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ネイムレスの蝶系統動物効果  作者: 水色十色
おそろしい陰謀の兆し
12/25

《☆~ 乱れのない応仁 ~》

 義政公が我に返ったところ、神座ヱ門さんがひょっこり姿を現す。


「上さま、お見受けしましたところ、どうやら浮かないご様子でいらっしゃるように思いますけれど、どうかなさいましたか?」

「ぼんやりしながら、富子のことを考えておった。一昔ひとむかし前、余は富子に木刀で脳天を打たれた。あのおり、なぜ余を救ってくれなんだ?」

「あ、あの時ばかりは、富子さまが韋駄天いだてんのごとく早業はやわざにて、拙者が動こうとする矢先、上さまは……」

「余は失神させられておったのじゃな」

「はっ、その通りにて。誠に申し訳ござりませぬ」

「もうよい。余は怒っておらぬゆえ」

「ははあ」


 深々と頭を下げる神座ヱ門さん。

 対する義政公は、しんみりと胸の内を話す。


「余は今日から心を改めるつもりじゃ」

「ええっ、一体どういう風の吹き回しでございましょうか??」

「昨日、余は頓智九番勝負で三休に大敗を喫してしまい、その腹いせで、あの坊主を痛めつけてしもうた。今こうして冷静に考えてみれば、愚行じゃった」

「確かに、あのようなお振る舞いはちょっと……」

「一昔前に余が富子に痛めつけられ、それはもう悲しかった。余は気絶しておったから、その瞬間を知らぬが、後で聞いた話、富子から婚約破棄されたとか。それはそれで惨めな気分になった」

「はあ」

「三休に、十年経っても忘れられぬほど大きな苦痛を与えたのかと思うと、どんなに反省しても、し尽くせるものでない」

「そうでございましょうか」

「余は、そうに違いないと思う。それで金輪際、頓智をきっぱり捨て去る。ここから先は将軍職に全身全霊で打ち込むのじゃ」

「上さま、よくぞ仰せになられました。ああ、この蛸壺神座ヱ門、上さまにお仕えして十六年、ようやく上さまのことを《本当に将軍なのだろうか?》などと疑う余地なく、心より信じてお仕えさせて頂けまする」

「これ、神座ヱ門!」

「ははあ」

「おぬし、余のことを《偽りの将軍》と思うておったのじゃな?」

「いえ、滅相もござりませぬ」

「陰で《傾国の将軍、死ね馬鹿》などと吐き捨てておったか?」

「いえいえ、そのように畏れ多い罵詈雑言、吐ける訳ありませぬ!」


 全身全霊で否定する神座ヱ門さん。

 しかしながら、義政公は近くにある刀を手に取った。


「神座ヱ門、この場で打ち首ぞ?」

「ひっ、ど、どうか、どうかお許し下さりませ!!」

たわむれじゃよ。はははは」

「……」


 神座ヱ門さんには返す言葉がない。

 兎も角、今日から義政公は宣言した通り改心する。ジパングで起きている、ありとあらゆる懸案事項を、直接的または間接的に次々と解決してみせた。

 次の年、元号が応仁に改められる。

 以前のように義政公のことを「傾国の将軍」などと揶揄する者は、今では一人としておらず、その代わりに、「ジパングのどこへ出掛けても、《尭舜時代に勝るとも劣らぬ義政公時代》と褒めそやす人たちでごった返して困る」と誰もが苦笑いして話すのだという。これは誇張で、義政公が、明国みんこくに伝わっている古い物語に登場する名君の「尭」や「舜」に匹敵する素晴らしい将軍だという意味で言っているに過ぎない。

 各地で一揆も起こらなくなり、皆が「乱れのない応仁」と喜んでいる。こちらは誇張でなく、正真正銘にたみたちの放つ言葉そのものである。

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