34 元ヒロインの言葉に、激震。
悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法
皇太子 アルト・アズリオン 水魔法
皇太子弟 シエル・アズリオン 風魔法
婚約者 リリアーヌ・マーロウ 雷魔法
ヒロイン ミレイア・ノクス 光魔法
先生 カサンドラ
それにしても、まあいいかで選んだの?
「え…好きだから、結婚したんじゃないの?」
激昂しているミレイアから少し距離をとりつつ、疑問に思ったことを尋ねてみた。
「はあ!?好き?何それ!皇太子妃になりたかったから結婚したのよ!それ以外に理由なんてあるわけないでしょ!?だって、攻略対象3人なのよ?3人しかいないの。皇太子のどちらかを選ぶの、当然じゃない!」
語気がさらに強くなり、髪が揺れるほどの勢いで首を振る。
声が響く。
そんなに大きな声を出したら、外にも聞こえるんじゃないだろうか。
攻略対象は皇太子と騎士と隣国の皇太子の3人だけ。
ミレイアの言うとおり、乙女ゲームとしては、攻略対象が少ないのは確かだ。
でも、だからこそ、1人1人とじっくり話せるし、じっくりじっくり相手を観察できる。
眼福…
スチル集め、楽しかったなと、ゲームをプレイしていた頃を思い出した。
「私はね…」
ミレイアがそう話始めて現実に引き戻された。
危ない、危ない。
妄想の世界に行くところだった。
「私は、誰からもチヤホヤされるお姫様になりたかったの。だって、ヒロインなのよ?私が一番可愛くて、一番愛されて当然なの!」
その言葉と同時に、胸を張るように腕を広げる。
だがその動きは誇らしさというより、傲慢な感じがした。
だから、同情することなく、引いてしまった。
それにしても、ミレイアはいつの話をしているんだろう。
学園にいた頃なら、チヤホヤされていたじゃない。
乙女ゲームのヒロインだったけど、もうゲームのストーリーは終わった。
終わってもう、何年も経ってるのに。
「だいたい、アルトの好感度が上がらなかったのは、あんたのせいなのよっ!あんたが邪魔したからでしょ!」
ミレイアにそう言われて、ますます戸惑った。
「私?…私は、なにも…」
言いかけると、またミレイアに肩を押された。
「そう!あんたは何もしなかったの!悪役令嬢なのに、なんで私をイジメないのよ!ちゃんと役割果たしなさいよ!」
足音を踏み鳴らすようにして詰め寄ってくる。
怒りのあまり、声が裏返りそうになっているようだ。
そう言われても。
「ミレイアさんをイジメる理由が、私にはなかったので…」
本当にただそれだけのことだった。
私がイジメなくても、私がイジメたことになっていたし。
周囲の空気が勝手に物語を作っていくのを、ただ見ていただけだった。
ゲームの強制力もあって、私はちゃんとイジメたことになっていたはず。
だからちゃんと悪役令嬢の役割は果たせていたと思うけど。
「挙句!卒業式、来なかったでしょ?!あそこが見せ場なのに!あそこで、あんたがギャフンってされないと、私のハッピーエンドが成立しないのよ!現に、私、修道女になっちゃったんですけどっ?!」
叫ぶように言いながら、両手を振り回す。
怒りで息が荒くなり、肩が上下している。
まあ、たしかに修道女ですね。
でもそれは、私のせいなんだろうか。
「ミレイアさん、落ち着いてください。あの…神殿を案内いただけないなら、今日は帰ります」
この場の空気に耐えきれず、視線を逸らしながら一歩引く。
ここは逃げたほうがよさそうだと思った。
「ちょっと待ちなさいよっ!話は終わってないんだから」
腕を強く掴まれた。
「あんた、アルト殿下と婚約破棄しなさい。もともと、アルト殿下と結婚するのは、ヒロインである私の役目なんだから」
ミレイアが自信満々にそう言った。
声に迷いがない。
私とアルト殿下との結婚については、まだ悩んでいる。
それは事実だ。
でもどうしてだろう。
こいつにだけは、アルト殿下を譲りたくない。
何も言わず、ミレイアの手を振り払って、情けないけど、逃げるように神殿から帰った。
疲れた。
神殿から帰る馬車の天井を見上げながら、心の底から息を吐く。
精神的に疲れた…
ヒロインって、あんな性格だっけ?
窓から差し込む光がやけに眩しく感じられて、私はその場で少しだけ視線を落とす。
胸の奥で引っかかった違和感を確かめるように、ゆっくりと記憶をたぐった。
乙女ゲームでの彼女を必死に思い出してみる。
たしか、人懐っこくて穏やかな雰囲気のキャラクターだった。
ふわりと花がほころぶように笑い、身分や立場を問わず誰にでも自然に寄り添っていく。
そんな、将来の聖女を思わせる少女。
少し抜けたところもあって、よく転んだり物を落としたりしていたけれど、不思議とそれすら愛嬌になってしまう。
守ってあげたくなる危うさと、周囲を和ませる優しさを持った、誰からも愛される存在だったはず。
だからこそ、皇太子や騎士に愛されたのだ。
今日会ったのは、本当にヒロインのミレイアだったんだろうか。
目の前で怒鳴っていた姿を思い返すと、どうしても記憶のキャラと結びつかない。
考えてみたけど、どうにもわからない。
学園にいるときは、必死に避けてきたんだもん。
廊下ですれ違いそうになるたびに、別の道へと逃げていた自分を思い出す。
目すら合わせないように努力していた。
イイ性格だったのはなんとなく覚えているけど。
『あれと仲良くは無理だろ。あんな腹黒…』とアルト殿下が言ったのを思い出した。
腹黒。
本当にあれが、ヒロインだったの?
自分の記憶と現実のどちらを信じればいいのか分からず、思わず眉を寄せる。
愕然とした。




