31 チートな能力に、冷汗。
悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法
皇太子 アルト・アズリオン 水魔法
皇太子弟 シエル・アズリオン 風魔法
婚約者 リリアーヌ・マーロウ 雷魔法
ヒロイン ミレイア・ノクス 光魔法
先生 カサンドラ
こんなチート能力があるなら、もっと早くに教えていただきたかった。
神殿の白い床の上に立ちながら、自分の手のひらを何度も見つめる。
光を受けて七色に反応する水晶を思い返す。
ただ、私が考えていたのは、隣国へ逃亡したときのことだった。
この力があるってわかっていたら、そうしたら、植物も簡単に育てられたのに…
なんだったら、家も買わなくてよかったかも、なんて思っていた。
私が現実逃避をしている間に、アルト殿下が王族たちの前で語りだした。
周囲の視線が一斉に集まる中、堂々と一歩前へ出る。
その姿は、まるで舞台の中心に立つ役者のようだった。
「いかがでしょうか?これは、神が与えた奇跡。いわば彼女は女神。そんな女性は、第一王位継承者の私の伴侶にふさわしいと思うのです」
そう宣言しているのを見て、アルト殿下がわざわざ神殿に王族たちを引き連れてきたわけを理解した。
周囲の貴族たちがざわめく気配が、薄く広がる。
誰かが小さく息を呑む音さえ聞こえそうなほど、空気が張り詰めていた。
私を、聖女にでもするつもりなのだろう。
アルト殿下ってこんあに腹黒い設定だったかしら?
大掛かりな観劇でも見ていたかのようなアルト殿下の宣言が終わり、王城に戻ってきた。
そうして、なぜか私の部屋にアルト殿下がいる。
アルト殿下の部屋に比べるとかなり質素な部屋で、少し恥ずかしさを感じながら、座り心地の期待できないソファを勧めた。
「シエルのことは気にしなくていいよ。…ヴェロには申し訳ないけど、そもそもシエルの恋愛対象ではなかったみたいだしね」
わかっていたことではあるけれど。
そうハッキリ言われると、ちょっと悲しい。
まあ、11歳年上だもんね。
私も弟としか見られなかったし。
ルージュリス家は、アルト殿下暗殺未遂によって没落した。
アルト殿下から「一応、話しておくね」と言われて、顛末を教えてもらう。
その話を、私は他人事のように聞いていた。
もう帰るつもりもなかったけれど、ついこの前まで私は確かにルージュリス家の令嬢だったのだなと思った。
王都でも名門と呼ばれた公爵家。
誇り高く、気高く、誰よりも完璧であれと育てられてきた。
ただ、両親の最後は、見苦しいものであったらしい。
王宮騎士団がルージュリス邸へ入った時、父は最初、何が起きたかわかっていない顔をしたらしい。
あんなことをしておいて、捕まるとは想像もしていなかったんだろう。
いつも威厳に満ちていた父の姿が脳裏に浮かぶ。
そんな父が、暗殺未遂の容疑を告げられた瞬間は真っ青になったそうだ。
「証拠はあるのか、無礼者!」と王宮騎士団に向かって叫んだそうだ。
ため息が漏れる。
自分の否を認められない人だったんだろう。
それでも騎士団長が手紙を見せた途端、黙ったそうだ。
唇を噛む。
その手紙は、私が捨てられなかった、あの手紙だろう。
ルージュリスの家紋が入っていたし、父の直筆だったから。
動かぬ証拠と言ってもいい。
さらには、私に手紙を渡した侍女が特定されて、逃げ道がなくなったそうだ。
母も一緒に捕まったそうだ。
「私は知らなかった」と何度も繰り返したそうだけれど。
無理があるよね。
侍女を私のところに送ったのは、おそらくは母だもの。
あれほど誇り高さを教えていた人たちが、最後には命乞いのような真似をしたという。
父と母は処刑されるそうだ。
複雑な気分であることは否めない。
私を虐げてきた人達ではあるけれど、実の親が処刑されるのはいい気分がしない。
でもどこかで、ホッとしたのも事実だ。
これで私は、アルト殿下の暗殺に手を貸す必要はない。
シエル派のために、シエル殿下の側妃になる必要もない。
アルト殿下はルージュリス家と私の縁を切らせようと動いてくれていたようだ。
ある程度、ルージュリス家を追い込む証拠は掴んでいたけど、私も処刑される恐れがあったから今まで手が出せなかったと話してくれた。
「実はね…だいぶ、国のお金を横領している」
アルト殿下にそう言われて、思わず頭を下げた。
「いや、いいんだ…いや、よくはないか。でも、ヴェロがそれに加担してないことはわかってるし。屋敷と領地の差し押さえで、なんとか穴を埋めておくね」
そう言って横領についても話してくれた。
我が親ながら、本当にヒドイ親であった。




