敗れたままでは、終われない者たち
天条誠人抹殺作戦が失敗した日、アメリカの大統領ジョージ・ラスベガスがホワイトハウスの大統領室で拳銃自殺する。
当然、天条誠人による催眠効果能力を用いた犯行である事は、間違いなかったが、証拠は、なかった。
アメリカの全権は、副大統領であるトーマス・ディスティニーに移行される。
「チャック、私が大統領を目指して、もう、50年になる。まさか、こんな形で夢が叶うとはな」
齢80歳になるトーマス・ディスティニーは、味方であり最大の政敵であるジョージ・ラスベガスの遺体を大統領室で見つめながら、エージェントチャールズに目に薄っすらと涙を浮かべながら、言った。
「どうなさいますか?作戦の方は?中断、いや、停止なさいますか?」
エージェントチャールズは、いつもの平坦な口調で、ただ訊いた。
「当然、続行だ」
とトーマス・ディスティニーは、答える。
エージェントチャールズは、トーマス・ディスティニーの顔を少し覗うようにして、
「しかし、Mr.プレジデント。それでは、あなたのお命が」
と反対意見を言おうとするが、トーマス・ディスティニーは、きっぱりと
「大統領は、他に替わりが、いくらでもいる」
と言い切る。そして、有無を言わさぬ強い輝きの瞳をして、
「チャック、引き下がるな。我々は、アメリカだ」
とエージェントチャールズに視線をしっかりと合わせ、言った。
「では、ご命令に従い、そのように致します」
エージェントチャールズは、現大統領に深い敬意を抱いて、大統領室を出て行った。
こうして、アメリカの天条誠人抹殺作戦は、再び、始動した。
天条誠人抹殺作戦が失敗した日より一週間後、詐欺師セブンは、大阪梅田第2ビル地下2階の二郎系ラーメン店で汁なし系の麺類を黙々と食していた。
その隣で女子高生が制服姿でもやしがわんさか乗ったラーメンを食べ始める。
まだ、平日の昼3時過ぎ、女子高生がこんなところで食事しているのは、おかしな光景だった。
女子高生は、セブンに目も合わせず、
「準備は、できているか?」
と訊いた。男のような喋り方だった。
? とセブンは、食べるのをやめ、隣にいる女子高生をまじまじと見た。
女子高生は、再び、「復讐の準備は、できているか?」とセブンに訊いた。
セブンは、目を丸くし、驚き、
「お前、まさか、御影か?」
と訊ねた。
「さすが、よくわかったな」
と女子高生は、もやしをしゃきしゃき食べながら、言う。
「どういうことだ?女装してるわけじゃない。背と声が全然、違うし」
セブンが驚くのも、無理はなかった。
隣に座る女子高生の身長は、目算で160cmぐらい御影尾道との身長差は、10cmぐらいあるし、胸のふくらみからして、姿形が何もかも違う。声もまるっきり女子のものだ。
「入れ物(肉体)を替えたんだよ。フレアの魔法の炎で焼き殺されるところを自分の肉体だけ置いて、体内の水分に自分の魂をすべて込め、肉体から脱出。こんな時の為に首相官邸の外に待機させていた以前、生き返らせた女性の肉体に水になった俺は、口から入り込み、肉体を乗っ取った。この歳で童顔の女性になるのは、かなり、屈辱的だったぜ」
そう言って、女子高生の姿の御影尾道は、握っている割り箸をバキと音を立てて、折る。
店主がちらりとそんな女子高生御影を見るも、すぐに作業に戻る。店は、繁盛している。
「それもこれも、全ては、天条の奴を油断させる為だ」
「死を偽装したわけか。やるな、御影。詐欺師になるべきだ」
セブンは、わざと御影に感心してみせ、おどけるが、
「お前は、悔しくないのか?」
と御影に言われ、顔が素に戻る。
「俺は、悔しい。お前は、どうなんだ?このままで、終われるのか?」と続けて二度、御影に訊ねられ、セブンは、
「あんなに屈辱的な思いをするのは、初めてだ」
と本音を漏らさずには、いられなかった。
「この俺が誰かの言いなりになるなんて。心のない人形みたいに操られて」
セブンも気づけば、握っていた割り箸を折っていた。
「そういう暴力的な人の心を踏みにじる能力なんだ、あいつの能力は。誰かに頼まれたからじゃなく、俺は、個人的に奴は、倒さねばと思っている。お前は、どうだ?」
と御影は、またセブンに訊ねる。
「奴を倒すとして、方法は、どうする?」
とセブンは、御影に訊ね返す。
「俺とお前の能力の共通しているのは、隠密性の高いことだ。今回は、正面突破じゃなく、暗殺で行く。天条を騙し討ちする。エージェントチャールズさんが、何か作戦を考えてくれてるらしい」
と言う御影に、セブンは、
「ふん、また、アメリカに頼るのか?」と笑う。そして、
「騙し討ちなら、詐欺師の俺に任せるべきだろう」
と何か自信あり気に身を乗り出す。
「何か、策があるのか?」
と訊ねる御影。
目を細めて、はっきりとした口調でセブンは、
「まず、えびすヒロ子を攫おう」
と言う。
こうして、ヒーローらしからぬヴィラン対策の話し合いが粛々とラーメン店で進められる。
同日、首相官邸内にある一室のベッドの上でジョン・カールソンは、目を覚ます。
ベッド脇の椅子には、フレア・カモニークスキーが座っていて、彼をじっと見つめていた。
「ジョン。目を覚ましたの?」
フレアの目の自然な動き、様子を見て、ジョン・カールソンは、
「フレア?君、奴に操られてたんじゃ……?」
と戸惑う。
「私は、天条に操られてないわ。生き返りは、させてもらったけどね」
とフレアは、答える。
「操られてないなら、フレア。君は、どうして、奴の側についてるんだ?」
とジョン・カールソンは、当然の疑問を口にする。
「天条は、言う事を聞けば、父さんと母さんを生き返らせてくれると私に約束したの。ジョン、あなたもアメリカの言いなりになんて、ならないで、こっちに付きなさいよ。天条の味方にさえ付けば、永久に死に怯えなくて、済むのよ。大切な人が死んでも、生き返らせてもらえるの」
フレアに優しい口調でそう言われ、ジョン・カールソンは、逡巡する。永遠の命、大切な人、目の前の生き返ったフレア。それは、とてつもなく、甘い誘惑だった。
実際になんだかフレアから甘い香りがする。
「ジョン、あなたさえ良ければ、あなたが天条の味方につくなら、私、あなたの子供を産んでもいいわ」
「何を言ってるんだ、フレア!」
顔近づけるフレアにジョンは、たじろいだ。
「だって、考えても、みなさいよ。あなたの能力と私の能力が合わされば、いったい、どんな素晴らしい子が生まれるかしれないわ。ジョン、それとも、私じゃ不服?」
10代のアメリカ人男性が年上の赤毛のロシア美女に迫られて、性欲をこらえきれるわけもない。
ジョン・カールソンは、調略された。




