↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅エンドが確定しました。悪役令嬢ですが知ったこっちゃない、逃げる。  作者: 西園寺百合子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/50

04 パンを焼いたら、売る。

『蒼い誓いと紅い秘密、その扉の向こうで』

ヒロイン ミレイア・ノクス     光魔法

皇太子  アルト・アズリオン    水魔法

悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法

あの世界の影が、少しずつ遠ざかっていく。

ゲームが終わっても、私はこの世界で生きていかなくてはいけないんだもん。

頑張る。

小さく呟いて、手を動かし続けた。


セレネイド王国にきて、何か月かが過ぎていた。

季節がひとつ変わり、風の匂いも少し違っている。

毎日大変だけど、充実していた。

疲れていても、どこか満たされている感覚があった。


食事処のマスターはおおざっぱだけど優しくて、お客さんもいい人ばかりだ。

注文を間違えても笑って許してくれるような、そんな空気の店だった。

なによりやっぱり、まかないが美味しいのがありがたい。


お休みの日、いつものようにパンを焼いて、育った野菜でサンドイッチを作った。

焼き上がったパンを切り、野菜を挟む作業はすでに慣れた手つきになっていた。

いい気候だったから、家の前に椅子を置いて、そこで食べていると、近くの家の人が「何を食べているの?」と声をかけてきた。


風に揺れる洗濯物の向こうから、興味津々といった様子で覗き込んでいる。

この世界に、まだパンはない。

どうしようか悩んだけど、声をかけてくれたその人から、以前、牛乳をわけてもらったことがある。

あのときの小さな親切を思い返して、迷いつつ、正直に教えることにした。

「…パンですよ。よかったら、おひとつどうぞ」

そう言って、サンドイッチを1つ渡した。

すると、美味しい美味しいと喜んでもらえた。

目を輝かせて何度も頷く姿に、こちらまで嬉しくなる。

なんだか、いいことをした気分になった。


ただ、困ったことに。

次の日、サンドイッチをあげた人が、牛乳とパンを交換してほしいと言ってきた。

予想外の申し出に、一瞬固まる。

「きのう、お渡ししたのはサンドイッチというもので。パンはこれなんです」

そう言って、食パンを見せる。

焼き色のついたそれを、困ったように、でも少し誇らしげに見せる。

そして、ここに野菜とマヨネーズというものを挟んで食べるのだと伝えた。

「じゃあ、パンと、そのマヨネーズというのを譲ってくれないか」

真剣な顔で言われて、ますます困った。


正直に言えば、パンとマヨネーズと、コップ1杯の牛乳では、割に合わない。

頭の中で原価計算がぐるぐる回って、ちょっと大きく出てみた。

「牛乳1瓶とだったら、交換しますよ」

そう伝えると、牛乳1瓶。

だいたい1リットルだろうか、それを持ってきてくれた。

思ったよりも大きな瓶を抱えていて、少し驚く。


その次の日には、別の人が牛乳1瓶を持ってくる。

噂が広がるのが早い。

でも、牛乳は十分にあるから「お肉となら交換しますよ」そう伝えると、お肉を持ってきてくれた。

それもなかなか良い部位の肉で、思わず笑ってしまった。


その次の日には、さらに別の人がくる。

朝から昨日と同じように、あるいはそれ以上に、人の気配が途切れずにやって来る。

普通の民家に行列という、異様な景色が見られるようになった。

これは、商売のチャンスなのでは。

そう思って、思い切ってパン屋を始めることにした。

物ではなく、お金とパンを交換してもらおう、ということだ。


今の材料で作れそうなのは、食パン、クロワッサン、ベーグル、クリームパン、というところだろうか。

玄関の周辺を綺麗にして、それっぽい棚を設置した。

この世界にはお店を始めるにあたって、小難しい手続きが必要ないというのがありがたかった。

お食事処のマスターにお店の始め方を聞いて準備をする。

本当に、いいマスターでよかった。


私1人だし、それほど種類は作れないから、自宅をちょっと改装するだけでいいだろう。

あと、マヨネーズも忘れてはいけない。

お野菜がたくさんあるときは、サンドイッチを作るのもいい。

食事処のバイトの日にちを減らしてもらって、週に4日、パン屋さんを始めた。

マスターに頭を下げ、少し申し訳なさを感じながらも事情を説明すると、快く了解してくれた。

ありがたいことに、パン屋はすぐに軌道に乗った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。