32 聖女認定と、能力。
悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法
皇太子 アルト・アズリオン 水魔法
皇太子弟 シエル・アズリオン 風魔法
婚約者 リリアーヌ・マーロウ 雷魔法
ヒロイン ミレイア・ノクス 光魔法
先生 カサンドラ
ふと、ゲームの内容を思い返す。
あんな親だったから、ヴェロニカは性格が歪んで、悪役令嬢になんてなっちゃったのかもしれないな、と。
アルト殿下の暗殺に関わったルージュリスの令嬢ではあったけれど。
私は、チート能力のおかげで聖女認定となり、処刑を逃れることができてしまった。
その上、アルト殿下の婚約者に返り咲く…
世間では、新たな聖女誕生という声と、生家を裏切った悪女という声で割れている。
街の噂が風のように広がっていくのを想像して、少しだけ遠い目になる。
アルト殿下は悪い噂が入ってこないように気を遣ってくれているけれど、人の口に戸は立てられない。
「あの…アルト・アズリオン殿下」
私がそう呼ぶと「アルトって呼ぶ約束だろ?」と言われる。
あれは、夢だと思ったからなんだけど…
「あの…やっぱり、この結婚は無理があるというか。聖女になるのはいいとしても、その…元婚約者が、側妃を経てまた婚約者になるのもアレですし…その…ルージュリス家のこともありますし…」
言葉を選びながら、視線が泳ぐ。
神殿の床模様を意味もなく目で追いながら、結婚できない理由を並べてみた。
王族の中にも、私とアルト殿下の結婚に反対している人が多いことは知ってる。
わざわざ敵を作ってまで結婚する必要って、あるんだろうか?
「ずっとヴェロと結婚したくて頑張ってきたの、俺。そろそろ俺の頑張り、報われてもいいと思うんだ」
そう言われて、ドキっとする。
アルト殿下が頑張ってくれていたのは話を聞いてわかったけど。
わざわざ言いますか、ここで。
「それに、この間、熱烈に告白してくれたじゃないか。えっと…『アルトは真面目で誠実なところが素敵』」
アルト殿下がそう言って、夢の中だと思って私が言ったことを口に出して言う。
「あとなんだっけ…『アルト殿下が馬に乗って現れた瞬間、あまりの神ビジュに「待って、これ現実?」って』…」
「ひぃよぉぉっ…わかったっ!わかったからっ、それ以上は、ご勘弁くださぃぃ…」
自分で言ったことを覚えているから、さらに恥ずかしい。
ちなみに。
「アルト殿下が馬に乗って現れた瞬間、あまりの神ビジュに『待って、これ現実?』って思ったもん。後光をまとった姿なんて完全にSSR演出だったし。愛馬を操る手綱さばきも麗しすぎて、ほんとうに天上から降臨した騎士神か?神か?美男神か?って思ったんだから!」
と、オタク発言いたしました。
あのときの、アルト殿下のきょとん顔まで覚えている。
そりゃ、きょとんともなるよね。
神ビジュって何?SSRって何?ってなってたはず。
イタい、かなりイタい子になってた…
静けさがまだ残っている中で、自分の叫びだけがやけに生々しく蘇る。
両手で顔を覆いたくなるのを必死で堪えながら、記憶の削除に努めた。
本人に、いかに本人が好きなのかを熱弁したあの日の私。
消えて…
そう願ったけど消えないから観念することにした。
深いため息をひとつ吐いて、現実に戻るように肩を落とす。
「言っておくけど、聞いてる俺も恥ずかしかったんだから、ね」
アルト殿下がそう言って、私の頬にキスをした。
一瞬、時間が止まったように感じて、呼吸の仕方を忘れる。
そういうところだっ!そういうところが…かっこいいんだ、ばかっ!
心の中で叫びながらも、表情は固まったまま動かない。
ダメだ。
破滅は回避できたのに、結婚は回避できません。
そんなわけで、神殿である。
白い石造りの柱が整然と並び、静謐な空気が漂う場所で、私は現実を噛みしめていた。
足音さえ吸い込まれそうな空間に、緊張感だけが漂っている。
結婚は回避できない。
胸の中で同じ言葉が何度も反響する。
結婚するためには、私は聖女になる必要がある。
そのため、私の中にある炎以外の魔法の力をつけるため、神殿で修行させていただくことになった。
この国には魔法省というところがあるから、本来なら魔法省で修行はするのだけれど。
今回だけは特別な待遇で、神官から魔法を教わることになった。
それというのも、この国では、光魔法は特殊で、限られた人しか扱えない。
その上、全属性の魔法が使えるというのは異例中の異例。
そんな人に魔法を教えたことがある人が、魔法省にいなかったのだ。




