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#12 同居

 十五歳の時、私は何をしていたっけ?

 少なくとも、檻に入っていた経験はない。ちょうど高校受験の歳で、希望する高校に入れて安堵していた時期だ。

 そんな安穏とした時代を過ごしていた同じ歳に、両親を殺されて、一人、連れてこられた娘、アミラがいる。

 ここしばらくは、他の女性と共に梱包作業を手伝ってもらっていた。が、まだ若い彼女にこのまま、単純労働に従事させるのも忍びない。

 若いから、この先のことを考えるともっと多くのことを学ばせてあげたい。が、かといって学校に行かせることはできない。近いうちに、現地人用の学問を学べる学習所と呼ばれる施設が王都内にできる予定だが、そこに彼女を入れることはできない。

 なにせ、この国にとっては「敵国」の娘だからだ。

 王都はほぼ白人系の人々ばかりだが、アミラをはじめ、バハナ王国はやや褐色肌をしている。おかげですぐに、バハナ人だと分かってしまう。

 どうしたものか。


「あの、ミュー様」


 そんな彼女が、注文の打ち込み作業に追われつつも考え事をしている私に、話しかけてきた。


「あ、アミラ、どうかしたの?」

「いえ、ミュー様が何か、考え事をされていた様子だったので……」


 うん、まさにあなたのこと、考えてたんだけどね。


「ええと、あのね」

「はい、ミュー様」

「こっちの街では、別に私、偉い人でもなんでもないから、様をつけなくてもいいの」

「そうなのですか? ですが、私のご主人様ですし……」

「いや、あくまでも『従業員』だから。なので、律君みたいに『倉田さん』でいいんだって」

「そうはまいりません」

「いや、そうはまいるの!」


 と、あまりに責め立ててしまったものだから、アミラは泣き出してしまった。


「ああ、ごめんなさいっ! そこまで嫌がってるわけじゃないから! ただ、こっちの世界ではね……」

「やはり私は、こちらでも疎ましい存在なのですね……」

「違う! 違うったら!」


 つい大人の悪い癖が出てしまった。私も、支社長のことを言えたものではないな。仕方なく私は奥の食堂に連れて行き、アミラをなだめることにした。


「あのね、アミラ。こっちの世界じゃ、身分の差なんてないんだよ」


 そう諭すが、アミラは反論する。


「そんなことはありません。ミュー様だって、支社長様には頭を下げているじゃないですか」

「いやぁ、あれはね、身分の差じゃなくて、あくまでも職級の差だから」

「身分と職級、その呼び名の間にはどんな違いがあると言われるのですか?」


 うん、アミラって案外、鋭い。そして、賢い。このまま単純作業をやらせておくのは惜しい人材だな。よくそういうところに気付けたものだ。

 だから、私もちゃんと答えることにする。


「あのね、確かに身分の差と職級の差は同じようなものだけど、大きな違いがあるの」

「大きな違い、ですか?」

「そう。それは、努力次第であなたも支社長になれるという、機会平等よ」

「機会、平等?」

「そう。才能次第では、自身の手で大きな会社を作ったり、あるいは金持ちになったり、そういうことが可能な世界なの。だからね、奴隷だったとか貧民だったとか、これから先は何の意味もなくなるのよ」

「そ、そんな世界に、ここも変わるのですか?」

「まー、すぐには無理でしょうね。だけど十年、二十年後までには、徐々にだけど当たり前になっていくはずだよ。私の星も、そうだったし」

「えっ、ミュー様の星も、かつては身分というものがあったのですか?」

「そうねぇ、うちの星、地球(アース)七八八も、地球(アース)三一六という星から宇宙船技術を供与されて、今があるからね。その時、うちの星はまだ貴族がいて、戦争では鉄砲を撃ちあってた、そんな文化レベルだったのよ」


 鉄砲などといわれても、何のことやらと思っているだろう。が、かつて私の星にも貴族というものがいたけど、今では名前ばかりの貴族になっている現状を話した。


「だから、アミラが大きくなるころには、こっちの星でも皆が会社経営者や金持ちを目指して日々、鍛錬するような時が来るわよ。そうだ、せっかくだから、その第一歩を踏んでみる?」

「えっ、第一歩、ですか?」

「そう。アミラって賢そうだから、すぐに覚えるんじゃないかな」


 そういいながら、私は伝票を打ち込んでいたパソコン端末を見せる。


「あのね、ここには品の注文情報が入ってるの。念のため、手元の注文書と照らし合わせて、それが正しいかどうかを確認してるの」

「あの、ここに書かれているのって、文字なんですか?」

「そう、数字と文字」

「でも私、こっちの数字と文字は読めません」

「てことは、この伝票の方の数字と文字は読めるの?」

「はい、こちらはなんとか……」


 ああ、やっぱりそうだった。他の元・奴隷は文字が読めない。が、アミラだけは文字を読むことができる。もしかして、案外育ちのいい身分だったのではないか?


「大丈夫だよ、文字や数字なんて、すぐに覚えられるから」


 そういって、私は文字と数字の一覧を書いた紙を渡す。そして、それを一つ一つ、読み方を教える。

 で、そのまま照合作業に取り掛かってもらった。一応、私もついて同時にチェックする。

 が、梱包作業の時よりも、飲み込みがいい。もしかすると、こういう作業の方が向いているのか?


「すごいよ! まさかたった一日で、この作業を覚えるだなんて!」


 私は思わず、感激してしまった。ほとんど自動化が進んだとはいえ、注文の確認作業だけはどうしても人の目で作業することが必須だ。注文数も増えているし、実に根気のいる作業ではあるのだが、アミラはあっさりとやってのけた。

 むしろ、私よりも早くないか?

 そういうことがあったので、私は一つの提案をした。


「えっ、ミュー様と同居、ですか!?」


 驚くアミラに、私はこう続ける。


「そうだよ。せっかくだから、もっといろいろな機器や情報に触れる方が、多分、アミラにとってはいい経験になると思って。それならうちの方がいろいろ触れられるし」

「で、ですが、私などがミュー様といっしょだなんて……」

「大丈夫だよ。住み込みの従業員てことで登録すれば、この街で暮らすことが可能になるから」

「そ、そうなのでございますか?」


 これだけの逸材、放っておくのはもったいない。そう思った私は、自身の宿舎に連れ込んでいろいろと教えてやろうと考えた。

 我が家には、当社製品の調理器具がある。それ以外にも、様々な生活用品がある。アミラなら、すぐに慣れるだろう。

 ということで、すぐに手続きをして、今夜から一緒に同居することになった。


「こ、この絵は……異国の地の姿で、ございますか?」

「異国というか、私の故郷だよ」


 その夜、私の宿舎にてネット配信動画サービスで、ちょうど私が生まれ育ち、最近まで住んでいた古都「矢方」の風景を映した動画を見せる。その画面に、くぎ付けになる。

 ビル群の合間に、木々が生い茂る。時折、瓦ぶきの古い建物が見える。三百年前に一度、都となったこの地には、多くの寺社仏閣や屋敷が残っている。が、百年ほどで遷都し、今は古都と呼ばれ、この文化遺産が観光資源の一つとなっている。

 一方で、宇宙進出と同時に多くのビルが建てられた。今は景観条例ができて、古都の名残が集中する北部地域は高い建物を建てることは制限されているが、南部はお構いなしだ。当社のある雑居ビルも、そして矢方宇宙港も、南部に集中する。

 そんな不可思議な光景を目の当たりにして、アミラは唖然としている。その他にも、冷蔵庫や電子レンジ、そして柔らかなベッドに驚いている。

 おかしいな、ベッドなんて、アミラが住んでいた宿舎にも同じようにあるはずだが。そんなに安物のベッドが置かれているのか? などと思ったが、まあ喜んでいるようなので、良しとしよう。

 が、その日の晩、想定外のことが起きた。

 考えてみれば当然だが、ここは一人用の宿舎だ。当然、ベッドが一人分しかない。

 となれば、寝る場所は、一カ所だ。

 だが、十五歳のまだ小さな娘一人、このベッドに入っても大丈夫だろう。その程度しか考えていなかった。

 で、二人揃って、シャワーを浴びる。その後、寝間着に着替えて、ベッドに入る。


「今日は寒いから、ちゃんと布団かけて寝ようね」


 私は優しく、アミラにそう言った。

 が、異変が起きたのは、その直後だ。


「はい、ミュー様。ですから私、精一杯、温めてみせます」


 ん? 温める? ああ、抱き合ってお互いの体温で温め合うということか。実際、アミラは私の腰のあたりに手を回してきた。

 が、その手つきが、どうにもおかしい。

 その手の先を、私の下着と皮膚の間を通してくる。何か変だと感じたのは、このあたりからだ。


「ちょ、ちょっと、アミラ!」

「大丈夫ですよ、ミュー様。誰でも最初は、驚くものですから」

「い、いや、そういうことじゃなくて……」

「まずはミュー様のその小さなお胸の先を、熱くして見せます」


 この手つき、並みの者ではない。その筋のプロだ。気づけば私は全身、アミラの手に包まれていく。


「な、なんか変な気分に……」

「やはりミュー様は、ここが弱いのですね」

「ああっ、ちょ、ちょっと待った!」


 いつの間にか、身ぐるみはがされて、私は布団の中でマッサージ……を通り越した何かを、アミラから施されていた。

 確かに体が温まるには温まったが……ちょっと違う意味での温もりというか、快感が私の身体を襲う。

 おい、アミラよ、お前どうして、そんなテクニックをもっている?


 とまあ、そんな翌日のこと。


「さて、久しぶりに王都外まで……おい、ミューよ、どうした、なんだか今日はぼーっとしているな」


 アーシャさんと共に、出かけようと門の前で待ち合わせていたのだが、昨日の衝撃から、私はまだ冷めないままだ。


「え、ええと、あのですねぇ……新しい扉を開いたと申しますか……」

「新しい扉? お前、何を言ってるんだ。ともかく、行くぞ」


 無理やり馬車に乗せられ、辺境の地へと向かう私とアーシャさん。

 だが、私にはまだ、昨夜の余韻が残っていた。そのぼーっとした頭で、冷静に考えてみた。

 アミラは、バハナ王国の辺境の村に住む娘だったと聞いた。が、アレッシア王国語、すなわち我々で言うところの統一語を習得していた。が、これは他の元・奴隷も同じで、この国にいてその言葉を聞いているうちに話せるようになったのだろう。

 が、アミラはアレッシア王国の文字まで読めた。自国語ではない、いわば敵国の言葉の文字を、どうして読めるようになったのだろうか?

 それだけではない、いろいろと接していると、意外と教養を身に着けていることが分かる。計算、作法、そして歴史。普通の村娘などではないことは、明らかだ。

 なによりも、昨夜のあのテクニックだ。おかげで私は大人の、いや、禁断の階段を一気に駆け上ることとなってしまった。

 アミラよ、お前一体、何者だ?

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