ラスボス戦 VS天条誠人完結編
天条誠人は、激昂した。
人目もはばからぬ猿のような取り乱し方を首相官邸内の天条の間で演じた。それこそ、机を叩き割るかのような勢いで。
原因は、彼の妻からのメール。
そこには、彼の妻であるえびすヒロ子が、詐欺師セブンによって、使役されている土でできた大きな手に捕らえられている30秒動画が映っていた。
「また、捕まったじゃ。助けてケロ。byえびすヒロ子じゃなく、御影 尾道」という文面を添えて、人質のいる場所と絶対に一人で来るように、と念押しのメッセージが、動画の下にひょこひょこ動くカエルのスタンプと一緒に表示されていて、それが余計に天条誠人の神経を逆撫でた。
「あの死に損ないのど畜生供がぁああっ!!」
我を失うとは、まさに、この事だったが、天条誠人は、あらかた天条の間で暴れ終わると、射精を終えたように、静かになり、冷静になった。
携帯の通話をONにし、
「フレアか。佐藤 実とジョン・カールソンと共に今から、言う場所に向かうんだ。ああ、お前らの手で昔のお仲間を始末しろ」
と指示を出す天条誠人の表情は、えびすヒロ子に対するM気などまるでなく、先手なら神にもチェスで勝てるという悪魔の頭脳の持ち主のような冷淡な加虐性を帯びていた。
その日の深夜零時を回った時間帯、人質えびすヒロ子と共に東京港区の立体駐車場で天条を待ち構えていた御影尾道とセブンは、自分達以外にそこをその日、利用する者がいない異様さに気づいていた。
あきらかに天条誠人の手によって、人払いがされている。
そこで、その日、激しい戦闘が行なわれるのは、もはや、運命よりも確かに思えた。
天条との待ち合わせの時刻が近づくにつれ、PNCを装着し、準備万端、腹をしっかり据えたはずの御影やセブンにも段々と緊張が走ってくる。
御影達とグルのえびすヒロ子は、事態の深刻さがわかってるのかわかってないのかわからない表情で、しきりに腹をさすっていた。
約束の時刻になり、天条誠人は、一人で立体駐車場にやってくる。わけがなかった。
天条誠人の後ろには、横一列で佐藤 実、フレア・カモニークスキー、ジョン・カールソンが続いて、歩いて来ている。
立体駐車場の周りは、魔法の炎の壁によって、囲われた。
「これは、これは、驚いた。俺の能力で御影、お前を生き返らせて、仲間にしようとしたが、できなかった。いったい、どんなマジックを使ったんだと思っていたが、まさか、肉体を入れ替えて、生きていたとは。ずいぶんとかわいい見た目になったな」
天条は、開口一番、女子高生の制服を着た今日本明日香の肉体を借りている御影尾道をバカにして、せせら笑った。
御影尾道は、それに動じす、天条誠人に
「一人で来る約束だが」
と言った。
天条は、それを聞いて、おかしそうに笑い続けながら、
「人質がどうなっても、知らないぞ、か?」
と御影に訊いた。
「そんな女になんの価値がある?何度も敵に捕まるドジでバカな女は、俺の人生の足手まといだ。世の中には、他にもっとマシな女が、たくさんいる。その女には、いっそこの際、ここで消えてもらった方がいい」
天条のその発言に、えびすヒロ子は、目を丸くし、唇をとんがらす。
「なんだ?まさか、本気で愛されてると思っていたか?誰が、空も飛べない猿なんかに恋なんてするもんか。俺を誰だと思っている?お前相手に薬なしで射精なんて、したことないだろーが!」
えびすヒロ子は、この時の天条誠人の発言に関して、後にインタビューで、こう答えている。
「クスリ?麻薬や覚醒剤のことやないよ。あいつが言ったんは、ED治療薬のこと。なんか、30歳超えたあたりで童貞のまま、おしゃかになってもうたんやて。あのおっさん。笑えんやろ」
時は、再び、御影達と天条達が対峙してるシーンへ。
「どこかで見たシーンだよな。もっとも、今は、あの時より、こちらは、一人多いが」
天条は、暗に自陣についたジョン・カールソンを指して、言う。
「まぁ、人数なんて、関係なく、佐藤 実を抑えてるかぎり、俺の勝ちパターンは、決まっている。お前らのPNCを奪って、それで終いだ。お前らの切り札は、そのバカな人質女だったんだろーが、それが効かないとなったら、どうする?」
天条に訊かれても、御影は、答えない。ずっと押し黙って、何かに集中している。
「まぁ、殺し合いをする前に話し合いをしようか。こちらの勝ちは、もう決まっているし、」
盛大な与太話を始めるような口調の天条。
「俺は、な。日本だけじゃなく、世界を狙っている。世界中の首脳供は、俺の催眠能力でどうにかするとして、世界を実際に統治するには、駒が足りない。俺一人で世界中をずっと監視してるわけにもいかないしな。しかし、駒と言っても、誰でも務まるもんじゃない。お前達のように実際的な力がないとな」
「俺達にお前の仲間、いや、配下になれと言っているのか?」
御影の替わりにセブンが天条に訊ねる。
「ああ、悪い話じゃないだろう」と天条。
「俺達に何の得がある?」とセブン。
「わかりきってる事を訊くなよ、セブン。俺の下に就けば、永遠の命が手に入る。仮に死んでも、生き返らせてもらえる。今とは、違う健康な身体でな、セブン」
天条は、セブンに積極的に話しかけた。御影よりも御しやすいと感じたのか。裏切りは、詐欺師の十八番と考えたのか。やけに自信たっぷりに、セブンに語りかける。
「ミントの葉や刺激物で胃を麻痺させ、自分を騙し続けるのは、さぞ、辛かろう、セブン。健康な身体に生まれ変わりたいとは、思わないか?」
天条は、すでにポイリーの伝達能力でセブンの健康状態も把握していたのだ。
「なあ、セブンの旦那。意地、張るなよ。あんたもこっちに付けよ。アメリカより、こっちの味方に付いた方が絶対、お得だろ?アメリカの味方したって、ヒーロー扱いしてもらえるだけで、意味ないって」
と言ったのは、フレア・カモニークスキーの色仕掛けにより、マインドコントロールされているジョン・カールソンであった。
セブンは、それに対し、
「アメリカの味方したって、意味がない?確かに、その通り。そっちについた方が得?同感だ。間違いない」
と話に乗るかに思わせておいて、
「しかし、上からごたごた言われて、それを聞いてたんじゃ、詐欺師じゃない。詐欺師は、フリーランス。詐欺師は、常に自由じゃないといけない」
ときっぱりと勧誘を断った。
「それに、ジョン・カールソン。お前は、その男に騙されているぞ。そいつは、詐欺師よりタチが悪い。その男は、人を生き返らせる能力なんて、持っちゃいない。その男の持っている能力は、現実関渉。催眠能力を世界全体に広げて、人々を生き返らせたかのように見せかけているに過ぎない。エージェントチャールズの報告書にそう書いてあった」
セブンにそう言われ、ジョン・カールソンは、
「何を言ってるんだ?フレアを見ろよ。彼女は、ちゃんと生き返ってるじゃないか」
と戸惑う。
「そうよ。私が証拠よ。天条様の人を生き返らせる能力は、本物よ」
とフレアは、断言する。
それにセブンは、
「残念だが、フレア。君は、フレアであって、フレアじゃない。君は、天条の能力がフレアの形を持って、自分は、フレアだと思いこんでいる存在に過ぎない。君は、本物のフレアじゃなく、天条のただの能力だ」
と断言し返す。
「そんな馬鹿な話、よく言えるわね。私は、間違いなく、フレア・カモニークスキーよ。私は、私の記憶を持っているもの」
そう言いながら、フレア・カモニークスキーは、自信の中に不安を覗かせた。
「両親の名前は、言えるか?」とセブン。
「言えるわよ、当然でしょ」とフレア。
「祖父母の名前は?」とセブン。
フレアは、少し口籠って、「元々、知らないだけよ」と言う。
「初恋の人の名は?その人は、どんな顔をしてた?好きな色は?どんなアレルギーを持ってる?嫌いな食べ物は?好きな食べ物は?その炎の魔法は、いつから、使えるようになった?初めて、その炎で燃やしたものは?」
セブンは、矢継ぎ早にフレアに質問した。
フレアは、天条に助けを求める潤んだ瞳を向ける。
「天条様。私は、本物のフレア・カモニークスキーですよね?」
天条は、なんでもない事のように、彼女に
「そんな事は、どうだっていいじゃないか」
と言った。
「大切なのは、君が君だと認識し、今を生きている事だ。本物だとか偽物だとか、現実だとか現実じゃないとか、そんな事は、些事だ」
天条自身は、言いながら、その冷淡さに気づいていない。
「そんな……」と当然、フレアは、ショックを受け、両手でその小顔を覆う。
天条は、彼女が使い物にならなくなる前に「思考同調」と言って、催眠効果能力で彼女の意識を乗っ取った。
「まったく、バカらしい能力だ。自分で作った幻に催眠をかけないといけないなんて」
天条のその態度にジョン・カールソンは、
「おい!どういう事だよ!天条!」と食って掛かろうとするが、
「思考同調」とPNCを装着していなかった為、簡単に意識を乗っ取られる。
「まったく、余計な事を言ってくれたなぁ、セブン」
天条は、静かに関西人特有の巻き舌とドスを利かせた。
「交渉決裂だ」
と天条が手をかざすと、その指示に従い、フレアの魔法の炎が御影達に覆いかぶさるように襲いかかって来た。
それをセブンは、一瞬で床を亀裂させ、土を噴出させ、大きな土の壁を作って、防ぐ。
「まだなのか!御影!間に合わないなら、プランBに移れ!」
セブンは、珍しく声を荒げた。
御影は、それに答えない。
炎を防いでいた土が、天条に操られたジョンの風と佐藤 実の磁力のようなパワーで粉微塵に吹き飛ばされる。
御影達は、炎に飲み込まれる。はずだった。が、
フレアの魔法の炎は、何かに弾かれたように空中で止まり、御影達に触れることなく、それ以上、進まなかった。
「反撥?佐藤 実の能力か?」
天条は、佐藤 実の催眠が解けたことを一番に疑ったが、佐藤 実は、未だ、天条の催眠にしっかりと掛かっていた。
では、誰が?
「念力?念力なのか?この能力は?いったい、誰の?御影か?セブンか?」
しかし、そんなはずは、なかった。ポイリーの伝達で天条は、すでにセブンは、土。御影は、水。を使役する能力だと知っている。この二人に念動力の力などない。ポイリーの相手の脳から情報を読み取る能力に間違いがあろうはずは、ない。
では、誰が?
二度、考えを巡らして、天条は、魔法の炎に向かって、手をかざす人物と目が合う。
その堂々とした立ちっぷりの人物は、えびすヒロ子だった。
「馬鹿な!お前みたいな猿にそんな能力、あるわけがない!お前は、ただの人間のはずだ!」
気を取り乱した天条は、ジョンのかまいたちで、えびすヒロ子に襲いかかるが、えびすヒロ子は、それも手をかざすだけで、弾き飛ばしてしまう。
ならば、と次に天条は、佐藤 実の能力でえびすヒロ子を引き寄せようとするが、えびすヒロ子は、ぴくりとも動かない。
「まさか、騙されていたのは、俺の方だと言うのか!?」
天条誠人は、これまでの人生にないぐらい大きく動揺する。
えびすヒロ子は、そんな天条をまっすぐに見つめながら、言う。
「わっちの能力やない。これは、この子のパワーじゃ」
えびすヒロ子は、意味深に自らのお腹をさすった。
「お……お前、俺の子を……」
天条は、すべてを悟り、言葉を失う。
えびすヒロ子は、天条誠人の子を身籠っていたのだ。
念動力は、そのえびすヒロ子のお腹の中の子が命の危機に瀕して、発現した能力で、母であるえびすヒロ子は、それを敏感に感じ取ったのだ。
ESP能力者からPK能力者が誕生するのは、遺伝学的に異例であったが、可能性は、ゼロではなかった。
「ヒロ子さん、ありがとう。俺は、奴と刺し違えるつもりだったが、これで準備が全て、整った」
御影尾道は、えびすヒロ子に深く礼を込めて、言った。
「おい、刺し違えるつもりだったのかよ。俺は、聞いてねぇぞ」
セブンは、勝算の高い戦いだと思ったから、御影に協力したのだ。命を捨てる気など毛頭なかった。まさか、準備にここまで時間がかかるとは、知らなかったのだ。
御影尾道は、天条誠人の方へと前進していく。
フレア、ジョン、佐藤 実、この3者を我が子の念動力で抑えられた天条は、がら空き。では、なかった。
まだ、天条には、守護霊という強力な盾であり、矛である最終兵器があった。
「がるるるるぅっっっ!!!」と透明な半獣半人の怪物は、御影尾道の前に立ちはだかるも、相当な集中力を持って、準備を済ましたソウルイーターの発動によって、魂を「があっがあっがあっ!!!」と呻き声を上げながら、全て吸いつくされ、消えてしまう。
「お……俺をどうするつもりだ……!?」
天条は、腰を抜かして、たじろぎながら、次の策を練っていた。えびすヒロ子のお腹の中の子を操りさえすれば、まだ、状況を挽回できるのではないか。しかし、そう考えた時点で能力が使えなくなる程の激しい頭痛に襲われた。
えびすヒロ子のお腹の中の子が防衛本能で攻撃してきたのだ。
能力が使えなくては、天条誠人は、ただの中年太りのおっさん。もう、打つ手がなかった。
「ソウルイーターで魂を吸うつもりか?」
天条は、雨に濡れた捨て犬のような目でうらめしく、御影尾道を見つめた。
「それもやるが、ソウルイーターの準備が整わなかった時用のセブンの立てた策がある。せっかくだから、それを使おう」
御影尾道は、天条の前で印を結んだ。そして、
「吽!」と力強く唱えた。
瞬間、天条誠人の腹部が内部から、破裂した。
「どうして?どうして!?どうして!!?」
天条誠人は、血を吐き出しながら、もんどり打った。
御影は、天条を見下ろしながら、
「今日、お前は、家にある水をどれだけ、飲んだ?」
と訊いた。
「まさか」
「そう。えびすヒロ子さんには、俺達の人質になる前に今日、俺の魂を込めた水を自宅に仕掛けてもらった。えびすヒロ子さんの自宅、つまりは、お前の自宅に」
「悪魔か。お前は」
「お前には、言われたくない」
御影尾道は、にんまり笑って、天条誠人の魂をソウルイーターで吸いながら、言う。
「これで、お前は、肉体的にも魂的にも死んでしまうから、仮にお前の現実関渉の能力でこの死をなかった事にしても、生きるのは、お前ではなく、お前の形をしたお前の能力の残りカスだ。お前が残りカスを生かしても、また、ソウルイーターで吸い殺すがな」
天条誠人は、満足そうな御影尾道に息も絶え絶えに
言う。
「お前らは、……何も……わかってない……真の敵を……倒すには、はっ……魔王を……味方につけないと……いけない……のにっ、……俺は、……ここでは、……死んでは……いけないの……にっ、……お前らがっ……歴史を……変え……たっ」
「ずっと言ってろ」
御影尾道は、そう吐き捨てた。
そこに、えびすヒロ子がやって来て、
「なぁ、わっちのこと、好きやなかったんやったら、なんで、わっちと結婚したん?」
と天条に訊ねる。
「予知し……た息子……の顔が……君、……そっくり、……だった……息子にっ……会い……たかっ……た」
「こいつ、まだ、喋ってる。いくら、なんでも、長すぎねぇか。マジで現実関渉で死をなかった事にされたら、厄介だぞ。ソウルイーターでさっさと、トドメ刺せよ、御影」
とセブンが言う。
御影は、
「もう刺したよ。能力の残滓が喋ってるだけだ。奴の魂は、もう、ここには、ない。残滓もあと数秒で尽きる」
と言い、弔いの印を組む。
「ただ、次のページが見たかっただけなのに、俺は、魔王にも人間にも成り損なった」
驚く程、はっきりとした口調で天条の残滓は、そう言いきり、天条の肉体から消えた。
こうして、最強ヴィラン能力の保持者 天条誠人は、その生涯の幕を閉じた。
「フレアは!?フレアは、どこに行った!?」
天条の催眠が解けたジョン・カールソンの第一声が、それだった。
御影尾道は、遠慮がちに、
「現実関渉の能力を発動していた天条が死んだんだ。天条の能力で生み出された幻だった彼女は、消えたよ」
とジョン・カールソンに伝える。
ジョン・カールソンは、「そんな!!」と動揺を隠そうとも、しなかった。だから、素直な彼が次の言葉を放った時、ストレートに胸を打つものがあった。
「じゃあ、他の生き返った人達は?」
そう、彼の指摘した通り、この日、世界から約2500万人が消えた。
それだけではなく、
「サトシさぁ〜ん!みんなぁ〜!どこ、行ったんっすかぁ〜!これ、全部、夢じゃないっすよね〜!全部、天条の見せてた幻って、オチじゃないっすよね〜!」
とその日、天上の民の集会に参加していて、突然に周りの者が消え、椎馬のように気が狂う者も居れば、
「誰か、私の妻と子供を知りませんか〜!!」
と天条の能力で生き返った者と結婚し、その間に子供が生まれ、その日に天条が死んだことにより、妻の生がなかった事になり、子供も生まれていなかった事になり、妻と子供を一度に失う悲劇的な人もいた。
正義が勝って、すべての人が救われるという事はなく、一人のヴィランの死は、世界に大きな傷跡を遺した。




