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温かい腕の中

「美味しい!」


「まあ…嬉しいですわ」


私は持っていたティーカップを持ってぬくぬくしながら、アーシャさんに微笑んだ。


「アーシャさん、おかわり欲しいな」


「ええ、かしこまりました、シズク様」


同じくにこりと微笑み返してくれたアーシャさんは、手際良くティーポットに茶葉を入れて沸騰したお湯をゆっくりと注ぐ。

その間に新しいティーカップを温めながら、テーブルに美味しそうなクッキーとマフィンを持って来てくれた。


綺麗な薄い金の髪にヘーゼルの瞳、柔和で穏やかなアーシャさんは、さっき玄関ポーチで出会った綺麗なお姉さんだ。

今は傷さんがさっきの関所にお出掛けしてしまったため、アーシャさんが私に構ってくれている。

アーシャさん綺麗だし優しいし…色々お話ししてくれるから大好きだ。


「はい、どうぞ、シズク様」


「ありがとう、アーシャさん」


双方笑顔で受け取ると、アーシャさんが「そうですわ」と言って控えめに手を叩く。

それに紅茶を一口飲んでから「どうしたの?」と問い掛けると、アーシャさんは「ふふっ」と微笑んで提案した。


「大通りに行ってみませんか?その帰りに、旦那様をお迎えに行って、驚かせちゃいましょう!」


「ん!そう言うの好きー!」


カップを置いて立ち上がると、アーシャさんは「じゃあお着換えしましょう」と言ってクローゼットから服を適当に見繕ってくれた。

綺麗なクリーム色のワンピースと茶色の編み上げブーツ、髪はアーシャさんが結ってくれて真っ白なリボンを付けてくれた。

サイドに流れる髪にリボンが見えて可愛らしい。


「アーシャさんすごーい!」


「シズク様の髪が綺麗だからですよ、今日はリボンで…明日はどんな髪型に致しましょうか」


にこりと微笑んでアーシャさんはアクセサリーの棚を漁る。

これでもう十分にオシャレしてると思うんだけどと心の中で呟きながら待っていると、小さな鞄を持って来て「行きましょうか」と言って私を連れ出してくれた。


「グラインス様、シズク様を大通りへと案内して参ります。

その後旦那様を迎えに行くつもりなのですが、何か入り用な物はありませんか?」


「おや、お出掛けですか?」


ロマンスグレーのおじさまは私の方へと視線をずらすと「大変可愛らしいですね」と言って微笑むと「客室用の茶葉がちょうど無くなったので、いつものをお願いします」とアーシャさんに返した。

それににっこり笑って「承りました、行ってまいります」と返すアーシャさんと、私は連れ立って屋敷から出た。

玄関を抜けて中庭を抜けて、私は門を潜る。


「ここをまっすぐ進んで角を左に曲がると、ここが大通りですわ」


「わあ」


人々が笑顔であふれている大通りに、私は一歩踏み出した。

綺麗な色の華や、素朴ながら作りのしっかりした家やお店。

玄関先では屋台が開いてたり、鉢植えが飾られていたりと華やかだ。


まだお昼時と言う事もあって、人々の賑わいも最高潮のようで、私はアーシャさんに手を引かれながらもきょろきょろと辺りを見回した。


「すごーい…人がたくさん……」


「今日は王城の開放日で御座いますから、商人や旅人、この国の国民以外の人達もいらっしゃるようで。

いつもはもう少し歩きやすいのですけれど」


苦笑するアーシャさんは目的の店の前に来ると「先程のお使いを先に済ませちゃいましょう」と笑って扉をくぐった。


「コーティカさん、こんにちは」


「あらあ…いらっしゃいませ、本日は素敵なお嬢様をお連れなのね」


シックな色合いで纏められた店内には、天井まで届く棚に缶が一つ一つ置かれていてそれぞれラベルが張られている。


「…だーじ、りん?あっ、紅茶の缶か…」


「ええ、うちでは地方から取り寄せた茶葉を扱っていますのよ」


にこりと微笑んだおおばさんは、私の前まで来ると驚いた表情で「まあ」と小さく声を上げた。


「黒髪に黒い瞳…珍しい色合いねえ」


「やっぱり珍しい?」


「この辺りではまず見かけないわあ…とても素敵よ」


そう言って私の手を取って微笑むと、アーシャさんの方へと首を巡らせ「いつもの紅茶で良いのかしら?」と問い掛ける。


「ええ、お願いします」


微笑むアーシャさん綺麗だなと見惚れながら、おばさんは私の手を放して身長の範囲にある深い藍色のラベルの付いた缶を包む。


「先程シズク様にお出しした紅茶とはまた味が違うんですよ?

帰ったら飲んでみますか?」


「わあ、良いの?」


くるりと振り返って聞くと「もちろんですわ」と答えてくれた。


「後でお茶菓子も見に行きましょう!旦那様と一緒にティーブレイクと言うのもよろしいのでは?」


「やったー!うん、アーシャさんの紅茶美味しいもん、楽しみ!」


「また、おいで下さいな。小さくて可愛らしいお嬢さん」


「ありがとう、コーティカさん!またね!」


扉を出る時に手を振ると振り返してくれたので私もぶんぶん手を振った。

紅茶屋さんを出て大通りにある屋台を冷やかしながら、私は傷さんの居る先程も通った関所へとやって来た。

さっき来た時から少し時間が経ったと言うのに、荷馬車や人は増えている。


「今日がいくら王城開放日だからと言って、こんなに人が溢れているなんて…」


「初めて?」


「ええ、あまりありませんわ。どうしましょう…旦那様もお忙しいかしら?」


「…邪魔するのは、嫌だなー…」


「邪魔じゃねえだろ」


「ほ?」


後ろから聞こえて来た声に、私とアーシャさんは振り向く。

そこにはさっき、大きなウサギのぬいぐるみを買って来てくれたワイズさんが居た。

片手に紙袋を抱えながら「お前さん、バライラズんとこのメイドだろ?何か奴に言伝か?」と首を傾げる。


「ええ、シズク様を観光にお連れしたついでに旦那様を迎えに。

ですがお忙しいのでしたらお暇致しましょうかと話していたところなのです」


「シズク?」


「私の名前!私、シズクって言うの。

ワイズさん、さっきは本当にありがとうございました!」


ぺこりと頭を下げると「ふ、ふん…バライラズが必要だって言ってたからだ」と照れ隠しに視線を反らした。

しかし「あ」と呟いて手を叩くと私達に向かって言った。


「迎えならちょうど良い、さっさとあいつ持って帰ってやれ」


「持って帰る?」


首を傾げると「付いて来い」と言ってワイズさんが歩き出す。

それに付いて裏口を通ると、傷さんの声が響いた。


「だから、その注意を怠ってどうするんだと言っている!!」


「ひゃっ」


「ん?どなたです」


傷さんの怒鳴り声に驚いてアーシャさんの後ろに隠れると、傷さんと言い争いをしていたらしい女の人が頸を傾げた。


「シズク?それにアーシャ、お前達どうしてここに?」


「俺が連れて来た、そろそろ屋敷戻ってろよ。

アンタ等がどうこう言ったって起きてるもんから処理しねえと今日と言う日を無事終わりにゃ出来ねえぞ」


持っていた紙袋からタイ焼きを取り出しながら二人の間に入って行く。


「ルリチアの姉さんはこくおーへーかに今ある分だけ積み荷のリスト作って、持って行って、許可貰って来な。

バライラズは大人しく屋敷に戻って紅茶でも飲んで頭冷やせ。

この事は関所の人選が間違ってたって事を良く理解した上で、また王様が人選し直して配置。

仕事が出来る出来ないじゃなくて、ここには真面目な人間を配置する事。

後は…騎士を何人か駐在させてやんな、未経験者が怯えてちゃ話しにならないのは当たり前だしなー。

ほらほらアンタ達も仕事戻る、外に居る商人達の荷馬車を整頓しに行くぞー」


その場で手を叩くと、私の手に残りのタイ焼きを握らせる。


「ちょい冷えたけど、屋敷に戻ってバライラズと食えよ」


「良いの?」


「俺、今から仕事あるから。

バライラズ、俺の馬使って良いぜ」


ポンと私の頭に手を置いて、ワイズさんは人混みの中に消えて行った。

唖然とその成り行きを見守っていた傷さんは「それもそうか」と溜め息を付くと、ようやく私達の方へとやってきた。


「さっきは済まないみっともないところを見せた」


「え?ううん…」


さっき怒鳴った傷さんを思い出して、私も何か怒られる事をしたらああ言う風に怒られるのかなと少し怯えていると、アーシャさんは微笑んで私の頭を撫でながら「帰りましょう、シズク様」と笑ってくれた。

それにこくんと頷くと、私はアーシャさんに手を引かれて外に出た。

ワイズさんの言ってた馬と言うのは小さな馬車の事で、二人乗りのそれに私と傷さんが乗り込む。

アーシャさんは?と首を傾げていると、メイド服のまま軽く跳躍すると馬に乗った。

そしてにっこりと微笑んで「出発いたします」と言うと、馬車を出発させる。


「…ああ見えてアーシャは、欠点の無い完璧なメイドだ」


「…すごい、アーシャさん」


一気に尊敬の念が膨らんで、屋敷に帰るまで窓の外からアーシャさんをずっと見ていた。

屋敷に着いて、さっきワイズさんに貰ったタイ焼きと買って来たお菓子をアーシャさんに渡して、ダイニングでティータイムの準備をしていると、傷さんがやっぱり私を膝の上に乗せた。


「傷さん、多分危ないと思う」


「案ずるな」


「すっごく案ずるよ?私の真横にカップだもん…私、あっち座りたい」


「却下する」


「けち」


私はアーシャさんに入れてっ貰った紅茶をちびりちびりと飲みつつ、後ろに感じる傷さんの体温にホッとした。

こう考えてみると、傷さんが虎さんの姿を取っていた時前では無く横や後ろに居たので、後ろに持たれていると声だけが聞こえるので安心する。

と言う事は人の姿を取っていようが虎さんの姿を取っていようが、傷さんは傷さんだと言う事だ。

変に意識したりしなくて良いんだと思い直して、私はまたホッと息を吐き出した。


「後でまた関所に行かなくてはいけないだろうからな…今の内にシズクを堪能しておくとする」


「ふぅん?」


言われている意味が分からず適当に返事を返しながら、私は目の前にある一口サイズにカットされたタイ焼きを咀嚼した。

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