ブリーダー
「着きました。ナビだとココです…」私道の山道を車で登った先に2m近いフェンスに囲まれた家が現れた。
センサー式の明かりがポッと表札を照らした。
「敷島」の文字の横に手書きで「チャンピオン犬ブリーダー」と書かれていた。
「動画でもたまにブリーダーとか見るけど、怪しい人多いよね〜」猪俣が不気味そうに言う。
「まだ動画出してコンテスト風景とか映してるのは良心的だよ。中には写真と賞状だけでいつのだよ?ってツッコミたくなるホームページとかあるし…」調べた昂輝が説明する。
「ウチの実家のハム子もママ友の家で可愛いペキニーズ見かけた母が、ブリーダーを紹介してもらったんだ。生まれる前から予約したとか言ってたな。」猪俣くんは会社のお得意様企業のお坊ちゃまなのだ。
思いっきりコネだ。
「さすがだね〜やっぱり金持ちはペットショップで買わないんだね〜」と霧子がうなづく。
車を降りてフェンス周りを歩く。明かりはないので奥の建物の明かりだけが頼りだ。犬舎らしい建物が奥にある。
中で気配を感じた犬達が吠えているが、ブリーダーの家屋から特に誰も出てこない。
まあ、犬が吠えたくらいで出てたらやってられない仕事なのだろう。
「ココは、山奥に造ってるだけあって大型犬ばかりだね。コリー、シェパード、レトリバーとかのチャンピオン歴ある犬を繁殖させてるらしい。」昂輝がネットを調べながら説明する。
「大型犬のブリーダーはあまり知らないなあ〜
ウチはしつけが終わってから生後半年ぐらいでウチに連れてきてくれたから。」暗闇の中で猪俣くんが話す。
「あれ?気をつけて!ここ、フェンスが破けてる!」先頭を歩いてくれてた猫又さんが立ち止まる。
しゃがんでフェンス下の大きな石をどける。
「ああ〜大型犬は土掘る犬いるんですよ。やられてるな。石を詰めて応急処置してるけど。」昂輝が猫又さんの横にしゃかんで様子を見る。
「エ〜ッ、そうなの?ウチのハム子はそんなのしないけど。」猪俣くんが驚く。
「狩猟犬や牧羊犬は、掘って大事なものやエサとか隠すことがあるんですよ。ブリーダーも気付くのが遅かったな。かなり掘られて脱走したろうな。これは。」と、昂輝が眉間にシワを寄せる。
「オイッ!そこに居るのは誰だ!」と急にブリーダーが家から出てきた。
「ヤバい!」言ったかと思うと猫又さんが脱兎のごとく走った。
「エッ、エーーーーーッ!!!」皆も一斉につられて逃げた。あっという間に猪俣くんが車を発車させる。
「霧子さん、遅れるかと思ったけど早かったね?逃げ足が鍛えられてる?」猪俣くんが笑う。
「自慢じゃないけど霧子は卑しいからね。会社で盗み食いで何回も食堂出禁食らってるし。」昂輝が黒歴史をバラす。
「11時ジャストにトイレ行った帰りに食堂のおばちゃんに挨拶するだけよ!ついでに余ってるボールのお惣菜を失敬するだけよ!配膳してるものには手を出してないわよ!」と言い訳する。
あの総務管理部に送られるのは、かなりの悪童だけなのだ。逃げ足は鍛えられてる。




