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破滅エンドが確定しました。悪役令嬢ですが知ったこっちゃない、逃げる。  作者: 西園寺百合子


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03 お腹が空いたので、働く。

『蒼い誓いと紅い秘密、その扉の向こうで』

ヒロイン ミレイア・ノクス     光魔法

皇太子  アルト・アズリオン    水魔法

悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法

ここまでこれば大丈夫だろう。

そう思うことで、ようやく生きのびたことを実感した。

持ち出したお金で、小さな小さな家を購入できた。

不動産屋で鍵を受け取った瞬間、ようやく住む場所ができたと実感する。

家はなんとか買えた。


木造の簡素な建物で、外壁は少し古びている。

どの世界でも、郊外というのは土地がお値打ちだ。

静かで不便な場所ほど、価格は下がる。

贅沢を言わなければ家を持てる。

キッチンとお風呂にトイレ、部屋は2つ。

最低限の生活には十分な構造だった。

異世界に来る前に住んでいた部屋より狭いけど。

うん、十分、十分。

何度も頷いて、自分に言い聞かせる。


なにより、キッチンが広めなのがいい。

窓からの光が差し込むその場所だけが、少しだけ明るく見えた。

キッチンを見ていて思い出した。

私、ほとんど食べていない。

逃亡中の数日間を思い返すと、改めてその事実に気づく。


働かざる者食うべからずだ。

誰かの言葉を借りるように、自分を奮い立たせる。

町…というか、村に職を探しに行った。

まだ慣れない土地の中を、歩き回る。

職業紹介所みたいなところがなくて、会社を1軒1軒、回るしかなかった。

なんて、不便。


頑張って回ってみたけれど、サビれまくっている郊外に正社員で雇ってくれる会社はなかった。

そもそも私、学園も卒業していないから、学歴もない…ことになってる。

実家のこともかけないから、履歴書をもし書くとしたら、ほぼ白紙。

名前と住所くらいしか書けるところがない。


道を歩いていると、いいニオイがした。

風に乗って漂う香ばしい匂いに、足が自然と止まる。

食事処だ。

木造の小さな店から、湯気が漏れている。

そこで思いついた。


食事処で働けば、まかないがついてくるじゃん。

お金も稼げて、一石二鳥。

頭の中でそろばんを弾くまでもなく、生活が安定する未来が見えた気がした。

というわけで、頼みこんでバイトとして雇ってもらえることになった。


最初は「貴族の娘さんが?」と驚かれたが、貴族じゃないし、皿洗いでも掃除でもやりますと頭を下げ続けて、なんとか受け入れてもらえた。

週6日、昼と夜のまかない付き。

厨房の匂いを嗅いだ瞬間、ここに決めてよかったと確信した。

最高の待遇だ。

働く身としては十分すぎる条件だった。


帰りに小麦粉と卵、バターを買って帰った。

買ったばかりの食材を抱えて、ほくほくしながら夕暮れの道を歩く。

昼と夜はまかないがあるけど、朝はなんとかしなければいけない。

無駄遣いもできないから、買った食材でパンを作ることにした。

『蒼い誓いと紅い秘密、その扉の向こうで』の世界ではパンがない。

屋台にもお店にも、ふわふわした焼き立てパンは存在しない。


小麦粉で作ったナンのようなものはあるけれど、パンというものの存在自体が知られていなかった。

ナンも嫌いじゃないけど、ナンはナンだけで食べるのも飽きがきてしまう。

パンは材料がほとんど同じで、作れるし、食パンにしたりクロワッサンにしたりと色々アレンジできていい。


異世界転生する前、パン作りは私の趣味の1つだった。

休日になると粉まみれになりながら、キッチンで生地をこねるのが習慣だった。

作ったパンはSNSにアップしたりして、そこそこフォロワーもいたのが、ちょっとした自慢だったりする。

ただ困ったことに、パンがないこの世界には、オーブンもなかった。

文明レベル的に当然といえば当然だが、最初はかなり残念に思ったものだ。


そこで、石窯を作ってみた。

キッチンの隅に石を積み上げて、形を試行錯誤しながら作り上げる。

前世の記憶をたよりに、それっぽいものができた。

私って天才。

完成したとき、思わず拳を握ってしまった。

炎魔法が使える私は、石窯の炎を操るのも容易かった。

火力の調整も、温度管理も感覚でできるのがありがたい。

もう一度言う。

私って、天才。


パンを作って朝食べて、昼と夜はまかないで生活する。

焼きたてのパンの匂いで一日を始める生活は、思った以上に悪くなかった。

お休みの日は3食パンというのがちょっとツライけど、安定して稼げるようになるまでは仕方がない。

ただ、しばらくすると、やっぱり、3食パンに飽きてきた。

それほどグルメというわけではないのだけれど、平和ボケしてるのかもしれない。


そこで、お休みの日に、庭に野菜を植えてみた。

朝のうちに土を耕し、水を運んで、黙々と作業する。

庭と言っても、猫の額ほどの小さい庭だ。

フェンスの内側にちょこんとある程度のスペースしかない。

でも、私が食べる分くらいの野菜を育てるなら丁度いいだろう。

自給自足まではいかなくても、少しでも食材の足しになれば十分だ。


トマトとキュウリ。

これがあれば、サンドウィッチができる。

ワクワクしながら野菜を育て、食事処で働き、パンを作った。

朝はパンの発酵を見て、昼は皿を運び、夜は育てている野菜の様子を見る。

毎日が忙しい。

気づけば一日があっという間に終わっていた。

ただ、余計なことを考える余裕がないのが、むしろありがたかった。

乙女ゲームのことも、断罪のことも、全部忘れることができたから。

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