表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネイムレスの蝶系統動物効果  作者: 水色十色
おそろしい陰謀の兆し
11/25

《☆~ 富子の婚約破棄通告 ~》

 御座所で義政公がぼんやり、昔の苦い経験を思い出しているところ。

 遡ること十年ばかり以前、後花園ごはなぞの天皇の御代、元号は康正の頃である。守護大名の中には、家督争いをする者もいて、()()()()が絶えなかった。関東では、鎌倉公方と関東管領の間で争いが起きており、戦乱が広がっていた。

 八代目征夷大将軍に就任してから六年が経過しており、義政公の結婚相手を親が勝手に決めていた。藤原ふじわら富子とみこという名の愛らしく聡明そうな少女であった。

 当時の義政公は、既に将軍職をおろそかにするほど頓智に心を奪われており、()()のような状況に首から下がすっぽり浸かって抜けられない。そんな酷い実態を知る者たちから、陰で「傾国の将軍」などと揶揄され始めていた。

 富子にしてみれば、婚約しているにも拘わらず義政公と会えない、とても切ない日々が続いた。そして、ついに痺れを切らしてしまい、木刀を握って室町殿に乗り込んできた。

 彼女が御座所に入るや否や、義政公に向かって険しい口調で話す。


「今日こそ結婚式場を選び、日取りもお決め下さりませ!」

「どうしてじゃ?」

「どうしてもこうしても糸瓜へちま瓢箪ひょうたんもありません! なにしろ、わたしたちは婚約しているのですから!」

「婚約と掛けて、問答は無用と解く。その心は?」


 義政公は、「婚約といっても親が勝手に決めたことなので、それについてあれこれ問答するつもりはない」という意味で言った。

 対する富子は頓智にうとく、駄洒落を駆使して返答する。


「婚約を蒟蒻こんにゃくに掛けて、蒟蒻の問答は無用と解きます」

「むむぅ、蒟蒻とは小癪な。はっははは!」


 この頃、義政公が持つ頓智の技術は未熟で、適当に思いついたことを婉曲な言い回しで話し、相手の返す駄洒落を面白いと感じているに過ぎなかった。だから二人のやり合った問答は、頓智としての意味が成立していない。

 笑っている義政公に富子が問う。


「わたしの大勝でしょうか?」

「いや違うのう」

「え、どうしてですの?」

「この程度の小さな問答、勝ちの価値かちも小さいからじゃ。わははは!」


 義政公も駄洒落で対抗した。

 富子は馬鹿にされていると思って、怒り心頭に発する。


「もお! それなら義政公、刀術勝負ですわよ!」


 富子が威勢よく立って、持ってきた木刀を高く頭上に構えた。


「ええっ!? ちょ、ちょっと待て!」

「いいえ問答無用ですわ! さあ、全力で掛かっていらっしゃい」

「ちょ、富子、無茶苦茶じゃよ??」

「やかましいですわ。あなたさまは武士でしょ、刀で応じなさい!」

「ひぃえぇー、神座ヱ門! 神座ヱ門はおらぬか!!」

「はい、なに用でございましょうか?」


 神座ヱ門さんが駆けつけた。義政公は「余に助太刀すけだちせよ」と命じる。

 でも遅い。富子の振り上げた木刀が脳天に打ち込まれる。

 義政公は一秒で倒された。富子が鋭い視線を注ぎ、強い口調で言い放つ。


「あなたさまとの婚約はなかったことにしますわ!」

「……」


 義政公は言葉を返せない。気を失ったのだから、無理もない。

 富子は平然とした面持ちで立ち去る。これが「富子の婚約破棄通告」と呼ばれる事件だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ