48 アルト殿下とベッドと、部屋。
聖女 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法
皇太子 アルト・アズリオン 水魔法
皇太子弟 シエル・アズリオン 風魔法
弟婚約者 リリアーヌ・マーロウ 雷魔法
罪人 ミレイア・ノクス 光魔法
先生 カサンドラ
簡単に部屋の中を説明してもらう。
「ベッドをね、悩んだんだ。硬いベッドもいいってヴェロが言ってたから、どっちがいいのかなって」
そう言えば、そんなことも言いましたね、と記憶を引っ張り出す。
「で、ヴェロの部屋のは硬いのにしたんだ。ふかふかベッドで寝たくなったら、いつでも俺のベッドで寝ていいから」
アルト殿下の目が輝いている。
窓からの光を受けているからか、その表情だけがやけに明るく見える。
…なんか、違う。
ゲームのキャラクター、私の最推し。
違うけど…
「ふふっ…もう、アルったら。私がアルのベッドに行ったら夜這いになりますよ…」
こんなアルト殿下もいい。
思わず本音が漏れてしまいそうになる。
「夜這い?…じゃあ、俺が夜這いしてもいい?」
何を言ってるんだ、この皇太子は。
夜這いはしないでくださいと約束させた。
でも、どんなに忙しくても、毎日会いたいと我儘を言った。
宮廷の政務や会議が深夜にまで及び、灯りが揺れる書斎の空気が重く沈んでいるような日であっても、眠る前のひととき、必ず顔を合わせて話をしたいと。
会いたくて会えなかった辛い日を思い出したからだ。
もう、あんな思いはしたくない。
アルト殿下は「もちろん」と快諾してくれる。
それから毎日、夜眠る前に話をした。
窓の外に月が浮かぶ時間、蝋燭の火が小さく揺れる部屋で、短いようで長い時間を積み重ねていった。
学園で話せなかったこと、廊下ですれ違うだけで終わってしまった些細な出来事や言葉にならなかった気持ち。
隣国に逃げてどんなことをしていたか。
荷物を抱えながら知らない土地で過ごした不安や、誰にも名前を呼ばれなかった日々。
地の果てに行かなければいけないとわかって、どれだけアルト殿下に会いたかったか。
胸の奥にずっと押し込めていた焦がれるような思い。
ときに笑って、泣いて、抱き合って。
言いたかったことをたくさん話した。
アルト殿下も色々と話してくれた。
ルージュリス家の悪事をつきとめたときのこと。
膨大な記録や証言を一つずつ積み上げていった過程。
私の身を案じてくれたこと。
何度も無茶を止めようとしていたこと。
そして、シエル殿下と仲良くなるために王妃様と話したことも。
「母親同士は、なかなか難しいね」
アルト殿下がため息をついた。肩を少し落とし、天井を見上げるようにして呟く。
母親同士、か。
「アルも、いつかは側妃を持つんですよね。そうなったら仲良くできるでしょうか」
言葉にしながら、少し不安になった。
ミレイアは、側妃の存在でかなりストレスを貯め込んでいたようだったし。
私もそうなるんだろうか。
「…側妃を持つつもりはないよ」
アルト殿下がそう言ってくれた。
静かだけれどはっきりとした声で。
嘘でも嬉しい。
「だから…子どもはたくさんつくろう。ポンポン産もう。側妃なんて話題が出ないくらい」
アルト殿下がそう言うから、笑ってしまった。
思わず肩の力が抜ける。
「ポンポンって、私が産むんですよ?…ポンポンとは産めません」
こればかりは授かりものだしね。
それに、私はもう適齢期を過ぎている。
鏡を見るたびに、自分でもそれを自覚してしまう。
アルト殿下と同い歳の私は、もういい歳だ。
それは、アルト殿下だってわかっているだろう。
「ですから、側妃のことは気になさらないでください」
そう言うと、アルト殿下がキスしてくれた。
「もう、俺のことを諦めないでって言ったよね?」
「諦めていません。側妃がいても、あなたを独り占めできるくらい、魅力的な女性でいる努力をしますから」
そう言うと、アルト殿下に抱きしめられた。
腕の力が少し強くなって、背中に温もりが広がる。
本当のところ、ずっと愛される自信はない。
私より若い女性が側妃として現れて、それでも好きでいてもらえるのか。
王様の側妃は正妃より若くて、王様の寵愛を受けているらしいし。
隣国の皇太子は側妃が何人もいたみたいだから、何人も側妃を娶ることになる可能性はある。
それでも、私は、アルト殿下を好きでいるのを諦めない。
そう、アルト殿下と約束したんだもん。
ぱふっと、柔らかい布団の上に身体が沈み込むようにして、ベッドに押し倒された。
視界が一瞬揺れて、天井の装飾が逆さに見える。
前も、こんなことあったなと思い返す。
シーツの感触や、距離の近さまで、妙に既視感がある。
ミレイアとの仲を取り持とうか悩んでいたときに…
「明日、結婚しようか。いや、今、結婚しよう。…だから、いい?」
耳元近くで落ちるように言われて、思考が一瞬止まる。
何がいい?
状況を理解しきれず、きょとんとして、アルト殿下を見る。
至近距離で視線が絡み合い、まばたきすら忘れそうになる。
じっと見つめられて、ようやく言葉の意味が頭に追いつく。
「だ、ダメですっ!っていうか、今、結婚って、け、結婚って…」
慌てて両手を胸の前に出し、アルト殿下を押して上半身を起こす。
布団がずれて、髪が少し乱れる。
何を言ってるんだ、全く。
アルト殿下が、えろエロ星人(死語)になりました。
助けてぇ…




