08 条件付きで同居、驚愕。
『蒼い誓いと紅い秘密、その扉の向こうで』
ヒロイン ミレイア・ノクス 光魔法
皇太子 アルト・アズリオン 水魔法
悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法
皇太子弟 シエル・アズリオン 風魔法
「では1か月。1か月、ここで過ごしてみてください。それから考えましょう」
そう提案してみた。
ともかくも、アルト殿下は私を捕まえにきたわけではない。
だったら、さくっと諦めて自国へお帰りいただけばいいんだ。
アルト殿下に王妃教育をさぼっていたから結婚できません、と伝える選択肢はない。
あくまでも、ご本人の意思で帰っていただこう。
そんなわけで、1か月だけアルト殿下と同居することとなった。
最初の1声は「で、部屋はどこなんだ?」だった。
もう、絶対、町人としてなんて生活できないじゃん。
「部屋はここしかありませんから、ここを仕切るので、南側をアルト・アズリオン殿下がお使いください」
そう説明した。
「え?部屋…え?」
アルト殿下がキョロキョロしている。
キッチンを見て、お風呂を見て、トイレを見て、お店を見て、複雑な顔をしていた。
1週間、耐えられないだろうなと思った。
翌朝、私がパンを作っていると、目をこすりながらアルト殿下が起きてきた。
いつもフカフカのベッドで寝ているだろうから、町人が使う硬いベッドでは寝られなかったんだろう。
ちなみに、私はソファで寝た。
「ずいぶんと早いんだね」
「パン屋さんは、早起きなんですよ。朝食でパンを食べる人もいますから」
そう言ってパンを焼いていく。
「見事な炎魔法だね」
アルト殿下は眠そうな顔をしながら、石窯を眺めていた。
「もう少し寝ていていいですよ」
そう伝えたけど、お店を手伝ってくれるというので手伝ってもらうことにした。
こき使った方が、早く帰ってくれるだろうと思ったからだ。
パンの並べ方を教えて、食事処へパンを運んでもらって、簡単な接客も教えた。
「営業中にアルト・アズリオン殿下とは呼べませんから…アル、と呼ばせていただいてよろしいですか?」
そう尋ねると、アルト殿下の目が輝いた。
「もちろんだよ。アル…うん。普段からアルと呼んでくれ。俺も、ヴェロと呼ぶから」
嬉しそうにそう言われると、なぜだか照れくさくなる。
そんなわけで、アルとヴェロと呼び合いながら仕事をする。
仕事が終わっても、なんとなく、アルとヴェロのままになった。
1週間で逃げ帰ると思っていたのに、3日目にはアルト殿下はすっかり仕事を覚えてしまった。
常連さんとはちょっとした会話もしたりして、すごく馴染んでいる。
もう10年くらい、この仕事してたんじゃないかというくらい『パン屋さん』になっていた。




