37 学園時代の思い出話で、涙涙。
悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法
皇太子 アルト・アズリオン 水魔法
皇太子弟 シエル・アズリオン 風魔法
婚約者 リリアーヌ・マーロウ 雷魔法
ヒロイン ミレイア・ノクス 光魔法
先生 カサンドラ
あの日はたしか、パーティーがある数日前。
エスコートをお願いしようと、アルト殿下にお願いにいったときだった。
それまで近づきがたい雰囲気だったけれど、両親に「誘ってもらえないなら、自分から誘いなさい」と言われて、仕方なく、アルト殿下に声をかけた。
『アルト殿下』と私が呼んだら、アルト殿下は害虫でも見るような顔で私を見た。
その一瞬の冷たさまで、妙に鮮明に思い出される。
嫌われているとわかっていたけど、推しからのあの視線はキツかった。
『君に名前で呼ばれる筋合いはない。婚約は親が勝手に決めたものだ。学園では他人だと思ってくれたまえ』
そう言われて、私はアルト殿下と仲良くなるのを、会話をするのを諦めたんだ。
廊下の端で一人、視線を伏せた自分の姿まで思い出す。
それが、こうなるんだもんね。
人生とはわからないものだ。
ゲームの中のアルト殿下は、真面目で誠実な人だった。
立ち絵の中の凛とした表情や、選択肢で見せる優しい反応が頭に浮かぶ。
隣国の皇太子は逆に、少しいい加減で、いわゆるチャラ男。
軽口を叩きながら場をかき回すような、そんなキャラクターだった。
ゲームの設定で2人は、対照的なキャラとして描かれていた。
実際に学園にいるとき、アルト殿下は真面目で誠実だと思っていた。
課題にもきちんと向き合い、他者への態度も崩さない姿を遠目に見ていた記憶がある。
自分が王族であることを鼻にかけることもなく、他の生徒と同等に扱ってもらいたいと談判していたし。
掃除や準備なんかも、他の生徒と同じようにしていた。
ホコリまみれになったり、泥まみれになっていたり。
本当に王族なんだろうかと、微笑ましく見ていたこともある。
人に優しく、誰にでも気さくに話しかけてもいた…私に以外は。
私の推しは、最高にかっこよかった。
避けていたわりに、けっこう見ていたな、私。
もしも、強制力がなかったら。
もっと素直に言葉を交わしていた未来を、ぼんやりと想像してしまう。
学園を一緒に散歩したりしていたんだろうか。
木漏れ日の下で並んで歩く光景が頭に浮かぶ。
試験前には図書室で一緒に勉強していたりして…
ページをめくる音や、静かな息遣いまで想像してしまう。
アルト殿下が座った私をもう1度抱きしめてくれた。
背中から包み込む腕に、先ほどよりも少しだけ力がこもる。
「ごめんね。強制力だったとしても…ごめん」
低く落ち着いた声が、すぐ近くで響く。
私が考えていることがわかっているように謝ってくれるんだから。
本当に、私の推しは最高にかっこいい。
アルト殿下との結婚を決め切れないまま、神殿での修行は続いていた。
「まあ!ヴェロニカ様はそんな魔法すら使えませんの?」
ミレイアが大きな声でそう指摘する。
わざとらしいほどよく通る声で、周囲の視線を一気にこちらへ引き寄せる。
周囲の神官たちが小さく息を呑むのが分かった。
神殿で本格的に魔法を学び始めているわけだけど。
どうも上手くいかない。
もともと使える炎魔法も、たいして上達していなかった。
修行をしている部屋の高い天井には淡い光を吸う石がはめ込まれ、空気そのものが少しひんやりとしている。
白い石造りの壁に囲まれた空間は静かで、魔力の気配が薄く漂っている。
その静けさが、かえって失敗や未熟さを際立たせるようで、落ち着かなかった。
むしろ、神官が怒ってくれるならいい。
私が『特別』だからか、変に気を遣われて「こういうときもあります」なんて言われるから。
余計に居心地が悪かったりする。
そして、ミレイアにバカにされるのだ。
神官とミレイアを、足して二で割ってくれないだろうか。




