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#13 蜂起

「よいな、ここを動くな。手勢の者が現れたなら、私が倒す」


 王宮内が、一気に緊迫していた。私はフライパンを両手で握りしめたまま、うなずくしかない。

 日が暮れ、ろうそくの光だけが、この広い部屋を照らす。アーシャさんはドアを開き、腰の剣に手を当てたまま、辺りを伺う。

 が、その時だ。

 「敵」は、思わぬ方向から現れた。


◇◇◇


 突然、私は王宮に呼ばれる。何かあったようだ……けど、なぜ私まで呼ばれる?


「この王宮へ、シャルテロ―家の手の者が入り込んだという情報が入った」


 アンリ様が、私にそう熱心に語る。


「つまり、シャルテロ―家の刺客が入り込んだと?」

「そうだ。そしてそれは、我が館に入ったというのだ」


 えっ、ということは、アンリ様がこうして叫んでいる言葉が、刺客に聞かれている可能性すらあるということじゃないですか。そんな大声で、話していいんですか?


「と、いうことだ。アーシャよ、今宵の警護を頼む」

「はっ、王国騎士団の名にかけて、殿下をお守り申し上げます」

「うむ、頼もしいな。頼んだぞ」


 そう告げると、アンリ様はその場を立ち去り、自室へと向かう。

 が、私のすぐ脇で止まり、小声でこう呟く。


「……どうも馬脚の現し方が、あからさまで不自然過ぎる。刺客が送り込まれているのは間違いないだろうが、それはおそらく陽動であろう。本体は、別にいるはずだ」


 そう呟くと、アンリ様は足早に立ち去っていった。

 えっ、陽動? ということは、先ほど大声で叫んでいたのは、わざとシャルテロ―家の策に引っかかったフリをしていたと、そういうことなのか。


「ともかくだ、まずはアンリ様の屋敷に潜む刺客とやらを片付け、その後、行動を開始する」

「こ、行動って、何をするんですか?」

「決まっている。本当の狙いは、もちろんアンリ様ではない」


 アーシャさんも小声で、私にそう告げる。ともかく、まずはアンリ様の屋敷を警備することとなった。

 そうすれば、「本来」の刺客が現れるはずだと、そうアーシャさんは踏んでいる。

 と、いうことで、私もフライパンを片手に、警護することとなった。

 ……ちょっと待って、どうして私が、フライパンで警備しなきゃいけないの? 当然ながら、業務外だから残業代は出ない。当社の業務に「警備」なんてものはない。

 で、アーシャさんはアンリ様のお屋敷にいながらも、他の騎士団員には別の場所に待機するよう命じている。敢えて騎士団長であるアーシャさんがこの場に残ったのは、シャルテロ―家の「陰謀」に引っかかったフリをするためだ。

 そして、我々はアンリ様のいる部屋で、待機する。アンリ様は別の部屋にて待機してもらった。頃合いを見計らい、扉を開き、アーシャさんは廊下を覗き込んだ。

 が、思わぬ方向から、その刺客は現れた。

 そう、アーシャさんの背中、そこにあった大きなベッドの下から、短めの剣を携えた人物がアーシャさんの背後から斬りかかろうとしてきたのだ。

 が、それは想定内だった。だからこそ私がいる。

 私は、テニスラケットの要領でその刺客の短剣の先をフライパンではじき返す。狙いが外れ、よろめく刺客。


「成敗!」


 アーシャさんは振り返ることなく、そのまま剣を抜いて背後に向けて突き出した。

 ロウソク一本の暗い部屋でもはっきり見えるほどの血飛沫が、その刺客から噴き出した。私の目前で、ちょうど鎖骨の辺りから心臓目掛けてひと突き。刺客は一瞬にして絶命した。

 思わず、腰が抜ける。あまりの一瞬の出来事であり、私の来ている服もフライパンも、血で染まっている。震えが止まらない。

 が、アーシャさんは叫ぶ。


「よし、行くぞ。本当の刺客のもとへ」


 そういいながら、アーシャさんは扉を開いて走り出す。なんというお方だ、ついさっき、背後を刺されかけてたんだぞ。そんな危ない目に遭っているというのに、まるで意に介さず、すぐさま次の場所へと向かった。

 私も慌てて立ち上がり、たどたどしい足取りでなんとかアーシャさんに追いつく。アーシャさんが向かうのは、本宮、すなわち、国王陛下がいらっしゃる館だ。

 すでに騎士団たちが、その場で待機している。当然だが、陛下の周りを騎士団たちが固めている。

 もはや、どんな刺客を送り込んだところで、負ける気がしない。そう思いながら、私は走った。


「刺客は現れたか!?」

「いえ、ですが、寸分の隙もございません。手も足も出せないでしょう」


 陛下が玉座に座り、その四方を騎士団が固める。そこに、騎士団長も現れた。

 これで突っ込んでくる刺客がいたら、たいした度胸だ。自らの命と引き換えに、己の浅はかさを知るだけのことだろう。

 と思っていたが、果たして本当に穴はないのだろうか?

 一見すると、完璧な布陣だ。が、この玉座の間は、非常に高い天井。簡単に言えば、上方はがら空きだ。

 ちょっと待って、もし刺客が上から攻めてきたら……私はふと、上を見上げる。

 その時、ちょうど大きなシャンデリアの辺りで、何か暗い影が動いた。

 私は、確信する。


「いました、刺客!」


 私はシャンデリアの辺りを指差す。が、その時すでに、その刺客はあるものを手に持っていた。

 ボウガン。すなわち、弓矢を放つ武器だ。暗がりの中、その刺客は矢の先を陛下に向けていた。

 まずい。私は咄嗟に、あるものを取り出す。そう、それはレーザーポインターだ。

 それを、ボウガンを構える刺客の目を目掛けて、ポインターの光を向けた。

 暗がりに慣れた目で、いきなり強烈な光を浴びせられた。当然、目測が狂う。次の瞬間、放たれた矢が陛下の玉座のすぐ右脇に刺さる。

 危なかった。もう少し遅れていたら、あの矢は陛下の喉元か心臓に刺さっていたかもしれない。

 その刺客に向けて、アーシャさんは左手を向けた。そして、こう唱える。


「我が炎の精霊よ、我の左手に地獄の炎を顕現し、愚かなるあの刺客にその業火にて命を奪いたまえ!」


 猛烈な火の玉が、天井から下がるシャンデリア目掛けて放たれる。それはシャンデリアごと、刺客を炎に包みこむ。

 十メートル以上の高さから、人の形をした炎が落下してくる。それはしばらくの間もがいていたが、やがてその動きを止める。

 また一つ、命が失われた。

 その炎を消すべく、水の魔法を使う騎士団員が、その炎を消した。あとに残ったのは、黒焦げの人の形をした何かだけだった。


「うむ、見事であるな」

「はっ、ですが陛下、残念ながら、未然に防ぐこと叶わず……」

「構わぬ。それよりもだ、此度のこと、いかように処すべきか?」


 いかようにって、当然、黒幕のエメリ一世を断罪するだけじゃないのか?


「そうですね……せっかくの刺客を、焼いてしまいました。これではエメリ一世の仕業という証拠がありません」

「うむ、そうだな」

「ですが、別の証拠ならございます」

「別の証拠、とは?」

「もう一人の刺客を、捕らえております」


 そう言うとアーシャさんは、この玉座の間の奥に立つ騎士団員の一人に手を挙げて、合図を送る。それに応じるように、数人の団員がある一人の男を抱えて現れた。


「うう……」


 あれ、刺客ってもう一人、いたの? でも、一体、どこに?


「エノワール様を狙っていた刺客です。あらかじめ、ベッドの下に隠れているところを見つけ出し、生きたまま捕えました」


 エノワール様とは、アンリ様の兄上、つまり第一王子だ。考えてみれば、国王陛下だけを倒しても、後継者がいれば王位はそちらに渡るだけ。亜流の王家であるシャルテロ―家に王位が渡るためには、二人の王子も倒さねばならない。

 で、アンリ様を狙った刺客はアーシャさんが倒した。が、当然、同じ手で狙ってくることを察していたアーシャさんは、あらかじめエノワール様の屋敷に忍び込んでいた刺客を捕らえた。で、国王陛下を狙った刺客は、ご覧の通り消し炭にされた。


「さて、自殺用の毒はすでに取り除いた。もはやお前は、死ぬことすらかなわぬ。首謀者が誰か、口に致せ!」


 恫喝するアーシャさん。この人、やっぱり騎士団長だな。怒らせると怖い。が、そんな恫喝に、無言を貫く刺客。


「やむを得んな。あまりこの手は使いたくなかったのだが……」


 そう言うと、縛られたままのやつの右腕の二の腕の辺りに、剣を立てた。


「さて、口を割らねば、その右手が斬り落とされるまでの間、痛みに苦しむことになるぞ」


 そういいながら、じわじわとその刺客の右腕に剣先を沈めていく。どばどばと、血が噴き出す。


「うわああぁっ!」


 その凄惨な光景を前に、もう私は気を失いそうだ。即席の拷問で、その男を脅している。が、その剣先が右腕の半分近くまで達したとき、男は観念してこう叫ぶ。


「わああぁっ、しゃ、シャルテロ―様です! え、エメリ一世・ド・シャルテロ―様の指示です!」

「そうか。間違いないな」

「ま、間違いありません! 我らはアレッシア家を滅ぼし、シャルテロ―家に王座を渡すべく、動いておりました!」


 もはや、陛下も存命では自身が黙秘を続けたところで意味はない。そう悟った男は、陰謀のすべてをさらけ出した。

 それを聞いたアーシャさんは、男にこう尋ねる。


「最期に、言い残すことはないか?」


 すると、男はこう答える。


「これは、我が身の意思で動いたもの。家族には、その罪が及ばぬことを願います……」

「分かった。王国騎士団長の名のもとに、その約束、必ずや守ろう」


 そういうと、アーシャさんは剣を高く振り上げた。

 そして、その刺客の首を一刀両断、斬り落とした。

 切られた首が、赤い絨毯の上を、血を流しながら転がっていく。

 なんという凄惨な、そして無慈悲なる処遇だ。相手はすべてを明かしたのだぞ? そう思ったが、同時に私はこうも考えた。

 すでに罪人となった刺客はどのみち、処刑される運命だろう。白日の下で処刑となれば、その家族らはたとえ生かされても、周囲からの反感の中、生きなければならない。

 ならば、秘密裏に処し、その死因は突然死であったとか、あるいはバハナとの戦いで戦死したとか、そういうことにすれば家族は守られる。

 これでもまだ、慈悲ある行動だったのだ。私はそう察した。


「陛下。この通り、証拠は揃いました。証人は、ここにいる住人の王国騎士団員、そして騎士団長である私、さらに星の国より参り、フライパン一つで刺客を破ったミューでございます」

「うむ、十分すぎる証人であるな。では、シャルテロ―家に相応の罰を与えることとしようか」

「はっ!」


 貴族同士の派閥や勢力争いというのは聞いたことがあるが、王族同士でもそういうものがあることを、私は血生臭い現場にて知ることとなる。

 それは一生、忘れることのできない光景だった。


 さて、それから一週間後のこと。二つの知らせを、私は聞くこととなる。

 一つは、かねてより動きのあった連盟軍が動き出し、一個艦隊、一万隻が近くの中性子星域に現れた。が、我が地球(アース)七八八遠征艦隊一万隻が連盟艦隊を撃退した、というニュース。

 そしてもう一つは、シャルテロ―家一族の皆が、公開処刑されたという知らせだ。

 せめて軍がちゃんと動いてさえくれていれば、この王族の動きは事前に察知されて、このような悲劇は起こらなかったかもしれない。だから、このタイミングで攻めてきた連盟軍に対し、私は怒りしか湧かない。おかげで、とんでもなく凄惨な場に居合わせる羽目になった。

 しかし一方で、この王国の本当の裏の姿を垣間見ることとなった。むしろ、身分の高い人たちの方が恐ろしい。

 裏社会なんて存在が、この王国の闇のまだ序の口に過ぎなかったことを、私は思い知る。

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