《☆~ アンゲランが遺した日記 ~》
おそろしい陰謀について、噂が世間に広まると厄介だろうから、作戦は極秘に進めなければならない。パンナコッタが「拠点には、この清涼殿こそ相応しいでしょう」と主張し、後土御門天皇が快く同意した。
早速、作戦会議を開く。詳しい経緯を総員が理解しておく必要があるので、パンナコッタが古い文書を公開する。
「見て下さい。これは僕の先祖、アンゲラン‐ポンチューが遺した日記です」
「うわ、この文字なんや!?」
まったく読めない三休さん。後土御門天皇、富子も同じく。
十一世紀のノルマン人が当時のノルマン語で書いたのだから、無理もない。
パンナコッタが、日記の内容を要約してジパング語で説明する。
「アンゲランの若い頃、婚約者だったアデライード‐ノルマンディーが、ある日を境に別人のようになったそうです。最初は戸惑うものの、自身を納得させるために、アデライードが大人の女性になったからだと解釈したのです。そして、かくかくしかしか、まるまるうまうまという訳で、アデライード合衆国の建国後、アンゲランは用済みになり、アデライードに捨てられました」
「うわ、アデライードはんって、酷い悪女やなあ!」
三休さんの言葉を聞いて、富子が眉をひそめる。富子自身も「義政公を気絶させて婚約破棄した悪女」と周りに揶揄される苦痛を味わってきた。
パンナコッタは話を続ける。
「アンゲランは、どうして歯車が狂ったのか、考えてみました。思い当たる節が一つだけあります。アデライードが別人になる前後、厳寒の季節なのに、蝶が舞っていたということです。当時は奇妙だと感じる余裕がなかったのですけれど、二十年の歳を重ねて、やっと気づいたそうです」
「すべての元凶は、一匹の奇妙な蝶にあったのでしょうか?」
富子の問いに対して、パンナコッタが即答する。
「そうです。アンゲランが目撃した蝶を、その時点で駆除しておけば、世界史を塗り替えられます。アデライード合衆国とノルマンディー大帝国の対立によって世界戦争が引き起こされるのを防げるはずです」
「話が飛躍し過ぎやおまへんか?」
「朕も同意じゃ。四百年もの昔、遥か遠い異国、蝶の一匹がなにするものぞ」
三休さんと後土御門天皇は懐疑的だけれど、富子は違う。
「その妖しげな蝶こそ、悪の権化に違いないと思います」
「なにを根拠にそないなこと言わはるんや?」
「あえてなにかと申すなら、勘ですわ」
「なんや、勘でっか!」
「女の勘は当たりますわよ。うふふ」
「まあええ、乗り掛かった船やし、最後までつき合いまひょか」
「三休がそう申すなら、朕もそれでよい」
次は蝶の駆除方法を決めなければならない。
それに関して、パンナコッタが考えておいた方策を打ち明ける。
「時空間交信器という道具が、このジパングに実存しています。大江山にいる鬼が所持しているはずです。それを拝借して、アンゲランに《妖しげな蝶を駆除して下さい》と伝えましょう。うまく功を奏せば、万事解決となるはずです」
「ほんまかいな!」
「どうか信じて下さい」
「信じることにしとくけど、大江山の鬼とやり合うんかいな」
「乗り掛かった船なのでしょ?」
「せやけどなあ……」
「僧侶の言葉に二言があってよいものでしょうか?」
「はいはい、しゃあないわ」
三休さんは、乗り気でない様子を見せているけれど、胸の内では「これでまた、修行や雑用やらから逃げられるわ」と喜んでいるのだった。




