#4 到着
さて、一日に五百から二千個ほどの注文を受け続ける中、ついに第一便が到着する。最初の二日間で得た三千五百個の調理器具と、百着の鎧だ。
それをトラックで門の外まで運んでもらうよう、運送業者を手配した。
が、そこで私はとんでもないことに気づいてしまう。
「ちょっと待って……鎧って、武器の一種だよね?」
そう、こちらの宇宙港の街と王都の間で、武器類の持ち出しは原則、禁止されている。それを輸送するためには、軍関係者から特別な許可をもらわないといけない。
当然といえば、当然だ。民間企業が勝手に武器を送ることは、この王都にあらぬ争いの種を植え付けてしまうことになりかねない。すでに我が星から技術供与として幾つかの武器、例えば拳銃やビーム砲を搭載した人型重機などが送られ続けているが、それは王都側にきちんとした管理者がいて成り立っている。
が、こちらには、そんな管理者がいない。
頼むとすれば、あの女騎士団長だろうが、その手続きには時間がかかるだろう。
ああ、しまった、もうちょっと早くに気づくべきであった。が、時すでに遅し。多数の鍋やフライパンと共に、鎧も送られてしまった。私は門に向かい、出庫手続きをする。
「あ、あのぉ、実はですね、この中に鎧が百着、入っているんですが……」
私は正直に申告する。すると、トラックの荷台の中に入り込み、検査員が入念にその鎧を調べる。
が、意外なことに、あっさりと通されることになった。
「えっ、いいんですか!? でもこれ、防具ですよね?」
「それはそうだが、別に武器というわけでもないだろう」
「で、ですけど、戦いに使う物であることは確実ですよ。いいんですか?」
許可が下りたのだからすんなりと通ればいいものを、私は念入りに確認する。すると、検査官がこう告げた。
「そもそも、この星でこの防具が使われることなど、起きなくなるだろうからな。別に構わんよ」
実にそっけないというか、楽観的というか、そう返された。言われてみれば、我々の持つビーム兵器やシールド防御を前に、この鎧も、この星の魔法など脅威にもならない。それを防ぐための防具など、使われることもなく、ただ騎士団を華麗に着飾るための象徴としての意味合いしかないかもしれない。
と、いうことで、まずはその鎧を届けるため、トラックで王都騎士団がいる駐屯所に向かった。普段、あまり見かけない巨大な馬のない車が石畳の道の上を走る姿を見て、周囲の人々は目を丸くしてこちらを見ている。
「や、やっぱり、目立ちますよねぇ……」
「ま、その通りだが、俺はもう慣れてきたよ」
と、トラックの運転手がそう私に答えた。すでに何度も王都の中を走っており、慣れた操作で目的の場所まで向かう。
心細い。正直言って、とても心細い。我が社の社員はおらず、このトラックもその運転手も、異業種他社から手配したものだ。何軒か電話をかけて、ようやく一軒、運び手を見つけた。
が、そんな運転手も、騎士団の駐屯所へ来るのは初めてだった。
「はえ〜っ、これが王都の騎士団様がいる建物かぁ」
そう、意外にも立派なんだよなぁ、この駐屯所。外から見れば、まるで巨大な屋敷のような風格だ。その中は、訓練所に宿舎、そして会議場に王族との謁見の間もあるという。
「おお、やっと届いたか! 待ちくたびれたぞ!」
トラックの姿を見て、嬉々として駆け寄るのはアーシャさんだ。
「あ、あの、アーシャさん、今から鎧を出しますので、しばしお待ちを……」
「そなたが出していたら、時間がかかるであろう。こちらには百人もの鍛え上げられた騎士たちがいるのだ。その者に直接、受け取らせた方が早い」
というので、私はトラックの荷台の中で番号を読み上げ、その札をもつ騎士に直接、引き取ってもらうことになった。
「三十五番の方!」
「おう、俺か」
「この木箱の中に入っています。一度持ち出してもらって、確認してもらえますか?」
木箱の中には、鎧は当然ながら、それを手入れするための洗剤とスポンジも一式、入っている。通常の調理器具として使った場合は、週に一度、手入れが必要だが、そういえば騎士の鎧は火にかけるわけではないし、そこまでの手入れは不要かもしれない。
が、どちらにせよ、百着だ。一つ一つ呼び出しては、それを運び出してもらう。さらにそれを確認してもらい、違うものが届いていたら返品してもらい、再発注する。
幸いなことに、百着とも全てきっちり、注文通りのものだった。この時ばかりは、当社の工員たちに感謝するばかりだった。きっちりした仕事で、頭が下がる思いだ。
で、その後、六つの貴族に製品を渡すことになっている、計三千五百個の調理器具だが、たくさんの馬車がこの駐屯所にやってきて、直接受け取りにやってきた。
「こ、これがパウロ辺境伯家の品になります」
「うむ、まずは受け取ろう。品は領地にて確認させてもらおう」
「あ、あのですね、使い方の講習を明日にでも行いますので」
「承知しておる。待っておるからな」
そう言って、三台の馬車に乗せて運んでいく。そんな具合に、六つの貴族家にそれぞれ、品を渡す。
一箇所でいっぺんに引き渡しが出来たのは、こちらとしてはありがたい限りだ。トラックの運転手も、何箇所も回らずに済んだ。
「それじゃ倉田さん、次の便でもよろしくな!」
「はい、ありがとうございます!」
こうしてトラックを見送りつつ、私は深々と頭を下げた。走り去るトラックを見送ると、今度は駐屯所の中に入る。
「はい、それではこの鎧の手入れ方法をお教えいたします」
と言って、私はまず、薄汚れた鍋を取り出した。もちろん、私自身は調理などしていない。綺麗な製品では、手入れの効果が見せられない。たまたまショッピングモールで当社製品を使ってくれているお店で酷使されている両手鍋を借りて、それを使って手入れ方法を教えることにした。いい感じに汚れている品だ。
「このように、毎日業火にさらされて、ゴリゴリとコンロや杓子、レードルに擦り続けると、このように表面が薄い黄色に変色してしまいます。これを元に戻すため、この洗剤とスポンジを使います」
そういって私は、洗剤をキャップに注ぎ、それを鍋の表面に垂らす。それを水で濡らしたスポンジで、満遍なく擦り付ける。
この洗剤にはコーティングの修復剤も入っているから、綺麗に磨いた後は、嘘のように綺麗になる。こうすればまた一週間、酷使され続けても平気な調理器具に戻る。
再び鏡のような銀色を取り戻したその両手鍋を見て、「おおーっ!」と歓声が上がる。先ほどの薄汚れた鍋が、まるで魔法のように輝きを取り戻したのだ。
「うむ、実に素晴らしい素材であるな。これならば、バハナ王国の剣も魔術も恐るるに足らずだ!」
「おおーっ!」
皆、ピカピカの鎧を纏いつつ、騎士団長と共に歓声をあげる。いやあ、そんなにすごいことなのかなぁ、と思いつつも、これまでの労力が報われた気分だ。
「さて、後は諸侯らの料理人に、同じ手入れ法を伝授せねばならぬな。それから、新たに二千個の注文と、それ以外の貴族、いや王族にも売り込まねば」
相変わらず、熱心なお方だ。私はもう、くたくたですけど。気づけば一人で発注し、輸送手段を手配、門での出庫手続きに引き渡し、そして手入れ方法の教育。
これ全部、一人でやってるんですよ。しかも、安月給で。睡眠時間を削りながら、私はどうにかアーシャさんの過酷な注文要求に応え続けている。
過酷な労働環境だ。が、今までとは明らかに違う。
そう、これほどまでに当社の製品を喜んでもらえたことは、未だかつてなかったことだ。地球七八八でもお客さんに喜んでもらえている姿を目にしていたが、こちらの歓喜具合たるや尋常ではない。そりゃあ、命かかってますからね。
おかげで、私の疲労感も吹き飛んでしまった。騎士たちの喜ぶ顔が、私を元気にさせてくれる。いやあ、大変なことはあったけれど、この星に来て本当に良かった。
「よし、ミュー殿! 今日もあと三軒、売り込みに回るぞ!」
が、そんな私を再び地獄のどん底に叩き落とす女騎士団長がいる。どうしてこのお方は、これほど鍋の売り込みに熱心なのだろうか。再び、疲労感が戻ってきた。
その日もまた、深夜まで働く羽目になる。次の便の輸送手配に出庫手続き書類の作成、そして今日の注文分の発注。本社ではおそらく、予想外の注文に大喜びのはずだ。
なにせ、これほど安い給料で、これほどの大量注文をもたらしてくれる営業マンは他にはいない。かつて最下位が当たり前だった私が、ここ数日で、他の営業マン全員分の一ヶ月分の受注を超えている。
でも、私は言いたい。
せめてもう一人、来てはもらえないだろうか。もはや、私一人でどうにかできる仕事量では無いぞ。




