38 アルト殿下を愛称で呼ぶのは、無理。
悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法
皇太子 アルト・アズリオン 水魔法
皇太子弟 シエル・アズリオン 風魔法
婚約者 リリアーヌ・マーロウ 雷魔法
ヒロイン ミレイア・ノクス 光魔法
先生 カサンドラ
アルト殿下が私を後ろから抱きしめたまま、動かなくなった。
…?
体を動かそうとしても、動かない。
すごい力だ。
「あ、あの…アルト殿下?」
声をかけたけど、腕をはなしてくれない。
ちょっとバタバタしてみたけど、解放されない。
もしかして、寝ちゃった?
この硬いベッドで王族を寝かせるなんて、刑罰があるんじゃなかろうか?
「あ、アルト殿下?寝ちゃいました?風邪ひきますよ?」
うんうん言いながら体を動かしてみたけど、ドレスを着ているせいもあって、上手に抜け出せない。
「…アルトって呼んでくれたら腕をはなしてあげる」
アルト殿下の声が背中から聞こえる。
起きてるんかい!
「何言ってるんですか、誰かに見られたら、大変なんですよっ」
ジタバタと体を動かして起き上ろうとして、アルト殿下にベッドに引き戻された。
ニッコリ微笑んでいる。
アルト殿下も、そこそこ腹黒ではなかろうか。
「…あんまり苛めないでください…アルト」
むぅっとなって、仕方なく、そう呼んだ。
「アルでもいいよ?アルトって呼びにくくなったら、アルでもいいからね」
アルトって呼ぶのも心臓がバクバクなのに、愛称なんて無理。
ふっと、学園時代を思い出した。
『アルト殿下』と私が呼んだら、アルト殿下は害虫でも見るような顔で私を見た。
『君に名前で呼ばれる筋合いはない。婚約は親が勝手に決めたものだ。学園では他人だと思ってくれたまえ』
そう言われて、私はアルト殿下と仲良くなるのを諦めたんだ。
それが、こうなるんだもんね。
人生とはわからないものだ。
ゲームの中のアルト殿下は、真面目で誠実な人だった。
隣国の皇太子は逆に、少しいい加減で、いわゆるチャラ男。
2人は対照的なキャラとして描かれていた。
実際に学園にいるときは、真面目で誠実だと思っていた。
自分が王族であることを鼻にかけることもなく、他の生徒と同等に扱ってもらいたいと談判していたし。
掃除や準備なんかも、他の生徒と同じようにしていた。
人に優しく、誰にでも気さくに話しかけてもいた…私に以外は。
私の推しは、最高にかっこよかった。
避けていたわりに、けっこう見ていたな、私。
もしも、強制力がなかったら。
学園を一緒に散歩したりしていたんだろうか。
試験前には図書室で一緒に勉強していたりして…
アルト殿下が座った私をもう1度抱きしめてくれた。
「ごめんね。強制力だったとしても…ごめん」
私が考えていることがわかっているように謝ってくれるんだから。
本当に、私の推しは最高にかっこいい。




