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#7 王族

「うむ、さすがは噂に聞く見事な品じゃ。よし、まずは千品、買おうではないか」

「ありがとうございます、きょ、恐悦至極にございま……」

「はっはっはっ、そこまで硬くならなくともよい」


 思ったよりも、物分かりの良い感じの方だった。第二王子だと聞くが、王位継承権のある兄よりも聡明で、むしろ王位を継ぐのはこの第二王子であるアンリ様がふさわしいのでは、という声もあるほどだ。

 が、当のアンリ様は、王位継承にはまったく無関心だという。面倒な政治よりも、民の暮らしを豊かにするための研究や、商人たちとの交流に熱心だ。兄がトップを支え、弟が国の土台を支える。もとより、そう考えている節がある。

 それゆえに、私の売っている調理器具の話を聞きつけて、アーシャさんを介して私を呼んだ。私が持ち込んだ銀色に輝くフライパンを一目見て、それが美しく優れた製品であると見抜いていただけたようだ。


「ところで、包丁の類いも扱っておるのか?」


 そんなアンリ様が、私に問いかけられる。すると雄二支社長がしゃしゃり出て、こう告げる。


「はい、鍋やフライパン、そして包丁に電磁調理器まで、あらゆる調理製品がそろっております」


 さりげなくアピールを欠かさない社長の息子だが、アーシャさんはしれっとこう言ってのける。


「このとおり、ミューは有能な手下に恵まれております。何なりとお申し付けいただければ、殿下の望みにかなうものをすぐにみつけて御覧にいれましょう」

「うむ、心強いぞ、カライ騎士団長よ」

「はっ! ありがたきお言葉、我が王国騎士団として大変、名誉なことにございます」


 アピールという点では、アーシャさんの方が上だな。これには雄二支社長も黙るしかない。正確には、私の方が手下なんだけどなぁ。今や支社長の方が手下扱いだ。


「まさか、アンリ様にまで目をかけられるとはな。さすがはミューだ」


 帰りの馬車に揺られながら、アーシャさんはご満悦だ。それはそうだろうな、王国騎士団長と言えど、第二王子とはいえ王族でも国王陛下直系のお方に直接お会いできる機会など、早々作れるはずもない。しかも、とっておきの品を手に入れられてアンリ様を上機嫌にすることができた。これ以上にない収穫だった。

 が、この状況、私の隣に座る支社長にとって、面白いはずがない。


「何をどうやったら、私がお前の手下にされてしまうんだ! ちゃんと立場を説明すべきだろう!」


 支社に戻るや、支社長はいきなりご立腹だ。気持ちは分かる。が、それだったら最初からご自身で切り拓けばよかったのでは?

 こう言っては何だが、私が自社製品の売り込みに上手くいったがゆえに、次期社長の座を確固たるものにするため、その成績稼ぎのために志願し、やってきたに違いない。さすがにこの問いには、いつも通りの答えで返すわけにはいかない。


「命がけ、だったのです」

「命がけだと?」

「はい、そもそもアーシャさんとの出会いのきっかけも、アーシャさんから斬りつけられたんことだったんです」

「……なんで斬りつけてきた相手が、今、あれほど親交を深められているんだ?」

「その時持っていた片手鍋の特殊加工が、私、アーシャさんの剣と魔法を弾いたんです。それでアーシャさんが、私にこの鍋と同じ材料で鎧を作れないかと、そう告げられたんです」


 さすがの支社長も、百着もの鎧の注文があったことは知っていたようだ。それが、こういう経緯でなされたものだと知る。


「が、それだけのことで、王族の耳に入るほどのことになるのか?」

「あの、鎧を作る見返りに、製品を買っていただけそうなお客様を紹介いただければと持ち掛けまして……」

「それでいきなり、あれほどの注文が舞い込んだというわけか」

「はい。もちろん、手入れの方法もお教えして、今や王都や辺境の街でも使っていただけるほどになったのです」

「おい、なんで手入れ方法など教える必要があるんだ? そんなもの、取説を読めといえば終わりだろう」

「そうは参りません。第一、こちらの方々は我々の取説の文字が読めませんし、なによりも手入れの大変さを伝えておかなければいけないと思いまして……」

「お前、それ、本社でやって最下位になった売り方ではないか」

「こっちでは、それがかえって信用につながってるんです! むしろ、この星にある鉄むき出しの調理具の手入れと比べたら楽だと、かえって評判なのですよ」


 私は、私の信念を貫き通したことを話す。それが、ここでの売り上げに貢献していることもだ。だが、支社長はどうも私のやり方が気に入らないらしい。


「そんな悠長な売り方をしていては、商機を逃しているのではないか!? そんな営業では話にならん!」

「そうは参りません! なにせ、こちらの方々にとっては、たかが調理具ではないのですよ、支社長! 命にかかわることだってあるんですから」

「まるで命をかけてきたかのような物言いだな」

「先ほども申し上げたではありませんか。本当に命かけてるんです! しかも二度も! その度に私は、当社製品に救われているのです」


 といって、バハナ王国での戦闘の話もした。ここでこの品が飛ぶように売れているのは、まさにあの特殊コーティング加工のおかげ。それが剣も魔法も弾き返してくれる、その信用があっての売り上げだ。伊達に命がけなどと言っているわけではない。


「……ま、まあいい、どのみちもう一人、営業部から派遣されてくる。そいつと共に、品を売り歩け」

「はい! そうさせていただきます!」


 どうやら支社長は、直接営業をかけることを諦めたようだ。私と共に行動する限り、手下呼ばわりされてしまう。それが彼のプライドを深く傷つけたようだ。

 が、そのおかげで、私としてはやりやすくなった。


 で、その二日後、やってきたのは営業部で私の一つ年下の後輩、鈴木 (りつ)。律君は後輩でありながらも、私よりも成績は上だった。もとより、私よりも売上が低い営業マンなんていなかったけどね。

 ただ、それほど上というわけではない。私と同じで、ちゃんと手入れの手間の話を惜しまなかった。それでも、なんというか製品に対するこだわりと熱意がすごくて、それでどうにか売り上げを伸ばしていたようなものだ。

 パートナーとしては、最高である。


「本日付で、アレッシア支社に配属となりました、鈴木 律です」


 自己紹介するも、元々が営業部の二人しかいないので、紹介は余計だった。これでやっと、三人体制。あと二日後に、トラック二台とその運転手が到着する予定だ。

 なお、現地生産が可能となるのは、まだもう少し先になりそうだ。成型機の手配がまだできていない。


「よし、では早速、営業に向かってもらう」


 そう言いながら、この狭いオフィスの三分の一ほどを占める大きな机と椅子にふんぞりかえる支社長が、我々二人に命じる。当然だが、律君は不安げだ。


「あの、いきなり王都へ行かれるんですか?」

「当たり前じゃない。ここにいたって、売れないんだから」

「それはそうですけど、倉田さん、たった二人だけで向かうのです?」

「まさか。向こうに頼りになるお方がいるの。で、今日もその方と一緒に貴族家を回ることになっててね」

「はぁ、倉田さん、さすがですね。もうそんな人脈を作られていたんですか」


 うん、そうだよ。命無くしかけたけどね。それはともかく、二人はタクシーで門まで向かい、そこで王都レイバンに入る。


「ミューよ、やっときたか」


 さて、いつも通りにアーシャさんと合流……するのだが、ちょっと表情が暗い。何か、あったのだろうか?


「あ、あの、アーシャさん、どうかされたのですか?」

「うむ、少し困った話を、アンリ様から受けておってな」


 なんだろうか、アーシャさんが困るなんて、相当なことだ。が、その横から律君が顔を出す。


「あの、倉田さん。こちらが一緒に回られるというお方ですか?」

「あ、ああ、そうだった。忘れてたね。こちらは王国騎士団長のアーシャ・カライさんというお方で、剣と炎魔法の使い手なの」

「えっ、魔法が使えるんですか!?」


 私がアーシャさんを紹介すると、律君は目を輝かせる。

 そりゃそうだな、思えば彼は、社内でも屈指のアニメオタクだ。現実にファンタジー設定が存在する地に足を踏み入れ、心踊るのも無理はない。

 もっとも私は、その炎魔法で命奪われかけたんだけどね。


「なんだ、一昨日まで一緒だったあの手下はどうしたのだ?」


 アーシャさんが、訝しげな顔で律君を見ている。ああ、そうだった。支社長を私の手下だと思って譲らなかったからな。が、今回は正真正銘、私の部下だ。


「ええとですね、本社から新しくきた鈴木 律という者です」

「はい! 本日付で、この宇宙港内のアレッシア支社へ転属になりました、鈴木 律と申します! 倉田さん同様、ご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします!」

「おお、先日の手下よりもよほど鍛えがいのありそうなのが来たではないか。うむ、私は王国騎士団長のアーシャと申す。リッツとやら、以後、頼んだぞ」


 どうも私たちの名前は、アーシャさんには呼びづらいらしい。私、「美優」は「ミュー」で、「律」は「リッツ」か。だが、その呼び名、彼は大いに気に入ったらしい。

 それにしても、律君は大きなカバンを抱えている。私はフライパン一つだが、彼は何をそんなに持ってきたのか? まあいいか。とりあえずはアーシャさんの話を聞こう。


「ところでアーシャさん、先ほど、アンリ様より困った依頼を受けたと話してましたが」

「おお、そうであった! いや、困ったことになった」

「どのような困り事でしょう? よろしければ、お話を聞かせていただいてもよろしいですか?」

「うむ、実はな……」


 馬車に乗り込み、アンリ様のいる王宮の一角へと向かう中、話を聞かされる。

 それは、アンリ様の正室である、イゾルデ様に関することであった。

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