最強ヴィラン亡き、後の世界――5年後――
最強ヴィラン能力の保持者 天条誠人の死後、5年経った世界の話をしよう。
まず、天条誠人の全著書は、絶版図書となった。
何故なら、約2500万人の人を生き返らす前から、天条誠人は、自身の催眠能力を用いて、人々に自身の著書を面白く、感じるようにして、部数の売上を伸ばしていた事が彼の死後、催眠効果が解け、発覚し、彼の著書は、読むに堪えないクオリティの代物であったと広く知れ渡ったからである。
また、彼の能力は、悪魔と契約して、手に入れたものであると何処からか噂が立ち、それが余計に天条の著書を人々の間で禁書扱いされるのに、拍車をかけた。
その一方で、悪魔崇拝の宗教、天条誠人教が流行し、日本だけでなく、世界的な社会問題となっている。
信者の多くは、消えた約2500万人の家族で、彼ら彼女らの目的は、悪魔崇拝することで天条誠人を再び、この世に呼び戻し、天条誠人に再び、消えた約2500万人の人々を生き返らせてもらう事である。
そして、天条誠人抹殺を達成した御影尾道とセブンは、人々から英雄視されなかった。
仮にも日本の総理大臣を暗殺したのである。普通に殺人の容疑で国際指名手配である。
また、アメリカ政府が天条誠人抹殺に関して、一切の関与を公式に否定したのが、世情的に大きかった。
しかし、二人共、捕まってはいない。御影尾道は、次から次へと肉体を乗り換え、追跡不可能だし、セブンに至っては、別次元に逃げたとの噂も立っている。が、その噂自体もセブンが故意的に流布しているとの噂もあり、真実は、定かではない。
ジョン・カールソンは、普通にアメリカを裏切ったので、エリア51で特殊能力開発研究を理由に軟禁生活を強いられている。
佐藤 実は、最後まで天条総理大臣を守ろうとした超能力戦士として、日本で英雄視され、日本政府から公式に第一号のヒーローライセンスを授与され、日夜、問わず、特殊能力を持った犯罪者と戦う日々を送り、日本の平和と安全を守っている。ちなみに日本のヒーローになってからというもの、佐藤 実は、どの異能力者、特殊能力者、超能力者にも一度も敗北していない。
えびすヒロ子とその子供に関しては、内閣で
「あんな強力な能力の持ち主を世に野放しにするなど、赤子とライオンを同じ部屋に入れるも同じですぞ」
「では、国で管理しますか?」
「でも、母親と離して育てて、人格が破綻し、天条のようなヴィランになりでもしたら、再び、国家が転覆し、国が国としての機能を持たなくなるかもしれませんぞ」
「ただでさえ、天条誠人のせいで日本の国際的信用価値は、暴落しておりますしな」
「母子共に国で管理するのは、いかがでしょう?」
「母親と一緒なら、子供の精神状態もある程度、平常を保てますな」
「いっそ、ヴィランにならぬように彼をこの国の次世代のヒーローとして、育ててみるというのは、いかが?」
「賛成、致します。というより我々にそれ以外の選択肢は、ないでしょう」
「天条派の羽瀬川金之助元総理が娘さんを亡くして、気力を失っている間に我々で決めてしまいましょう」
「そうしましょう」
という話し合いがなされ、二人の母子は、日本政府の保護施設で比較的に何不自由ない生活を提供されている。
ここからは、えびすヒロ子の回想がメインである。
えびすヒロ子は、日本政府の保護施設内で空中を歩く5才児の我が子を眺めながら、思い返していた。
えびすヒロ子が妊娠に気づいた日、たまたま、天条誠人は、自宅のベッドの上で彼女を背中から抱き寄せながら、自らの出生の秘密を吐露した。
「俺、家庭内レイプで生まれた子なんよ」
そう言われて、えびすヒロ子は、返す言葉がなかった。
「だから、母親に言われたんよ。あんたなんて、産みたくて、産んだやないって」
天条は、そこで、ふーっと息を吐いた。
えびすヒロ子は、やはり、返す言葉がなかった。
「母親にそう言われるのが、子供にとって、いっちゃん、きっつい事やから……だからさ、もし、子供ができても、ヒロちゃんが産みたくなかったら、産まんでえーよ。ヒロちゃんには、ヒロちゃんの人生があるからね」
回想の終わったえびすヒロ子は、
「ほんましょーもない男やったわ」
と毒吐いた。
「愛してないんとちゃうんかい。息子に会いたかったんとちゃうんかい。ほんま、嘘ばっかりや」
5才児の息子は、天条が言った通り、驚くほど、えびすヒロ子に顔が似ていた。
「真の敵って、なに?この子が戦うことになるん?」
天条誠人が死んでから5年の現在、天条誠人の言った真の敵なる者は、未だ、現れていない。
それは、彼が吐いた最後の嘘なのか。真実なのか。
未来のことは、ヴィラン亡き後、誰にもわからない。




