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#17 剛剣

「できたぜ、ミューさんよ」


 その翌日、私はレオンの鍛冶場に着いた。その品を、アーシャさんと私は見入る。

 うん、さすがは職人だけのことはある。ゆがみのない、優れた剣だ。


「なかなか軽くて、それでいてしなやかな感触の剣だな」

「それだけじゃないですよ。ほら、魔力を込めてみてください」

「う、うむ。分かった」


 その剣に、魔力を流し込む。かつてミスリルを用いて作った伝説の剣があり、己の持つ魔力を流し込み、岩をも斬る力を得たという、まさに剛剣と呼ぶにふさわしい剣だったという。

 が、普通の鉄製の剣にアーシャさんの魔力を流し込むと、あっという間に熱で溶けてしまう。かといって、熱に強いセラミック複合材も試したが、今度はあっさりと砕けてしまった。もっとも、複合材で剣を作ったところで、持ち出すことはできなかったのだが。

 ところがだ、律君によれば、とある合金を使えば、その伝説の剣とほぼ同じものができるかもしれないと言っていた。


「鉄と銅の合金に、ある特殊な加工と微量なレアメタルを混ぜ込みます。すると格子欠陥が生じるのですが、それが魔力の通り道となって……」


 どうも理屈っぽい律君だが、まあ要するに、魔力を込められる剣がその合金で作れるかもしれない、というのだ。

 が、当然、当社の工場内では作成は不可能。外の鍛冶屋を探し出し、頼もうと思っていたところで、レオンさんと出会った。

 まあ、妹の美央にとっては命を奪いかけた相手であるはずなのだが、こいつはあまり気にしていない。だったら、せっかく知り合った鍛冶職人だし、こうなったら雇ってしまえと考えるのは自然なことだろう。


「おねーちゃん、遊んで―」

「いいよー」


 そんな美央は、レオンさんの娘と遊んでいる。まったく、豪胆なやつだ。とても同じ姉妹とは思えないな。


「おお、おい! ミューよ! 本当に魔力が込められたぞ!」


 と、その横で今度はアーシャさんが叫ぶ。膨大な魔力を得て、剣が真っ白に光る。


「おおーっ、すごいー!」

「ま、まさしくこれは、伝説の剣!」


 これには皆も感動した。当然だろう。私も驚いた。

 で、すぐ脇に、人の頭ほどの石が転がっていた。それをこの剣で突き刺してみる。

 まるで豆腐でも切るかのように、バサッと真っ二つに切れた。断面が真っ赤に焼けている。


「うむ、これは素晴らしい。気に入ったぞ!」


 喜ぶアーシャさんだが、私はそんなアーシャさんに、こう忠告する。


「あの、アーシャさん。実はですね、この剣、一つ問題が」

「なんだ、問題とは?」

「律君の計算によれば、この剣は三十分ほど、つまり教会の鐘が一つなる間、魔力を込め続けると、剣自体が劣化してボロボロになってしまうそうです」

「そうなのか? ならば、伝説の剣よりも優れているではないか」

「えっ、そうなのです?」

「三百年前に作られたとされるその剣は、ごく短時間しか持たなんだそうだ。敵の大将を鎧と背後の岩ごと一刀両断したその後、焼け焦げた木炭の如く、ボロボロと崩れ去ったそうだ」

「えっ、そうなんですか?」

「それに比べたらこの剣は、教会の鐘一つ分の間、もつというのだから、長い時間使える方だと思うがな。それに、こうして剣を作る技を持つ者がおる。いくらでも替えが作れるならば、問題ない」


 うーん、それはそうだけど、結構高いんだよ、この剣の材料。さらにレオンさんによれば、一晩中打ち続け、今朝方、剣を研いでようやく完成させたというものだ。結構、手間もかかっている。


「まさに後日、陛下の御前で騎士団の儀式がある。その場にて、岩を両断してみせれば、陛下もさぞ喜ぶに違いない」

「えっ、そんな大それたこと、しても大丈夫なんですか?」

「騎士の力を見せることで、陛下に対してより絶大な安心感を与えることができる。それにだ、同席する貴族の中で、先日のような不埒な企みを持つ者の牽制となる。そんなものを見せつけられれば、王位簒奪やその他の権謀術策を巡らす余裕など、なくなるであろうな」


 高笑いするアーシャさんに、私はちょっと背筋が凍る思いをした。それはそうだろう。つい先日、あれほどの事件が起きたというのに、あのお方以外にも何かを企んでいる貴族がいるのか、と。

 前回は普通の剣と魔法で対抗したアーシャさんだが、この伝説の剣、アーシャさん自身が「剛剣」と名付けたこの剣を持たせてしまったら一体、どうなってしまうのか? 今度、アーシャさんを斬りつけようと襲い掛かる者がいれば、その鎧ごと叩ききられてしまう。なんて恐ろしい剣だ。

 で、しかもスペアの注文まで受けてしまった。おまけに、五千ユニバーサルドル、つまり金貨にして五枚分のお金を受け取る。アーシャさんって、騎士団長だよね。貴族というわけではない。が、この羽振りの良さは、なんだ?

 ともかく、受注を受けたからには律君に頼んで、また材料を送ってもらう。それをあさってまでにレオンさんに剣に変えてもらう。無論、通常の報酬に加えて、この剣のプラスアルファ分を支払う。それも、妹を誘拐した相手に、である。なんとも変な対応だ。


「本当に、これでよかったのかな」


 私は王都から宇宙港の街へ戻る途中、思わずつぶやいた。


「何言ってんのー、あの鍛冶職人は職を得たし、美優姉は儲けた。いうことなしじゃーん」

「そんな単純な話じゃないよ。だってさ、私の妹を誘拐したら、仕事を斡旋してもらえるという変な前例作っちゃったんだよ。そんな話が知られたら、私この先、誘拐され放題じゃないの」

「うーん、そう言われてみればそうだねー。なら、誘拐されないように頑張ってー」


 くそっ、こいつ、他人事だと思って適当に言いやがる。が、この星にいる間は、美央だって油断できないんだからな。分かってるのか?


「最近、営業成績が下がっているぞ。おまけに、妹までもが誘拐されただろう。たるんどるんじゃないか!?」


 まったく、せっかく鍛冶職人を見つけて新たな市場を開拓したというのに、最近の支社長ときたらこんなことしか言えない。

 よほど私が、ここに残ったことが気に入らないらしい。


「はい、申し訳ありません。以後、気をつけます」


 それを、いつも通りの言葉で片付ける。まともに相手をしても、どうせ文句しか返ってこない。それこそ、売り上げを上げている時でさせも、だ。

 本社に異動とならなかったことで、このところかえって機嫌が悪くなってきた。なぜかな。せっかく王国の王族・貴族ともつながりを作り出し、安定した運営ができるようになった。私だって、いろいろと頑張ったんだが、支社長はどうしてこうも不機嫌なんだろう?

 とはいえ、たった一品売るだけで、こちらの取り分としては千ユニバーサルドルも得られるような商売を得た。外に、専属の鍛冶職人も得られた。この先のことを考えると、悪くない話と思うんだが、何が不満なんだろう。

 どうも雄二支社長を見ていると、こちらの世界の営業にはあまり向いていないような気がするな。文化の違い、信頼の築き方、なんかその辺りが毎回、空回りしているような気がする。でも、すでにこちらの支社の売り上げは本社を大きく上回り、そこの支社長として評価はされているはずなのだがな……不機嫌になる理由が、見当たらない。

 まあいいや、怒られるのには慣れてるし、会社が発展していけば、その内、機嫌もなおるだろう。そう考え、支社長のことはあまり気にしないことにした。

 に、してもだ。ちょっとこの支社、相変わらず人が少なすぎやしないか?

 労働者は増えた。あの奴隷商……じゃない、派遣業者からは二十人ほどを派遣してもらっているし、麻薬……じゃない、栄養ドリンクの売り上げも上々。こちらも店員は麻薬元締め……じゃなくて、栄養ドリンクの店主が幾人かの人を集めてくれている。

 が、支社本体は、私と律君、そして支社長だけだ。トラックの運転手もいるが、事務所にいるのはだいたいこの三人、そして事務業務をこなすアミラの四人だけとなる。

 もちろん、私と律君は動き回っているから、支社の建屋に残るのは、支社長とアミラだけだ。アミラは支社長には興味はなく、黙々と事務作業をこなすだけだから、会話がまったくない。まあ、支社長にも事務仕事がたくさんあるし、それは仕方がないか。でも、普通は部長や課長といった中間管理職、それに、社員はもう少しほしいところだ。

 などと提案したところで、別に現状で困っていないからいいだろうと、支社長に怒られるのが関の山だ。実際、そう進言して怒られた。だから、私はそれ以上、何も言わないことにした。


 で、例の「剛剣」の初披露の日がやってきた。

 王宮の中庭に、大きな岩が置かれている。わざわざ近くの山から運んできたようだ。前回の頭部大の石よりも大きい。

 その前に、アーシャさんが立つ。腰には、例の剣。一応、予備の剣も置かれてはいるが、最初に打った剣で臨むようだ。

 風の音だけが、中庭を支配する。その静けさの中、国王陛下をはじめ王族、貴族らが固唾を飲んで見守っている。目の前には、アーシャさんをも超える巨大な岩。あんなものが切れる剣など、この星にはない。

 目を閉じ、神経を手先に集中していたアーシャさんが、ゆっくりと剣を抜く。そして、自身の魔力を一気に込めた。

 真っ白に光る剣身が、陛下や王族、貴族の前の前に現れる。その女騎士団長は、彼らの前でまさにそれを振り下ろすと、目前にあった巨大岩を叩き切った。

 真っ二つに引き裂かれた大岩を前に、周囲の方々は皆、開いた口が塞がらない、まさに唖然とした雰囲気だ。

 そりゃあそうだろう。白く光る剣なんて、伝説で知っていても、未だかつて誰も見たことがない。それが今、目の前に現れた。魔力が抜け、剣身から白い煙が上がる。それを振り払い、アーシャさんはそれを鞘に納める。

 しばらくの沈黙の後、国王陛下が叫ばれた。


「見事であるぞ! さすがは王国騎士団の長たる者!」

「はっ、お褒めをいただき、恐悦至極にございます! この力のすべてを、陛下への忠誠心の証としたいと思います!」

「うむ、その忠義の心、しかと受け止めたぞ!」


 これはただの騎士団の儀式ではない。明らかに、王族や貴族らに対するけん制だ。これほどの破壊力を持つ騎士団長がいる陛下を相手にするなど、思いつきもしまい。

 もっとも、我々の持つ兵器の方がはるかに強力ではある。が、四六時中、王宮を警護してくれるわけではない。

 と、いうことで、陛下に歯向かうにはまず、アーシャさんと戦わなくてはならない。そのアーシャさん、この剣を手にしたことで、まさしくラスボス級の相手だ。あんな騎士を相手に、戦いを挑む者などいない。


「いやー、すごかったねー」


 そんな国王陛下の御前に、どういうわけか美央まで参加を許されることになり、私と共にこの王宮の中庭にいる。もちろん、貴族社会の中に飛び込むのだ、それなりのドレスを仕立てて、二人揃って入り込んでいる。


 で、その後の社交界で、いきなり二人そろって陛下に呼ばれた。


「聞いておるぞ。そなたらの働きによって、あのような伝説の剣を復活させたと」

「はいー、大変よい人材を見つけましてー、感謝しておりますー」

「あ、あの、私は大したことをしたわけではありません。妹が、美央がとりなしてくれまして」

「うむ、それにしてもそなたら、姉妹というだけあってそっくりであるが、性格はまるで違うようだな」

「いやー、それほどでもー」

「ちょ、ちょっと美央! なんて失礼な物言いを……あ、陛下、大変ご無礼致しまして、申し訳ありません」

「はっはっはっ! 気にするな。にしても、よくぞまあ人さらいを口説いて……あ、いや、わしはその事情を、知らないことになっとるのだったな」


 ああ、もう。なんて無礼な妹だ。それにしても、そんなことまで御存知だったとは、やはり国王陛下は侮れない。


「やれやれ、そっくりな姉妹なのに、その話口調でどっちがどっちか、すぐに見分けられるものだ」

「いやー、それほどでもー」

「ちょっと、美央ってば! アンリ様に向かって、なんて失礼な物言いを!」

「気にするな、ミューよ。その方が分かりやすいというものだ」


 おかしいな、外面だけは良いと言われていた妹だが、こんなにだらしなかったか? しばらく見ないうちに、地が出てしまう性格に変わってしまったのか。それとも、大学受験を終えて気が抜けてるだけなのか。


「まあ、とにかく、伝説の剣の復活に乾杯だ」

「あ、はい」

「かんぱーい!」


 と言いつつ、美央のやつ、ワインを飲みやがったぞ。おい、お前、未成年だろう。


「い、いやぁ、これちょっと、酸っぱいね~」


 ほーら、言わんこっちゃない。飲み慣れていないくせにワインを一気に飲むから、酔いがまわってしまったようだ。虚ろな目でこちらを見る美央が、私にこう言い出した。


「そういえばさー、美央姉って、恋人いないの~」

「はぁ!?」

「だってさぁ、もう二十五でしょ~。いてもおかしくない年齢じゃ~ん」


 こいつめ、酔うに任せて、無茶苦茶なことを言い出す。いるわけないだろう。だいたい、周囲にいる男と言えば、製品オタクな後輩に、パイプタバコ片手に怪しげに栄養ドリンクを売る元・麻薬の売人、そして元・奴隷商人と、あの支社長だ。一応、後輩の律君以外には、もう妻と子供がいる。

 碌な男が見当たらない。これで恋人を作れという方が無理というものだ。

 とはいえ、本星にいた時ですらも、私は恋愛とは無関係だった。今さら、もてようなどとは思わないし。

 などと考えていたら、やがて社交界が終わり、王宮を出る。


「おい、送っていくぞ」

「いや、大丈夫ですよ。ちょっと酔いを覚ましながら歩きたいので」

「そうだね~」


 そう言いながら、私は美央と共に宇宙港へと向かう。貴族街を越えて、路地を四つ越えたら、もう門だ。それくらいの距離ならば、もう幾度も歩いている。

 夜空がきれいだ。ここは光害がほとんどなく、奇麗な夜空が見える。珍しく、月が二つある星だが、あいにく今は、小さい方の月が東の空に、半月として見えるだけだ。

 そんな暗い夜道を、姉妹二人で歩いていた。

 が、それが油断だった。


「おのれ、覚悟!」


 突然、私の背後から叫び声がする。振り返るとそこには、ナイフを片手に斬りかかってくる男が見える。

 えっ、何? なんで私、襲われてるの? その身なりから、明らかにその男は貴族階級だ。そんな男に、斬りつけられる覚えなどないんだけど。

 が、覚えがあろうがなかろうが、斬りかかってくるものは止められない。だがこの時ばかりは、いつものフライパンも持っていない。

 ああ、万事、休すか。

 と思った、その時だ。いきなり、周囲を真っ白に照らす棒状のものを持った人物が見える。

 その光に、ナイフで斬りかかってきた男の足が止まる。それはそうだ。貴族ならばその光が何を意味しているか、昼間のあれでよく御存知なはずだ。


「ひ、ひぃぃぃっ!」


 男は振り返り、その白く光る物体を抱えた人物に恐怖する。が、その人物は貴族を、一刀両断する。あっという間にその貴族は、二つの黒焦げな炭に変わり果てる。

 と同時に、その白く光るそれも、同時に砕けた。

 そう、その剣はまさにあの「伝説の剣」であり、それを振るったのは、アーシャさんだ。


「やれやれ、だから言うたであろう。見送っていくと」


 剣身がまるで乾燥しすぎたドライフルーツのように、脆く崩れ去っていく。どうやら、寿命を迎えたようだ。


「なんてことだ。最後にこの剣で斬りつけたものが、あのダンボル伯爵とはな」


 それを聞いて、私は思いだす。そうだ、あの王座簒奪を謀ったシャルテロ―家の側に付き、裏社会を牛耳っていた男だ。証拠不十分でお家断絶まではいかなかったものの、あの一件以来、権益を奪われて落ちぶれてしまった貴族だ。


「あ、あのさ、美優姉」


 珍しく、震えた声で囁くように話しかけてくる美央に、私は答える。


「何?」

「こ、こういうのって、この国じゃ、日常茶飯事、なの?」

「まぁ、そうだね。私ですら、もう何度か経験してるし」

「う、うわー、と、とんでもないとこ、来ちゃった……」


 いや、お前、今さら驚くか? あの鍛冶職人に一度、ナイフを突きつけられてるだろう。鈍すぎるのもほどがある。


「まあいい、ともかく、馬車で門まで送ろう」


 そう告げるアーシャさんの言葉に、私たちは甘えることにした。そりゃそうだ。シャルテロ―家の残党貴族は他にもいる。斬りつけられる可能性は、十分すぎるほどある。

 にしても、美央のやつ、いっぺんに酔いが覚めたようだな。そりゃそうだ。人の命が一つ、目の前で消えたんだから。私ですらショックなのに、美央にとっては初めての経験だから、仕方がない。

 やれやれ、すっかり怯えているな。アミラに頼んで、今夜は念入りにマッサージしてもらわなきゃ、立ち直れそうにないな。

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