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破滅エンドが確定しました。悪役令嬢ですが知ったこっちゃない、逃げる。  作者: 西園寺百合子


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19/50

19 コンプリートで、安心。

悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法

皇太子  アルト・アズリオン    水魔法

皇太子弟 シエル・アズリオン    風魔法

婚約者  リリアーヌ・マーロウ   雷魔法

ヒロイン ミレイア・ノクス     光魔法

先生   カサンドラ

翌日、カサンドラ先生が目を輝かせながら私とリリアーヌ嬢に、シエル殿下からお茶のお誘いをいただいたと伝えてくれた。

扉を開けるなり、抑えきれない喜びを隠しきれない様子で、声が弾んでいる。

アルト殿下が、すぐに動いてくれたのだろう。

今度…いつか会えたときにお礼を言わなくてはいけない。


「私だけではなく、ヴェロニカ嬢もですか?」

リリアーヌ嬢は、露骨におもしろくないという顔をした。

唇を尖らせ、視線をわずかに逸らす仕草がわかりやすい。

「まあ、シエル殿下はお優しいのですね。シエル殿下に気に入られるように、少し体型を絞らないといけませんわ~」

そう言って、ウエストのあたりを意識しているようなしぐさをする。

リリアーヌ嬢がそれを見ているのを感じる。

ウエスト、つまりは、お腹。

ここをキュッとさせるのよ。

心の中で、リリアーヌ嬢にアドバイスを送る。


リリアーヌ嬢にやる気を出させるため、私はあれやこれやと演技をしてきた。

言葉や表情を少し誇張しながら、リリアーヌ嬢を煽ることにも慣れてきている。

もしもこれから9年、これを続けたら、私は立派な女優になれると思う。

内心で少しだけ遠い目になる。


「まあ!さすがヴェロニカさんは、男心がわかっていらっしゃるのねー」

カサンドラ先生、棒読み。

まだ恥ずかしさが拭いきれていないのだろう。

頬にうっすら赤みが残っていて、視線も少し泳いでいる。

でもね、棒読みのほうが恥ずかしいのですよ、カサンドラ先生。

早く吹っ切ってくれないと、1人で熱演していてバカみたいになる。

頑張れ、カサンドラ先生。


「カサンドラ先生、私は明日から2時間、庭を歩くことにいたしますわ!」

勢いをつけて宣言するように言いきった。

するとカサンドラ先生が「それはいいですね!」と言った。

私とカサンドラ先生の様子を見て、リリアーヌ嬢があたふたとし始めた。

ノッてこい、ノッてこい。

ここは、祈るしかない。


「まあ、私なんて、3時間は歩きますわっ!」

リリアーヌ嬢が、ようやく乗ってくれた。

声に張りが出て、目には競争心のようなものが宿る。

「あら、リリアーヌ嬢は、そのままでもふっくらされていて、ふっくら、されていて、可愛いのですから。運動なんてしなくてよろしいのではないかしら」

ふっくらという部分を強調して伝えると、リリアーヌ嬢は顔を真っ赤にして怒っていた。


椅子から身を乗り出しそうな勢いで反応している。

「見ていらっしゃい!あなたより、痩せてみせますわっ!」

リリアーヌ嬢はそう言って部屋を飛び出していった。

リリアーヌ嬢に運動させるというミッションもクリアできたようだ。

お茶会の開催は1週間後。

悩んだけれど、その実、私、つまりヴェロニカは痩せる必要がない。

ただ、リリアーヌ嬢に運動しているという姿を見せる必要はあったから、筋肉をつける運動をすることにした。


パン屋をやって生活していた頃より、ぐっと筋肉は落ちてる。

これから歳をとると、太りやすくなるから、今のうちから筋肉をつけておくのもいいだろう。

という、現世の知識が役に立った。

庭に出ては歩き、また部屋に戻ってストレッチをして、さらに歩いて…

石畳の上を一定のリズムで踏みしめる音が、だんだんと習慣のように体に染みついていく。

リリアーヌ嬢をダシにして、私も真剣に運動してしまった。


結果、少し体重が…増えた。

鏡の前で体の線を確かめて、ホッとする。

以前と変わっていない。

ちゃんと筋肉が増えたのだろう。

だから、私はそれほど悲観していない。


「おほほっ!ヴェロニカ嬢は体重が増えたそうですね」

扇子を軽く振りながら、リリアーヌ嬢は勝ち誇ったように言った。

声にわざとらしい明るさが混じっている。

負け惜しみではなく、本当に気にしていないんだけど、一応悔しがる演技をしておいた。

胸の前で小さく拳を握り、視線を少し落としてみた。

騙せたかな?

リリアーヌ嬢も実はそれほど体重は減っていない。

でもそこはリリアーヌ嬢の侍女と結託して少しずつ痩せていることにしている。

侍女たちが密かに数字を調整しているのを思い出して、内心で苦笑する。

そうして、シエル殿下とのお茶会の日となった。


朝から空気が少しだけ澄んでいて、庭園の方角を意識するだけで緊張が増していく。

王宮の廊下を抜けるたびに、足音がやけに響いて聞こえるほど静かで、今日という日が特別だと分かる。

リリアーヌ嬢に運動させるためだけの会だったけど、せっかくならシエル殿下とリリアーヌ嬢の仲を深めるのもいいだろう。

あくまで仕事、あくまで付き添い、と何度も心の中で繰り返す。

そう思って同行する。


小さいリリアーヌ嬢の歩幅を合わせながら、少し後ろをついていく。

なんとなく、小学校教師にでもなった気分だ。

途中で転ばないか、飛び出したりしないか、突然、別のことに興味を持って走りだしたりしないか…って、これは、まさに先生目線だ。

でもまあ『怪我無くお家に帰らせるのがお仕事』的な気持ちにはなっている。


シエル殿下のお茶会は王族しか入れない庭園で開催される。

門の向こうに見える庭は、いつも見ている庭よりさらに整えられ、剪定された花々が均一に並び、静謐な空気が漂っていた。

噴水の音だけが規則正しく響き、豪華ではあるけれど、落ち着きを感じる空間だった。


婚約者であるリリアーヌ嬢が入るのは問題ないが、側妃の、しかも候補でしかない私が、この庭に入れていただけるのは異例だ。

使用人や護衛の視線が、ほんの一瞬だけこちらに集まり、すぐに逸れていくのがわかる。

シエル殿下が取り計らってくれたのかもしれない。

ただの7歳の子ども。

そう思っていたけれど、やっぱり王族なんだなと実感した。

権力という、私にはない力を持っているんだ。


美しい花々の先に、お茶会の席は用意されていた。

「シエル殿下、お茶会のお誘い、ありがとうございましゅ」

リリアーヌ嬢が緊張のためか挨拶を噛んでしまった。

頬が一瞬で赤くなり、視線が泳ぐ。

その隣にいる少年が、シエル殿下だった。

けれど、想像していたより、ずっと小さい。


7歳という年齢のはずなのに、体つきはさらに幼く、頬もまだ丸みが残っていて、背丈も同年代より低く見える。

整った衣装に身を包んでいるのに、その中に収まっている存在があまりにも「子ども」だった。

瞬きをするたびにまつ毛が揺れて、表情もどこか頼りない。

それでも真っ直ぐこちらを見ている瞳だけが、妙に大人びていて、そのアンバランスさが余計に幼さを際立たせていた。

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