49 幸せな勘違いと、結婚。
聖女 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法
皇太子 アルト・アズリオン 水魔法
皇太子弟 シエル・アズリオン 風魔法
弟婚約者 リリアーヌ・マーロウ 雷魔法
罪人 ミレイア・ノクス 光魔法
先生 カサンドラ
というわけで、自分の部屋に逃げ帰る。
ばふんっと間抜けな音で扉が閉まった。
ぷっと、アルト殿下が吹き出しているのが聞こえてきてむうっとなる。
からかわれた。
顔が熱い。
鏡がなくてもわかるくらい、たぶん真っ赤だ。
異世界転生する前に、それなりに…それなりには経験がありますけど。
この体では、あれですよ。
初めてですよ…
チラッと自分の体を見る。
ウエストに手をあてて、ちょっと擦ってみた。
色々とあって、私、運動してない…
次の日から、リリアーヌ嬢とともに運動にいそしんだ。
運動不足だ。
増やしたはずの筋肉が、全て、ただのお肉になっているのを感じる。
だって一時期、地の果てで酒盛り予定だったし。
そのときの未来を思えば、今こうして動いているのが不思議ですらある。
もうアルト殿下と会えないと思ってたんだもん。
なんて、嘆いている場合じゃない。
こんなぶよぶよの体を、アルト殿下に見せるわけにはいかない。
呼吸を整えながら、前世の記憶を頼りに必死に運動を続ける。
努力と根性で、なんとか人様に見せられるまでに成長させた。
「ヴェロ…そんなにウエディングドレスを早く着たかったんだね」
アルト殿下が盛大な勘違いをして、アルト殿下と私の結婚は早まった…
いや違う。
これは、腹黒皇太子の策略に違いない。
式場の大聖堂は、朝の光に満たされていた。
白い石柱に飾られた花々が風に揺れ、参列した貴族たちの衣擦れの音が遠くで静かに重なっている。
ステンドグラス越しの光が床に色を落とし、その中央を私とアルト殿下が歩く予定だ。
すでに控室では侍女たちが慌ただしく動き回り、ヴェールや手袋の最終確認をしている。
アルト殿下の思惑通りというやつだ。
鏡に映る自分の姿を見て、あらためてそれを確認した。
「私がダイエットしている理由、知ってましたよね?」
少し睨むように言うと、アルト殿下はニッコリ微笑んだ。
その笑みは式の前だというのに妙に余裕がある。
確信犯。
式場を押さえるのも早いし、ドレスのデザイナーは決まってたし。
どうしてだか、招待状はもう発送されていたし。
私があたふたと状況を理解しようとしている間に、全部終わっていたのだ。
やっぱり、腹黒じゃん。
私の両親はいないから、バージンロードはなんと、シエル殿下がエスコートしてくれた。
「義姉君のエスコートができて、光栄です」
そう言われて、ほんわかする。
本当に義弟になったんだ。
小さな手が、ぎこちなく私の手袋越しの指を握っている。
隣を歩く義弟は、今日のために仕立てられた礼装に身を包み、緊張した面持ちでまっすぐ前を向いている。
まだ少年らしい丸みの残る頬も、背伸びをするように伸ばした背筋も、どこか愛らしい。
最初に会ったときから思っていたけど、シエル殿下は年齢よりも幼く見える。
これから、大人の男性になっていくのかしら。
そう思うと、キュンとした。
「…ちゃんと、エスコートできていますか」
小声で尋ねてくる声に、思わず笑みがこぼれた。
「ええ、とても立派ですわ。さすが、シエル殿下でいらっしゃいますね」
そう答えると、義弟は少しだけ得意そうに胸を張る。
その仕草が可愛らしくて、胸の奥がじんわりと温かくなった。
ゆっくりと進むバージンロードの先には、アルト殿下が立っていた。
高い背丈に、洗練された礼装。
広い肩と落ち着いた立ち姿が素敵すぎる。
真っ直ぐこちらを見つめる眼差しに、胸が小さく震えた。
後光…
やっぱり、神ですか?
美男神ですか?
「…ヴェロ、戻ってきて。まだ、式の途中だからね」
アルト殿下に囁かれて、少し体を反応させた。
式は進み、誓いの言葉が交わされる。
「アル…ずっと、あなたを諦めないわ」
私が小さい声でそう言うと、唇を重ねられた。
「あ…キスは、指輪の交換の、後ですよ…」
神官の声が聞こえる。
「大丈夫。新婦が目を閉じていなかったから、もう1回、だよね?」
アルト殿下がそう言って私を見た。
一瞬、目をぱちくりとさせて、ゆっくりと口角が上がる。
ダメだ。
皇太子スキルには、敵いそうにない。




