33 ミレイアふたたびで、悩悩。
悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法
皇太子 アルト・アズリオン 水魔法
皇太子弟 シエル・アズリオン 風魔法
婚約者 リリアーヌ・マーロウ 雷魔法
ヒロイン ミレイア・ノクス 光魔法
先生 カサンドラ
そんなわけで、神殿で光魔法を教わりつつ、他の魔法も学んでいきましょう、ということになった。
さらに、私には王妃教育の続きも残っている。
頭の中で予定を思い出すだけで、肩が重くなった。
やること、盛りだくさん。
…寝たいわ。
リリアーヌ嬢は、私と王妃教育を続けるために、わざわざ時間を調整してくれた。
「私がいないと、寂しいでしょ」と言ったリリアーヌ嬢が可愛くて仕方がない。
その言葉を思い出すと、自然と口元が緩んでしまう。
最初はどうなることかと思ったけど、今ではカサンドラ先生とともに同志だ。
色々あったけど、リリアーヌ嬢からは姉的立ち位置を獲得できたのだと思う。
シエル殿下からも、相変わらず可愛い相談を受けたりして交流は続いている。
私は王城と神殿を行ったり来たりして生活することになった。
神殿につくと、さっそく光魔法について学ぶ。
白い光が差し込む部屋に入った瞬間、胸がざわっとした。
なんだか嫌な感じがする。
理由のない違和感が、背中をそっと撫でていく。
「では、ヴェロニカ嬢。一緒に光魔法を学ぶ修道女をご紹介します」
神官がそう言って連れてきた人を見て、固まった。
視線だけが釘付けになる。
「ミレイアです。以前はこの国で聖女と呼ばれておりましたが…色々ありまして。今は修道女として活躍されています」
そう紹介されたミレイア嬢…もう貴族ではないから、ミレイアと言うべきだろう。
ミレイアが礼をした。
色々…そうね、色々。
その「色々」の重みを知っているからこそ、空気が微妙に沈む。
あらためてだが、ミレイアは乙女ゲーム「蒼い誓いと紅い秘密、その扉の向こうで」のヒロイン、ミレイア・ノクスだった。
セレネイド王国の皇太子に嫁いで、セレネイド王国とルミナリス王国が戦争になって、ルミナリス王国に負けて帰ってきていた。
皇太子妃だったミレイアは、皇太子とともに処刑されるはずだったのだけれど、光魔法が使えるということで生かされたと説明を受けていた。
元ヒロインと、元悪役令嬢。
その2人が、仲良く(?)魔法を学ぶという違和感。
変な感じだ。
「神官様、今日は初日ですし、これから学ぶ場所がどんなところか知っておいたほうがいいと思うのです。よろしければ、私がヴェロニカ嬢に神殿をご案内したいのですがいかがでしょうか?」
ミレイアが神官にそう言うと「それはいい考えですね」と言って、本日は神殿を案内してもらうことになった。
ところが、神官が去ると、ミレイアの態度は急変する。
空気が一瞬で冷えたように感じた。
「…ったく。あんたも異世界人だったの?だったら、そう言ってよ。あんたのせいで、めちゃくちゃよっ!どれだけ私が苦労したと思ってるのよ!」
そう言って、ミレイアが私の肩を強く押す。
指先というより、突き飛ばすに近い勢いで、思わず体のバランスが崩れた。
あまりの変貌ぶりに驚いて声も出ない。
「しかも、あんた、アルト殿下の婚約者に返り咲いたんですって?ずうずうしいのよっ!悪役令嬢のくせに!どの面下げて戻ってきてるのよ!」
神殿の精錬で冷たい空気が、そのまま刺さるような声になって響く。
ミレイアの指先がこちらへ突きつけられ、怒りで肩が震えているのが見えた。
さらに一歩踏み込むように距離を詰めてきて、睨みつける目は剥き出しの敵意で濁っている。
突然の変貌ぶりにも、突然の怒号にも、困惑する。
思わず一歩だけ後退し、距離を取るように視線を泳がせる。
「…悪役令嬢って」
いつの話をしているのか。
私はもう、ルージュリス家とは関係ない。
だから、令嬢という言葉はピンとこない。
そんなことを考えていたら、ミレイアはまた、とんでもないことを話し始めた。
「私も最後まで悩んだのよ。隣国の皇太子か、アルトか。でも、アルトは最後まで好感度がマックスにならなくて…まあいいかって隣国の皇太子にしたら、戦争で負けちゃうし!ほんと最悪!」
怒ってるのはわかるけど、なんかわざとらしい。
身振り手振りも大きく、まるで舞台の上の演技のようだった。




