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#30 教練場

 久しぶりに、私は領地に立つ。


「領主様、今日はどのようなご用件で?」

「ええとですね、軍の教練場を作ることになったんです」

「教練場?」

「簡単にいうと、騎士団の訓練場のようなものですね」


 そう私が代官のエマニュエルさんに話すと、周りからは歓声に似た声が上がる。それはつまり、騎士団が常駐してくれるようなものだと、彼らは理解したからだ。

 が、薄々勘付いてはいたのだが、その場に同行してくれたアーシャさんに、私はふと疑問をぶつける。


「ところで、どうしてこれだけ隣国に接している街なのに、常駐する兵士がいないのですか?」


 これに対するアーシャさんの答えは明快だった。


「それは、お前が武器を整え、兵を編成していないからだろう」

「えっ、領地内の兵士って、自身で雇わなきゃいけないんですか?」

「当然だろう。なればこその貴族だ。王国騎士団というのは、その兵士らの手助けをするという組織に過ぎない。王国防衛や侵攻のために存在する組織ではあるが、基本的には陛下の命なしには動けない」


 ああ、そういう仕組みなんだ。だけど、それならば以前のボアルネ男爵はどうしていたのか?


「それがですね、私からの再三の武具の要請にも応じてもらえず、だったのです。せめて剣だけでも送ってもらえないかと嘆願したのですが、それも叶わず、でした。こう言っては何ですが、こちらに回すほどのお金がなかったのでしょうね、先代は」


 やっぱり、そうだったんだ。それをそのまま引き継いでしまった私は、ここの文化に無知なおかげで、結局、兵士は編成されなかった。


「まあ、兵士といっても、要するに領民だがな」


 その話を聞いていたアーシャさんが、ぼそっと「兵士」というものの正体を私に教えてくれた。


「えっ、どこかから専属の兵士を雇うとかではないんですか?」

「そんなわけないだろう。自分の土地は自身で守るのが当然だ。だから、代官は今、武具を要求したと、そう申しておったであろう。領民がすなわち『兵士』になるから、そのための武器を送れ、という意味だ」

「それじゃあ、パニッシュ王国から攻めてきた千人の兵士って……」

「間違いなく、多くは国境近くの街でかき集められた民だろう。彼らに剣と弓を与え、我が王国に進撃してきた。だが、たとえ烏合の衆が千人いようが、訓練された我が騎士団の敵ではない。だから戦いは騎士によってなされるようにと、暗黙の了解で決まっておるはずなのだがな。先日の隣国は、まさにその形式を無視し、領民の兵士と指揮官だけといういびつな侵略であった。実に許しがたい」


 へぇ、兵士って、そういうものなんだ。騎士団のように戦闘専門の階級があって、その人たちが戦いに出る者だとばかり思っていた。

 が、実態は、街を守るための兵士は基本的に領民だ。それを、王国騎士団が支援する。これが、この星での「(いくさ)」というものらしい。

 ところがだ。私がボアルネ男爵家を引き受けてここの領主になり、さらにそこに艦隊基地を建設した。そりゃあ街の人たちもびっくりだろう。

 なにせ、「騎士団」を常駐させるようなものだ。専任の軍隊が、常駐する。領民にとっては、これ以上心強い存在はない。

 ところで、ここにも王都ほどではないものの、宇宙港と併設する街が作られた。高い壁で囲まれたその街には現在、七百人ほどの軍人と数隻の駆逐艦が入れ違いで常駐しているが、近々、軍民合わせて一万人ほどが住むことになっている。

 となると、王都レイバンとの間に定期便空中バスが走ることになるから、私としても行き来しやすくなる。そうなったら、領地に通いやすくなるなぁ。

 で、教練場は戦艦用ドックの作られたあの小高い山のそばに作られることになった。予想以上に広い土地が必要で、そこでは人型重機の格闘戦や軍事工作訓練が行われることになっている。おまけに、上空では模擬空中戦も実施される。そりゃあ広い土地が必要なわけだ。


「いやあ、大きな教練場があれば、隣国が攻めてこようとは思わなくなりますよね」


 私は井上大尉に話す。が、彼はやや顔を曇らせて、こう私に告げる。


「そうですね。ですが問題は、内部なのです」


 そういえば、司令部でも何やら不穏なことを言っていた気がするな。どういうことだろう? 内部に、問題?


「あの、一体何が起きるのです?」


 だが、その私の質問ははぐらかされる。


「今は、明確に答えられない。が、今夜あたり、動きがあるはずです」


 えっ、今夜? どうしてそんなことまで把握しているんだろうか。


「ともかく、今夜は警戒してください。では」


 そう私に告げると、井上大尉は私に軽く敬礼し、そして街の中心に作られた軍の出張所へと向かった。

 残された私は、例の店でフライドポテトを食べながら、考える。

 問題は、内部だと言った。ということは、我々の星から来た人が、この教練場を警戒しているということか。でも、なぜ?

 しかも分からないのが、なぜ井上大尉は私に警戒を促したのだろう。それも、今夜に動きがある? どういうことだ?

 明日、予定されているのは、教練場設置に向けた契約の締結だ。明日以降、いよいよ本格的に教練場の建設が始まる。と言っても、訓練場だから、簡素な宿舎用の建物と計測機器があれば完成する。実に単純な施設だ。

 まさかとは思うが、そんなものを阻止するために私を?


「……ミュー、ミュー!」


 その時私は、アーシャさんに呼ばれていることに気づく。


「あ、アーシャさん」

「どうした、ぼーっとしていたぞ。何かあったのか?」

「ええとですね、実は……」


 私は、井上大尉から不可解なことを言われたことを話す。それを聞いたアーシャさんは、何かを感じたようだ。


「実はな、王国にもあるのだよ」

「あるって、なにがです?」

「ミュー、お前を排除しようとする貴族が、だ」


 えっ、私を排除? でも、なんで?


「理由は言うまでもないだろう。他国どころか、星の国からやってきて、挙句に貴族となった。それを妬ましいと思う者がいても、おかしくはない」


 なるほど、そういう理由なのね。そりゃあ貴族にとっては面白くないだろうな。なにせ、伝統ある王国貴族の家を一つ「乗っ取った」ようなものだから。

 が、それをお決めになったのは、あくまでも当時の国王陛下、今の上王様だ。そんなことで恨まれても困る。


「ともかく、そういうことなら話は早い」

「早いって、何がです?」

「私とともにいれば、いざという時、守れるであろう」


 えっ、私、アーシャさんと一夜を共にするの? いやまあ、別に構わないけど、何となく緊張するなぁ。


「しかし、この街には宿が一つしかない。せめて騎士団駐屯所でもあればよかったのだが」


 うーん、さすがに私は、他の騎士たちと共に寝る勇気はないなぁ。いや、彼らが何かをするとは思わないけど、なんとなく、ね。

 で、私とアーシャさんは同じ宿の部屋で寝ることとなった。


「ところで、アーシャさんは男爵になられたんですよね」

「ああ、そうだ。私の家名であるカライを、そのまま男爵家の家名としていただけた」

「カライ男爵様かぁ」

「それを言ったら、お前だってボアルネ男爵だろうが」


 それを聞いて、私は思わずこう尋ねる。


「と、いうことは、お家を継ぐためにはどなたかと結婚し、子を儲けなくてはならないですよね」

「はぁ? 何が言いたい」

「いやあ、アーシャさんと釣り合う男性って誰なのかなぁと思ってですね」

「そそそそ、それを言うなら、お前も同じだろう!」

「い、いや、私はそんな男の人、まだいないですからね! この通り、貧相な身体ですし、彼氏いない歴イコール年齢ですから」

「何を言っとるんだ、お前は?」


 などと、ベッドの上でたわいもない会話が続く。

 が、異変が起きたのは、そんなベッドでの会話中のことだ。

 いきなり、青色の光の筋が、宿の窓を突き破って放たれる。えっ、今、何が起きた?


「くそっ、ベッドの裏に伏せろ! 頭を下げるんだ!」


 アーシャさんが剣を持ち、構える。が、次の一撃がくる。

 例の魔力を込める剛剣が、白く光る。その剣を使い、その青筋の光をはじき返そうとする。

 だが、それは無力だった。あっという間に剣は根元から破壊され、その剣先が床に転がる。が、そのおかげで、青筋の光も弾かれた。


「くそっ! なんて魔術だ!」


 アーシャさんはそう叫ぶが、私はそれが何かを知っている。そう、あれは魔法などではない。

 明らかに、我々のところからやってきた、狙撃銃の光だ。

 と、そこに、ドアを突き破って入ってくる者がいる。まさか、新手か? 咄嗟にアーシャさんが、私を抱き寄せ、かばう。


「二人とも、伏せて!」


 ところがだ、入ってきたのは井上大尉だった。拳銃を構えて、窓の外に照準を定める。

 ちょっと待って、相手はおそらく、長距離射程が狙える狙撃銃の持ち主、拳銃相手では、勝ち目などない。

 案の定、一撃が井上大尉を襲う。だが、その銃を巧みにかわし、井上大尉が引き金を引いた。

 そうか、相手が撃つ瞬間、充填中に放つ光でその位置が分かる。

 それならば、拳銃でも狙いを定めることは可能だ。

 青筋の光が、井上大尉の腕からも放たれる。

 拳銃と言えども、ビーム兵器だから射程距離は長い。どうやら、放った相手に当たったようだ。


『ターゲット、完全に沈黙。大尉の銃により、狙撃に成功したものと思われます』


 井上大尉の腰にかかった無線機が、そう知らせる。


「そうか、では直ちに、ターゲット捕捉に……向かえ……」


 が、井上大尉の様子がおかしい。明らかにふらついている。

 私は慌てて明かりをつける。大きめのLEDライトが、部屋を照らす。

 そこで私は、衝撃の事実を知る。

 井上大尉の左肩から、大量の血が流れだしている。拳銃を落とし、その場に倒れる井上大尉。その床は、血で染まっていく。

 私は、思わず叫ぶ。


「井上大尉! しっかりしてください!」


 すると、アーシャさんがシーツを引き裂き、大尉の肩にそれを結び付ける。


「その無線機とやらで、味方を呼び出せ!」


 私は、ハッとする。そうだ。すぐに運び出さなければ。


「こちら、井上大尉の無線機! 大尉が、撃たれました! 衛生兵の方、いたらすぐに宿へ来てください!」

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