第475話 亜獣人創世歴:1300年
戻ってきた竜郎たちはさっそく対策会議を開いていく。
問題となっているのは、亜獣人たちに現れだした遺伝子の変異。
ある意味では進化の兆しともいえるもので、魔法使いがいずれ生まれる可能性をそこに宿していた。
なので決してそれは悪いことではないと、竜郎は考えている。
魔法という選択肢が増えれば、また彼らの生き方の幅が広まるだろう。
だがその前に元々の彼らの体質と、魔法の相性が悪すぎるせいで、普通の種族なら自然と体外に垂れ流される余剰魔力が溜まり続け、肉体を害して死に至らしめているという、この問題を解決しなければ、その目は生まれた端から摘まれていくしかない。
「それにデータを見る限りでは、これからどんどん魔法を溜め込む遺伝子を有した子供は増えていくでしょうからね。
放置すればいずれ彼ら亜獣人という種の絶滅にも繋がりかねません」
「だろうな。早めに気づけて良かった」
「これもミネルヴァちゃんが続きが見たいって言ってくれたおかげかもね」
「せやね。でないと、ろくに確認もせずに放置されてただけやったと思うわ」
「数年くらいは気にしていられても、さすがに数百年単位では俺も忘れてそうだからなぁ……」
竜郎も、ずっと亜獣人たちを気にしていられるわけではない。
自分のスキルでもある《強化改造牧場・改》は今後も多用していくだろうが、その広さは膨大な竜郎の魔力値からして個人が把握し続けられる域はとうに超えている。
その中の一区画を与えられた亜獣人たちのための世界としたが、それも意識しなければ見ることはない。
無数に管理している空間のうちの一つ。それも自分の生活にかかわりのない空間となると、数十年もすれば竜郎も忘れてしまっていただろう。
もちろん完全に忘却するわけでもないし、誰かが思い出してみてみようとなっていたかもしれない。
しかしそれも時の流れとともに希薄になり、結果的に彼らは気づかぬままに魔力への適応ができずに滅んでいた可能性が高かった。
気付いた頃には、そこから亜獣人たちがいなくなっていた──なんていう結末もありえたと、竜郎は少し背筋が寒くなる。
これも念のためにと彼らの生活を見ていたからこそだ。
完全にこの世界に馴染んだと判断できるまでは油断できないと教えられた。
そして気づけたからこそ、対策をしなければいけない。
「マスター。要するに魔力さえ抜ければよいのですよね?」
「だな。というわけで、いろいろと試していこう」
第一案。魔力吸キノコの魔物の導入。
これは魔力を溜め込む遺伝子を有した者が食べると、体内で消化される過程で魔力を吸着し、自然と体外へと魔力と共に排泄させるという機能をあれこれいじってもたせることができたキノコを用意した。
味もそれなりによく、肉や草、果物と一緒に食べるとより美味しく感じられ、肉食も草食もにっこりな万能食材として食べられるよう調整もした。
これぞ食の革命児の真骨頂。がはは、勝ったな! と、竜郎たちは上手くいくに違いないと確信をもって、この魔物を導入したわけなのだが……。
「あー……うん、まぁそこは考えてなかったよね」
「せやけど一度、あんな印象ついてもうたら誰も食べへんよ」
「排泄物の色が変わったくらいでそこまで騒ぐとは想定外でしたね」
最初は良かった。躊躇なく見たこともない、突然生えたキノコを食べる警戒心の無さには驚かされたが、そもそもこの世界に死ぬような毒などない。だから警戒心も800年の時の中で捨て去られたのだ。
そんなキノコは中々にいけると好評だった。しかし肝心の魔力持ちたちは、それを食べなくなった。
理由は排泄物がキラキラになるから。気持ち悪いと引かれ、笑われ、有体に言ってキラキラう〇こ野郎と周りに馬鹿にされ、モテなくなったから。
ある程度『ここにしなさい』と、トイレとして使っている場所は決まっているが、外出時はその辺りで済ませるし、水洗で下水に流すなんてこともないため、周りに排泄物を見られるタイミングは多々あった。
彼らにとってモテるかどうかは、生きる意味にも繋がってくる。
いかに魅力的か異性にアピールし、自分の子を残せるのか。亜獣人たちは、獣人たちよりもずっとその本能が強く、重要な事なのだ。
周りに推されるように何度か食べて、キラキラだと判明すると食べるのを止める。
そうして数年寿命を延ばすことはできたが、結局それでも大人になりきるまで生き延びることはできなかった。
村外派は村内派よりも知恵は回るようではあったが、やはり排泄物の色が奇異なものに変化するというのは不気味に感じたようで、全体的に食べないようにした方がいいという結論を出してしまった。
それにより、本能で生きている村内派よりも、魔力を保有する細胞を有している者は短命になってしまっていた。
なのでこれは五年で切り上げ、別の案を実行に移す。
第二弾は愛玩動物的な吸魔力の魔物の導入。その可愛さで亜獣人たちにすり寄り、亜獣人たちはそれに触れることで魔力が吸われ、延命できるようになる──というものだった。
こちらは愛衣や千子が行けるのではないかと推してきた案だったのだが……、やはり上手くはいかなかった。
子犬や子猫、小鳥や子兎など、それっぽい可愛い吸魔の魔物を用意して放った。
しかしこちらはキノコよりも上手くはいかず、一年ほどの導入で切り捨てられた。
「なんで他にも食べるものがあるのに食べちゃうの! おかしいよ、絶対!!」
「近くにあったら何でも口にしてまうなんて……信じられへんわ」
「むしろこの亜獣人たちなら、想像できたけどな」
「手頃な所に、手頃な肉が転がっていれば食べてしまいますよね。彼らならば」
一応、それほど美味しいものではないように調整はしていた。
けれど味を変え、見た目も変えてと何度か試してみたが、おやつ感覚でペットになってくれる小動物魔物を食べてしまう。
それは村外、村内どちらも変わらない。
そのように竜郎たちはあれこれと対策を考え、導入し──という実験を亜獣人創世歴900年ほどまで続けて、ようやく一つの形を成すことに成功する。
それは強制的な魔力の徴収。下手に甘い形にしようものなら、亜獣人たちは独自の感性と本能で想定外のことをしてくるため、もう強硬策に出るしかなかったのだ。
もちろん竜郎が吸うわけではなく、魔物にさせている。小さな蚊のような魔物で、血と一緒に魔力を吸う。
それをあちこちで放ち、繁殖させ、魔力を吸わせた。
小さく気づかれにくく、隠密で忍び寄って亜獣人たちの血を吸っていく。
変に魔力持ちだけと偏らせると、また変なことになりそうだという経験則から、ほとんど無差別的に血を吸わせている。
だがその蚊は吸った魔力を固形化して死に絶える。樹液に捕らわれ琥珀の中に閉じ込められた蚊のようになるイメージが近い。
固形化した魔力は宝石のようで、色も吸った亜獣人によって変わり様々だ。
さらにその石を使うことで、そよ風を吹かせたり、火花を飛ばして火種にしたり、水を出したりと簡単な魔法使いごっこができるようになる。
ただしその宝石が使えるのは、その魔力の提供者のみ。使えば使うほど宝石は小さくなっていくが、それは便利な力として村外派には気に入られた。
しかし村内派は魔法という力がどうも不気味に感じたようで、宝石を生み出す子は不吉として、ある程度まで成長したら町から追い出した。
けれど村外派は、その宝石を生み出せる者を歓迎している。
追いだされた者たちは、自然と村外派に取り込まれていった。
そんなことを続けていると、また彼らの肉体に変化が出てくる。
魔法使いの変異遺伝子を持つ者を追いだし続けた村内派は、軟弱さからくる力だと魔法を忌み嫌い、己をさらに鍛え上げることで、魔法適性を下げてより元の亜獣人の遺伝子に近い純物理特化型になった。
それに伴い、魔力を保有する変異遺伝子が生まれる確率が著しく低下する。
一方で魔法という未知の力に触れはじめた村外派たちは、魔力を保有する変異遺伝子の数を増大させていった。
そして時はさらに進み、亜獣人創世歴1300年に突入したところで、また大きな変革が生じることとなる。
次も木曜日更新予定です!




