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破滅エンドが確定しました。悪役令嬢ですが知ったこっちゃない、逃げる。  作者: 西園寺百合子


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21/50

21 シエル殿下からの相談に、悩む。

悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法

皇太子  アルト・アズリオン    水魔法

皇太子弟 シエル・アズリオン    風魔法

婚約者  リリアーヌ・マーロウ   雷魔法

ヒロイン ミレイア・ノクス     光魔法

先生   カサンドラ

「あのね、あのね…ヴェロニカ嬢はアルト兄様と仲がいいの?」

そう言われて、かなり悩む。

仲がいいの、という問いは、仲がよければ私に何かをお願いしたいということだろうか。

「アルト殿下に何かお願いがあるのですか?」

仲がいいかという問いには答えられないが、相談にはのれるかもしれない。

私の言葉に、シエル殿下は真っ赤になる。

なんて可愛い生き物なんだろう。

7歳の破壊力、すごい。


「あのね…僕ね、アルト兄様と仲良くなりたいの。…でもね、お母様はね、アルト兄様と仲良くすると嫌な顔をするんだ。でもね、僕は仲良くなりたくて。どうしたら仲良くなれるかな?」

小さな手が膝の上でぎゅっと握られたり開かれたりしていて、言葉を紡ぐたびに視線が泳ぐ。

一生懸命言葉を選んでいるのが伝わってきて、胸の奥が少しだけ温かくなる。

相談内容までも可愛いじゃないか。

「アルト殿下に、仲良くなりたいとお伝えになったのですか?」

少し前のめりになりながら、慎重に問いかける。

「ううん。…だからね、今日、お茶会にアルト兄様も参加したいって言われて嬉しかったんだ」

足元を見つめながら、小さな声で答える。


その言葉に一瞬だけ思考が止まる。

そうだったんだ…?

アルト殿下がお茶会に参加したいって言ったの?なぜ?

「僕から仲良くなりたいって言ったほうがいいかな?」

シエル殿下がもじもじしている。

「私から伝えてよければそうしますが、シエル殿下から伝えたほうがアルト殿下は喜ばれると思いますよ」

そう言って、シエル殿下の手を握る。


小さな指が冷たい。

すごく悩んでいたんだろう。

手が震えていたからだ。

「まあ!ヴェロニカ嬢!抜け駆けなんて、ずるいですわっ!!」

軽い足音とともに、明るい声が響いてリリアーヌ嬢が戻ってこられた。

私を見て、頬をふくらませている。

いいタイミングなのか、悪いタイミングなのか。


慌ててシエル殿下から手をはなして「失礼いたしました」とリリアーヌ嬢に場所を譲った。

手を胸の前で揃え、わざとらしく一歩下がる。

「あちらのお花についてうかがっていたんです。ね、シエル殿下?」

視線を自然に逸らしながら、軽く笑顔を作って言う。

そう言うと、シエル殿下が「そうなんだ」とリリアーヌ嬢にお花の説明を始めた。

身振りを交えながら一生懸命話す姿に、場の空気が少しだけ和らぐ。

リリアーヌ嬢が生き生きと会話を始めたから、そっとその場をはなれることにした。


私の役目は色々と終えたから、帰ってもよかったのだけれど。

アルト殿下が座っているから、勝手に帰るのもいけないかなと思って、とりあえず席に戻る。

「なんの話をしていたの?」

アルト殿下に話しかけられて驚いてしまった。

紅茶のカップを持つ手が一瞬止まる。

「え?…あ…えっとぉ…」

言葉を探すように視線が泳ぐ。

シエル殿下に相談された内容が内容だけに、話してもいいのか悩む。

シエル殿下に直接伝えたほうがいいと言った手前、私から伝えるのは違う気がする。

視線を少し落としながら、もごもごと答えた。

「シエル殿下に…お花の説明をしていただいていただけです…」

そう言って、紅茶で言葉を飲み込んだ。


「シエルのことは、シエル殿下って呼ぶんだね」

アルト殿下に言われた意味がわからない。

瞬きを一つする。

首を傾げると、アルト殿下がちょっと気まずそうに私をちらっと見て、視線を前に戻す。

「俺のことは、アルト・アズリオン殿下って呼ぶだろ?」

そう言った。

ちょっと、びっくりした。


そりゃあ、そうでしょうよ。

私はシエル殿下の側妃候補で、シエル派で、アルト殿下の元婚約者なのだもの。

私の経歴自体、複雑なのだ。

今はシエル殿下の側妃候補だから、アルト殿下には少し距離があるくらいの呼び方のほうがいいと思っている。

むしろ、『シエル殿下のお兄様』と呼んだ方がいいかもしれないとさえ思っている。

呼ばないけど。


「俺は…」

アルト殿下が何かを言おうとしたところに、シエル殿下とリリアーヌ嬢が戻ってきた。

衣擦れの音と軽い足音が重なり、場が賑やかになった。

慌てて席を立って2人が座るのを待つ。

リリアーヌ嬢はニッコニコだ。

頬が上気していて、先ほどまでの緊張が嘘のように柔らかい表情になっている。

楽しく話ができたんだろう。

手振りまで軽やかで、侍女に向ける声も弾んでいる。

シエル殿下も楽しそうだし、相性はいいんだろう。

小さな笑みを浮かべながら歩く姿に、こちらまで少しだけ安心する。


リリアーヌ嬢が侍女に何かを話している。

そのすきに、シエル殿下が私の袖口をまたクイクイと引っ張ってきた。

布が軽く揺れる感触に、自然と視線が下がる。

「また、相談に乗ってくれる?」

そう言ったシエル殿下がとても可愛い。

少しだけ見上げるような目線が、まっすぐで曇りがない。

もしも弟がいたら、こんな感じなんだろうか。


元の世界でも一人っ子だったし、この世界でも一人っ子だから、弟や妹がいるのは憧れてしまう。

可愛い弟のために、一肌脱ぎますか。

小さく息を吐いて気持ちを切り替える。

「もちろんです、シエル殿下。何かあれば、いつでも」

そう言って微笑むと、シエル殿下も微笑み返してくれた。

表情がふわっとほどけて、空気がやわらかくなる。


「ちょっと!そこの2人!何を微笑みあっていますのっ!」

鋭い声とともに視線が刺さるように飛んでくる。

リリアーヌ嬢が怒っている。

腕を組み、頬をふくらませながらこちらを見ている。

こうしてみると、リリアーヌ嬢もいちいち嫉妬して可愛い。

感情がそのまま表に出るのが、ある意味で素直だと思う。


私はアルト殿下のことで嫉妬して、怒ったことってあっただろうか。

記憶をたどるように一瞬だけ視線を上に向ける。

破滅エンドを回避するために、アルト殿下とミレイア嬢がイチャイチャしていても見ないフリをしていた。

むしろ、早くくっついて、そっちはそっちで勝手にやっていてくれればいいのにと思っていたかも。

そうだ。

あの頃の私は、恋をすることを飽きてめてた。

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