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ネイムレスの蝶系統動物効果  作者: 水色十色
思念量子波の無免許使用
19/25

《★~ 全世界は無限分岐した ~》

 全世界管理者が時空間交信器を介して話し掛けてきたのは、なにも思念量子波の無免許使用を咎めるためだけではなかった。おそろしい陰謀を阻止しようとして、パンナコッタがアンゲランと交信したことにより、全世界は無限分岐した。これこそ万死に値する罪よりもさらに重いらしい。パンナコッタは、全世界学者を名乗っていながら、想定し得ない全世界的ユーニヴァーサル事態(‐トラブル)を起こしてしまった。

 この説明は難解極まりない。だから、富子が思わず苦言を呈する。


「さっぱり意味が分かりませんわ」

「僕も、完全に理解できた訳ではありません」


 アンゲランが蝶を殺しても、この全世界の今現在、その蝶は生きたまま眠りに就いており、死んだ状態と生きた状態の両方が実存している。これは全世界が二つに分岐したことを意味する。しかも、駆除を依頼した蝶、それは「ネイムレス」という愛称を与えられた蝶系統動物の技師であり、自己複製セルフレプリケイト復活リヴァイヴ能力アビリティを有する身体なので、殺されると、まったく同等の個体が俄かに湧き出てくる。つまり、アンゲランがネイムレスを駆除すると同時に、ネイムレスが生きている全世界から、ネイムレスが死んで「ネイムレス二号」と呼ぶべき蝶の実存する全世界が分岐した。

 それだけなら全世界が一つ増えたに過ぎないけれど、事態の悪化は、もっと深刻だった。ネイムレス二号のせいでアデライードが別人のようになり、アンゲランは婚約破棄されて、四百年ばかり後に、そちらの全世界にいるパンナコッタが蝶の駆除を依頼する。それがネイムレス三号を発生させ、また一つほとんど同じ全世界が現れ、さらにまた一つというように全世界の分岐は延々に繰り返される。

 この複雑怪奇な異変を誰が予想できたであろうか。今のところ、地球人の中に自力で考えつく者など一人としておらず、この説明を聞かされて完全に理解できる者も存在しないだろう。


「僕たちの作戦は失敗に終わりました。この全世界に繋がっている過去を変えたところで、この全世界の現在には、なんら変化をもたらさないのです」

「ほんなら御破算ごわさんで、なんもなかったことになるんやろ? 全世界管理者はんは、なんでお怒りになったんでっか?」

「全世界の管理というのは莫大な労力エナヂを要するため、全世界を増やされると困るそうです。一つでも大変なのに、無限に増えるともなると労力がすぐに枯渇してしまい、全世界管理者は雁字がんじがらめにされてしまうため、大変ご立腹なのです」

「なんやよう分からん理屈やけど、要するにパンナコッタはん、どえらいことやってもうたんやなあ?」

「ご尤もです」

「それでどうなるん?」

「無限分岐した全世界を一つに収束させるそうです。すべての全世界で実存しているネイムレスたちを、復活が不可能な方法で根刮ねこそぎ消滅させるのだとか」

「ふうん。それもえらい労力やろな」


 他人事のように話す三休さん。それと、黙っているけれど、後土御門天皇と富子も「我関われかんせずえん」という表情である。


「兎も角、沙汰があるまで、首をよく洗っておきましょう」

「パンナコッタはん、処刑される気満満(まんまん)やなあ?」

「犯した罪は償わなければなりません」

「くれぐれも、拙僧らを巻き添えにせんといてや?」

「全世界管理者の考え次第だと思います」

「いやはや困ったなあ。まだ死にとうないわ、嫌やなもう」


 愚痴を溢しても溢し切れない三休さん。後土御門天皇と富子は、今なお黙り込んだままだけれど、おそらく「傍迷惑なこと」などと思っているに違いない。

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