンボル伯爵の名で重力子成形機が三台、発注されていたことが判明する。
「ど、どういたしましょう。納品を遅らせることはできますが」
それから一週間後、私は王宮に呼び出され、これらの情報を報告すべく陛下に謁見することとなった。
「いや、構わぬ。そのまま何事もなかったかのように品を納めよ」
「は、はい。ですが、それを使われたなら……」
「そのための、裏社会の探り手がいるのではないか?」
ああ、そうだった。マルチェロさんなら、裏社会の動きを捉えられる。しかし、今や表通りに堂々と店を構えてしまったし、大丈夫だろうか?
と思い、そのまま今度は、例の裏社会のあの迷路の奥の扉の向こうへと向かった。マルチェロさんに会うためだ。
「ああ、大丈夫だ。俺は表のあの店にはあまり関与していないことになっている」
「えっ、そうなのですか?」
「そういうことにしておかねえと、陛下のほしい裏の話が聞き出せねえってもんだろう。だから俺は、相変わらず裏の仕事をしていることになっている」
周りを見渡すと、あのケサの実が並んでおり、その周りではいつも通りの麻薬を作る作業が続けられている。
もっとも、ここで取られた麻薬の材料は、地球七八八の医療機関が買っている。痛み止めのモルヒネの材料として、ここから買い付けている。こうすることで、麻薬として出回るのを防いでいるわけだ。が、そのことは当のダンボル伯爵も、そしてその上で伯爵を操っていると思われるシャテルロー家は、知る由もない。
「で、早速だが、お前さんの欲する情報とやらを掴んだぞ」
「えっ、本当ですか?」
「ああ、なんでもこの館の東にある『奴隷館』の者を使い、王都内で暴れさせる算段をしているとのことだ。んで、俺のところにアクセルをたくさんよこせと、そう伯爵からの手紙が来たところだ」
「えっ、この裏社会では、奴隷も売られてるんですか?」
「そりゃそうだろう。あんな非合法な商売、ここじゃなきゃできねえ」
王国では、人身売買そのものが禁じられている。が、バハナ王国との戦いで捕えられた兵士や近隣の住人が、この裏社会にて奴隷として売られているそうだ。当然、ここは敵国の真っ只中。武器を持たせれば、暴れ回ってくれるに違いない。アクセルという麻薬は、その際の手助けになる。麻薬という者を使うと恐怖心が消えるから、そういう用途にはピッタリというわけだ。
彼らが勝とうが負けようが、シャテルロー家には関係ない。混乱さえ、作り出せればいい。その混乱に乗じて、王宮を乗っ取るつもりのようだ。
まさに、王国の危機だ。
それは同時に、もはや中小企業のいち平社員が抱えていいような案件ではなくなっていた。がやらなきゃいけない。何というブラック企業だ。




