05 まさかの再会で、窮地。
『蒼い誓いと紅い秘密、その扉の向こうで』
ヒロイン ミレイア・ノクス 光魔法
皇太子 アルト・アズリオン 水魔法
悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法
パン屋が思いのほか上手くいっている。
趣味がこんなところで役に立つとは思わなかった。
人生、なんでも経験しておくものである。
ここには、私がヴェロニカ・ルージュリスだと知る人はいない。
ただのヴェロニカとして生きていける。
お客さんがいない店内で、本を読みながらゆったりとした時間を過ごしていた。
カランカランっと、お店の入り口につけたドアチャイムが音を立てる。
「いらっしゃいませ…」
本からゆっくりと目線をあげて、凍り付いた。
「ヴェロ、探したよ」
周りの色が消えて、そう言った人だけの色が残る。
どうして…
「アルト…殿下。どうして…」
口が震えて、声が上手に出せない。
おもわず名前を呼んでしまった。
学園でそう呼んだら、すごく冷たく「名前を呼ぶなんて不敬だ」と言われたのに。
どうしてここに、ルミナリス王国のアルト・アズリオン皇太子殿下がいらっしゃるのか。
頭がフリーズしてわからない。
はっとする。
もしかして、私を捕まえにきたのか。
こんな、まさに、地の果てまで追いかけてきたというのか。
そこまでして、私をギロチン処刑したいのか…
この部屋を出て、キッチンまで行けば、裏口から外に出られる。
落ち着いて行動しよう。
また、逃げればいいんだ…また。
どこまで?
以前のように、準備して逃げるわけじゃない。
今度もうまく逃げ切れる可能性はどれくらいだろう。
「ヴェロ…その。うまく言えないんだけど…探してたんだ」
アルト殿下がそう言った。
ゲームをしていたときは、最推しだったアルト殿下。
まさか、二度と顔を見たくないと思う日がくるなんて。
「君に、ひどいことを言った自覚はあるし、ひどいことをした自覚もある。でも、なんていうか…あれは、自分であって、自分でなかったというか…」
アルト殿下は何を言っているんだろう。
「落ち着いてください、アルト・アズリオン殿下。と、とりあえず、どうぞ」
アルト殿下の様子がおかしかったから、とりあえず部屋にあがってもらった。
お店に『close』の看板を掛ける。
「狭くて申し訳ありません。…紅茶がなくて、あの…たんぽぽ茶なのですが」
そう言って、たんぽぽで作ったお茶を出す。
「ちょっとえぐみがありますから、無理だったら飲まないでくださいね」
そう付け加えた。
アルト殿下は一口飲んで、静かにカップを置いた。
皇太子殿下が飲むものじゃないことは、重々承知している。
「えっと…お話があって、私を探してくださっていたんですか?捕まえるためではなく?」
そう言うと「捕まえるなんて、とんでもない」と否定してもらえた。
その言葉だけで、ホッとした。




