21 シエル殿下からの相談に、悩む。
悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法
皇太子 アルト・アズリオン 水魔法
皇太子弟 シエル・アズリオン 風魔法
婚約者 リリアーヌ・マーロウ 雷魔法
ヒロイン ミレイア・ノクス 光魔法
先生 カサンドラ
音がしたほうをみると、緊張しまくったリリアーヌ嬢がティーカップを転がしていた。
ひゃーっとなる。
淑女のマナーとしてはいただけない。
シエル殿下も固まっている。
シエル殿下とリリアーヌ嬢の仲を深める作戦もあったのに、これでは悪いほうへ行ってしまう。
思わずカップを掴んで、中に入っている紅茶を、リリアーヌ嬢のドレスにかけた。
「きゃあっ!申し訳ありません、リリアーヌ嬢!大変!すぐにお着替えを…」
そう言って、リリアーヌ嬢の侍女に目配せをする。
「緊張されているようだから、ちゃんと緊張をほぐしてさしあげて」
こっそり侍女に伝えて、一旦、ドレスを着替えてきてもらうことにした。
ここはあれだ、私が悪者になったほうがいいだろう。
「シエル殿下、申し訳ありません。私がうっかりお茶をこぼしてしまったせいで。お見苦しいところを…」
そこまで言うと、シエル殿下が私の袖口をクイクイと引っ張った。
可愛い…
座っているシエル殿下の前にしゃがんで「どうかされましたか?」と尋ねると、片手をクイクイと動かす。
これは、秘密の話をしたいということかなと耳をシエル殿下の口に寄せた。
「あのね、相談があるの。2人でお話できる?」
シエル殿下にそう言われて、アルト殿下をちらっと見た。
アルト殿下にも、丸聞こえだったはずだ。
「…あ~、アルト・アズリオン殿下、申し訳ありませんが、シエル・アズリオン殿下に…あ、あそこの花について教えていただきたいのですが、席を外してもよろしいでしょうか?」
バレバレの嘘。
「ああ、どうぞ」
アルト殿下はやっぱり大人だから、聞いていなかったフリをしてくれた。
2人きりになると、シエル殿下がもじもじとして話を始めた。
「あのね、あのね…ヴェロニカ嬢はアルト兄様と仲がいいの?」
そう言われて、かなり悩む。
仲がいいの、という問いは、仲がよければ私に何かをお願いしたいということだろうか。
「アルト殿下に何かお願いがあるのですか?」
私がそう言うと、シエル殿下は真っ赤になる。
9歳の破壊力、すごい。
「あのね…僕ね、アルト兄様と仲良くなりたいの。…でもね、お母様はね、アルト兄様と仲良くすると嫌な顔をするんだ。でもね、僕は仲良くなりたくて。どうしたら仲良くなれるかな?」
なんて可愛い相談なんだろう。
「アルト殿下に、仲良くなりたいとお伝えになったのですか?」
「ううん。…だからね、今日、お茶会にアルト兄様も参加したいって言われて嬉しかったんだ」
そうだったんだ…ん?
アルト殿下が参加したいって言ったの?なぜ?
「僕から仲良くなりたいって言ったほうがいいかな?」
シエル殿下がもじもじしている。
「私から伝えてよければそうしますが、シエル殿下から伝えたほうがアルト殿下は喜ばれると思いますよ」
そう言って、シエル殿下の手を握る。
すごく悩んでいたんだろう。
手が震えていたからだ。
「まあ!ヴェロニカ嬢!抜け駆けなんて、ずるいですわっ!!」
そこにリリアーヌ嬢が戻ってこられた。
いいタイミングなのか、悪いタイミングなのか。
慌ててシエル殿下から手をはなして「失礼いたしました」とリリアーヌ嬢に場所を譲った。
「あちらのお花についてうかがっていたんです。ね、シエル殿下?」
そう言うと、シエル殿下が「そうなんだ」とリリアーヌ嬢にお花の説明を始めた。
リリアーヌ嬢が生き生きと会話を始めたから、そっとその場をはなれることにした。




