22 リリアーヌ嬢が可愛い、嫉妬。
悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法
皇太子 アルト・アズリオン 水魔法
皇太子弟 シエル・アズリオン 風魔法
婚約者 リリアーヌ・マーロウ 雷魔法
ヒロイン ミレイア・ノクス 光魔法
先生 カサンドラ
感情を押し殺していた日々を思い出す。
もし私があのとき、リリアーヌ嬢みたいに嫉妬して怒っていたら…
そうしたら破滅エンドだったな、うん。
あの頃のことは残念だと思うけど、生きているという事実があるから、後悔はしていない。
でも、羨ましいなと思いながら、シエル殿下とリリアーヌ嬢を見つめた。
2人のやり取りが、どこか眩しく見える。
この2人には幸せになってほしいな。
自然とそう思ってしまう自分に気づく。
お茶会のあと、シエル殿下に1度お会いして、図書室にアルト殿下がよくいらっしゃるようだとお伝えしてみた。
それから、図書室でアルト殿下とシエル殿下が話している姿が目撃されるようになったらしい。
噂として耳に入ってくるだけだけど、うまくお話できているだろうか。
ちゃんと仲良くなりたいってお伝えできたのかな。
やっぱり、弟のことを考えるようにシエル殿下の心配をしてしまう。
アルト殿下とシエル殿下が図書室で会われているだろうと思うと、ますます図書室に行きづらくなった。
本が読めなくなるのは残念だけど、可愛い弟分のためなら仕方がない。
そう自分に言い聞かせるようにして、別の場所で落ち着けるところはどこだろうと考える。
そこで、気分転換の場所をお庭に移した。
何をするでもないけど、散歩をして設置されている椅子に座ってぼんやりする。
足元の砂利を踏みしめる音だけが静かに響く。
王族限定のお庭ほどではないけど、ここも十分、美しい。
風に揺れる木々を眺めながら、ゆっくりと呼吸を整える。
ぼんやり空を見ていたら、隣に誰かが座る。
気配に気づいて視線だけがそちらへ向く。
私のお庭ではないし、譲るか。
挨拶をして去ろうとして隣を見て、慌てて一歩引いた。
「あ…アルト・アズリオン殿下っ」
思わず声が跳ねるように出てしまう。
驚いて、しどろもどろに挨拶をする。
心臓が一瞬だけ強く跳ねるのを感じる。
なぜ、ここに。
ここ、王族限定のお庭だった?
間違えて来ちゃった?
キョロキョロと辺りを見渡し、いつものお庭だと確認する。
「…ただ、休憩しているだけだから、そんなにかしこまらなくていいよ」
そう言われて、そんな無理なことをと思ってしまう。
椅子はそこかしこにあるのに、なぜ隣に座るんだ。
もしかして、この椅子は王族が座る椅子だったとか?
だったらそれ、不敬じゃん。
処刑じゃん。
やめてよ…
兎にも角にも、心臓に悪いし、一旦、撤退しよう。
そう思って挨拶をする。
「そうでしたか…休憩…あ、で、では、失礼いたします…」
立ち去ろうとして「そう言えば、シエルが、」とアルト殿下が話し始めた。
「シエル殿下がどうされましたか?」
問い返しながらも、会話の途中で立ち去るのは不敬にあたると思って立ち止まる。
弟…じゃなくて、シエル殿下のことも気になった。
足を半歩引いた状態のまま、視線をアルト殿下へ向ける。
「…シエルから、仲良くなりたいと言われたんだが…」
その言葉に、一瞬だけ目を見開きかけて、すぐに抑える。
言えたんだ、と内心で小さく安堵と喜びが混ざる。
「シエルと、どう仲良くしたらいいかわからない。というか、もともと仲が悪いわけじゃないのに、どうしたらいいと思う?」
そう言われた。
アルト殿下は腕を組むでもなく、ただ少し視線を外しながら、考え込むような声音で続ける。
これは相談されたんだろうか?
それとも、愚痴的な?独り言的なやつなんだろうか?
判断に迷い、返答の形を一瞬探す。
「どう…そうですね。図書室でお話されているとうかがっていますが、どんな話をされているんですか?」
「最近、どんな剣の稽古をしているかとか、どんなところに行ったとか。そんな話だが…」
たわいもない話、ということなんだろう。
アルト殿下は少し肩をすくめるようにして答えた。
それにしても、図書室なのに、本の話じゃなくて稽古の話とかしてたんだ。
変な兄弟だ。
「アルト・アズリオン殿下は…」
「アルトでいい」
間髪入れずに返され、空気が一瞬だけ止まる。
「…アルト・アズリオン殿下は、シエル殿下と仲良くできていると思ってるんですよね。そうであれば、無理に何かする必要はないのではないでしょうか」
そう伝えて、軽く微笑を添える。
表情は崩さないように意識しながら、声の調子も一定に保った。
「アルトでいいよ」
再び同じ言葉を言われた。
わざとスルーしたのに。
執拗な訂正に、少しだけ視線を伏せかける。
「殿下をお名前で呼ぶことはできません。あ、シエル殿下のことですが、図書室以外でもお話されるのもいいかもしれませんよ」
アルト殿下は、アルト殿下と呼んでほしいようだ。
学園ではそう呼ぶのを嫌がられたのに。
過去の記憶と今の態度の差に、内心で小さく首を傾げる。
ストーリーの強制力がなくなってからのアルト殿下は別人みたい。
学園を卒業してからアルト殿下に会えていたら、アルト殿下と私の関係も変わっていたのかな。
そんな無意味な想像をしてみたりする。




