ラスボス戦 VS天条誠人編
ローマ宮殿のような広い似たような構造の空間が続いた大迷宮と化した首相官邸を彷徨い歩いた御影尾道、セブン、ジョン・カールソンの三人は、30分を要して、天条誠人のいる天条の間に辿り着く。
ジョン・カールソンの能力をフルに活用すれば、もっと早くに辿り着けただろうが、三人は、これ以上の戦力の分散を警戒し、慎重な足取りで首相官邸内で天条誠人を捜索していた為、それだけの時間を要した。
それが余計な悪手となった。
日本国総理大臣の玉座に座る天条誠人の隣に先程、吹き飛ばしたはずの佐藤 実が立っていたのだ。
「馬鹿な。そんな簡単に戻れない距離まで、確かに飛ばしたはずだぞ」
ジョン・カールソンは、幽霊でも見たように激しく動揺する。
そんなジョンを見て、天条誠人は、
「佐藤 実の能力は、ポイリーの伝達によると、この世のありとあらゆるものを自由自在にS極やN極にして、引き寄せたり、反撥したりする能力なんだそうだ。この場所をS極にして佐藤 実自身をN極にして、強力な磁力のようなエネルギーで引き寄せて、君の飛ばした場所から、この場所まで飛んで来たというわけだよ。佐藤 実の位置がわからなければ、私の催眠能力でも、そんな指示は、出せなかったが、何せ、今日は、東京中に私の信者達が、2500万人も集まってる。どうせ、飛ばすなら、東京の外まで飛ばすんだったな。ジョン・カールソン」
と実に偉そうな口調を使って、言った。
その様子からして、ポイリー・カタルシスの伝達能力によって、すでにヒーローチームのメンバー全員の能力が全て天条誠人に把握されているのは、あきらかだった。
「全く、佐藤 実の能力は、素晴らしい。彼一人いるだけで、君らを圧倒できる。あと10年経った後の成長した彼なら私でも勝てたかどうかは、わからない」
天条誠人は、指で唇を撫でながら、ぬめり気のある口調で皮肉を言う。実に君らが不憫だと言うように。
御影は、仲間達を見ながら、
「気にするな。奴が佐藤 実を操れても、どこまで精密動作できるかは、わからない。三人で一度に襲いかかれば、まだ、勝機は、ある」
と戦意が落ちないように鼓舞するように言った。
それを見て、天条は、
「わかっていないようだから、言うが、君らは、佐藤 実を私に引き抜かれた時点で、すでに詰んでいる。何故なら、佐藤 実の能力を使って、君らのPNCを引き寄せて、奪ってしまえば、君らは、自動的に私の軍門に下ることになるからだ」
と結論から述べる嫌味な大学教授のような口調で言った。反論の余地は、ないだろうと。
御影尾道は、眉間にしわを寄せ、何か打開策はないかと考えた。
何か、手はないか。起死回生の一手が。
そう自分を奮い立たせる何かを探しても、動かないでいることが、精一杯だった。
ヴィランを前にして、絶望を振りかざされて、逃げないでいることが、三人は、精一杯だった。
なんの前ふりもなく、
「しかし、それでは、なんの面白みもない」
と天条は、言う。そして、続けて、
「君達にも私に勝てるチャンスをやろう」
と言い、
「私と一人ずつタイマンを張らないか?」
と提案する。
御影達は、虚を突かれて、絶句し、返答できない。
「もちろん、殴り合いをしようという意味じゃない。ちゃんと健全な異能力バトルをしよう。ただし、一対一で。一人ずつ。フェアな提案だろ?」
天条は、両腕をWの形に広げ、アメリカンなポーズを決める。
「これなら、君らにも勝つチャンスがある。もっとも、君らには、パワーバランス的に断るという選択肢は、ないがね」
と言って、天条は、指を鳴らす。
すると、天条達と御影達を丸く囲むように、炎の壁が出現する。
「この炎は」
御影尾道は、敏感に炎から何かを感じ取る。
その時になって、初めて、天条の大仰な造りの金細工の玉座の後ろから、フレア・カモニークスキーが姿を現す。
「フレア!生きてたのか!」
ジョン・カールソンは、嬉々として、ぱっと表情がほころぶ。しかし、御影尾道が、
「違う。奴に生き返らせられたんだ」
と諫める。
天条は、新しいゲームを手に入れた子供が友達に自慢するように、
「そうだ。彼女ももはや、天上の民というわけだ」
と御影達に言う。
「下郎が」
と侮蔑し、吐き捨てる御影尾道。
ジョン・カールソンの表情から希望が消え、曇り、翳りを帯びる。
「佐藤 実だけでも手を焼くのに、これで3対3だ。戦況は、余計、君らに不利になった。タイマン勝負を断る理由が、もう、君らには、ないだろう?」
天条に言われ、ジョン・カールソンが怒りに満ちた表情で前進する。
「待てよ」と御影尾道は、ジョンの肩に手を置き、止めようとする。
ジョン・カールソンは、その手を払い、振り向き、
「俺、今、頭に血が昇ってるからよぉ。細けえことは、考えられないんだわ。あんたら、俺よりは、頭良いんだろ?だったら、俺と奴の戦いを見て、なんか勝ち筋を見つけてくれよ。俺は、とにかく、今は、奴を八つ裂きにする事しか考えらんねえからよぉ」
と荒い口調でそう言うと、天条へとまっすぐに向かっていった。
天条は、玉座から立ち上がり、歩き進んで、ジョン・カールソンと相対する。
「ルールは?」
とジョン・カールソンは、目の前の天条に訊く。
「タイマンだぜ?もち、バリトゥードゥ(なんでもあり)」
と天条は、答える。
言った瞬間、ジョン・カールソンは、天条に向け、手刀を振り下ろし、手刀と共にかまいたちを放っていた。
それを
「ぐるるるるぅっ!!!」
と唸り声を上げ、透明な半獣半人の化物が受け止める。
天条誠人の守護霊である。
天条誠人は、ふふんと鼻を鳴らして、余裕顔。まったくのノーダメージである。
手刀、右腕を守護霊に掴まれたジョン・カールソンは、そのまま、力任せに守護霊に放り投げられる。
宙を飛び、風のクッションで体勢を立て直すジョン・カールソン。しかし、その時には、天条は、すでにジョン・カールソンの頭上で浮いていて、蟻を踏み潰すような視線でジョン・カールソンを見下ろしていた。
当然、天条が自身の力で浮遊してるのではない。守護霊が天条を掴んで、飛行し、浮かせているのだ。
だが、そんなことなど、ジョン・カールソンが知る由もない。
ジョン・カールソンは、反射的に怒りなど、吹っ飛び、気づけば、未知の力に恐怖し、マッハ5を超える速さでぐるぐると部屋中を飛行し、逃げ回っていた。
それを天条は、地上に降りて、見上げ、馬鹿にしたように笑みを浮かべている。
その様子は、ジョン・カールソンは、視界に入っていたが、逃げ続けずには、いられなかった。
何故なら、まだ、透明な何かが獣の唸り声を上げ、自身を追い続けていたからだ。しかも、その透明な何者かは、マッハ5を超える速さの彼の後ろにぴったりとつけ、追いついて来ている。
なんだよ!?こいつは!?ただの催眠術師じゃなかったのかよ!?
ジョン・カールソンは、思いきって、急停止し、後ろを振り返り、撃てるだけ限界までの数のかまいたちを乱射した。
それで透明な何かに当たり、仕留められることを願った。
かまいたちは、全弾、守護霊に命中した。
が、
「がぁああるるるぅっ!!!」
守護霊は、それでは、びくともしない。
当たり前である。守護霊は、あくまで霊体。物理攻撃など効くわけもない。
それでも、守護霊は、巨大な念力の塊のようなもの。こちらの攻撃は、効かずとも、守護霊側からジョン・カールソンへの攻撃は、有効である。
ジョン・カールソンは、刃のような守護霊の獣の爪の一撃をその身に受け、墜落する。
「こんなの聞いてねぇ……っっ」
と一言、言い残し、ジョン・カールソンは、血飛沫を上げ、身体に深い傷を負ったまま、気を失う。
その圧倒的な守護霊の戦闘力を見て、セブンは、
「奴の作ったルールで戦う必要は、ない!御影、二人で奴を倒すぞ!」
と動き出す。
首相官邸の天条の間の床が割れ、地面から土が吹き出し、その土が大きな手の形となって、天条の全身を包み込むようにして、掴んだ。
「吽!」と唱えて、御影尾道は、水の入ったミニペットボトルを天条めがけて投げる。
ミニペットボトルの中の御影の魂の込められた水が膨張し、大爆発を起こすが、
しかし、それは、守護霊が壁となり、防いでしまう。
天条誠人を捕らえていた土が暴風が巻き起こり、吹き飛ぶ。
「先にタイマンルールを破ったのは、お前らだぞ」
天条は、気絶しているジョン・カールソンの能力を操った。
ジョン・カールソンのPNCは、落下の衝撃ですでに壊れていた。
天条は、ジョン・カールソンのかまいたちでセブンを攻撃。
セブンは、身構えるも、その身が引き裂かれることは、なかた。
かわりにセブンの装着しているPNCが破壊され、粉々に砕けた。
天条は、セブンに向け、
「お前は、逃げろ」
と命令する。
セブンは、その命令に従い、割れた床から土と共に地中に潜り、姿を消した。
御影尾道は、一人取り残され、天条と相対する事となる。
荒野のガンマンのように腰のベルトのボトルケースに収納したミニペットボトルに手を伸ばそうとする御影尾道に天条は、
「やめておきたまえ」
と言う。
「その水には、君の魂が込められている。私は、魂のある者なら、人間でなくとも、操れる。君がそれを投げる前に、私の意思一つで君は、爆死するよ」
忠告口調の天条に御影尾道は、
「俺には、まだ、奥の手がある」
と食い下がる。
「魂喰いか?」
と天条は、訊く。
「君のソウルイーターは、いわゆる近距離パワー型。私の近くに来ないと、君は、私の魂を吸えない。しかし、君と私の間には、守護霊がいる。どうやって、私に近づく?」
「陰陽師の俺には、わかるぞ。お前の守護霊とやらは、霊体だろ?霊体なら、俺のソウルイーターで殺せるはずだ」
「強がるのは、よせ。御影尾道。ソウルイーターを発動するには、相当な集中力がいると、ポイリーの伝達で私は、知っているぞ。お前がソウルイーターを発動するより、私の守護霊が攻撃する方が速い」
「試してみるか?」
「やってごらん」
天条誠人と御影尾道は、しばらく、無言で睨み合った。
「それより、良い提案がある」
と先に口を開いたのは、天条誠人の方だった。
「ルールを先に破ったのは、セブンで君じゃない。なのに、セブンだけ逃げて、君だけここで死ぬのは、フェアじゃない。だから、君にも逃げられる選択肢を与えよう」
天条がそう言うと、今まで天条達と御影を大きな円の形で囲んでいた炎の壁が消えた。
「君が二度と私に歯向かわないと約束するなら、君がこの場から逃げることを私は、許そう。それとも、いっそのこと、どうだい?君が私の配下に就くというのは?君が自主的に配下になるなら、特別に君には、催眠術はかけないと私は、約束しよう」
「人の心をナメるな」
御影尾道は、天条誠人を強くより一層、強く睨みつけた。
「そうか。残念だ」
天条が指でくいと指示を出すと、フレアの魔法の業火が御影尾道をあっと言う間に飲み込み、御影尾道の肉体を燃やし尽くした。
ジョン・カールソン 戦闘不能
セブン 戦線離脱
御影尾道 脱落
により最強ヒーローチームは、最強ヴィランに敗北。天条誠人抹殺作戦は、失敗した。




