第474話 亜獣人創世歴:800年 異変
村内に残った者たちは500年かけて、町を築き武力を得て文明を進めた。
村外に出ていった者たちは500年かけて、枝分かれし各地で自然と共にあゆみ、文化を育んだ。
これからそれぞれが、この勢いに乗って発展していくのだろうと竜郎たちも期待していたのだが……。
「また発展が止まっちゃったね」
「なんというか、安定した途端にそこで留まろうとするんだよな」
「普通やったら、もっと便利で豊かな生活をってなるもんやけどなぁ」
「せっかく得たスキルも、覚えたときに使えるものをそのまま使っているだけで、使い方を工夫しようとも思わないのはどういうことなのだろうか……。不思議な者たちだ」
村外派はまだ多少はマシだが、村内派は特に応用という言葉や思考を、生まれたときに落っことしてきたのではないかというほど、創意工夫を凝らして何かをしようと思わない。
創世から600年。ある程度の発展を見せたため、そこからどの程度彼らだけで進むのかと100年進めてみたというのに、全く変わらない。
アーサーもそういう種族だと、ここまで見てきて分かっていても奇妙に感じてしまう。
スキルで様々な素材を扱えるようになり、他のスキルと組み合わせればもっと凄いことができるはずだ。
だがスキルを使うときは、そう決まっているとばかりに、一つのスキルに全力集中する。
彼らが本能的に得意と知る戦いもそうだ。例えば少し離れた場所にいる敵の間合いに、一瞬で詰めるスキルがあったとする。
そこでさらに《引っ掻く》なんかの獣術スキルを組み合わせて連携をとれば、もっと強力になるだろう。
しかしクールタイムがあるゲームのように、スキル同士の連携をしない。間合いを詰めたら、スキル無しで引っかいたり、殴りかかったりしているのだ。
ほとほと固定観念の強い種族だと竜郎たちは思い知らされる。
これはこういう使い方というものが浸透すると、もうそれしかしないのだ。
「プログラミングされた機械ではないのですから、もう少し工夫しようと思っても良さそうなものですが」
「ただもともと歩みの遅い種族だしな。もう少し見守ってみようか」
さらに100年時計の針を進めていく。しかし変わらない。なのでもう100年進めれば、何か変化はあるかとさらに進めた。
これで創世800年。この竜郎が創った疑似的な世界の中に入り、それだけの時間が過ぎたことになる。
だというのに、村内派の血を受け継ぐ彼らの文明は、500年から完全に止まった。いい武器防具を持つとモテるという認識も変わらない。
だがそれも次第にねじ曲がっていき、良い武器防具というよりは、より派手な武器防具にという中身が多少弱くても、なんかかっこよければいいという風潮が流行りはじめてしまう。
「クジャクさんかな?」
「ああ……異性へのアピールっていう点では似てるかもしれないな」
「下手をするとまた文明が後退しだす気配すら出てきましたね」
それらすらも興味深そうに、ミネルヴァは記録を取っている。
他の種族と相容れずに滅ぼされたというだけあって、やはり何か根本からこの亜獣人という人間は違うのだと思い知らされる結果だ。
「しかしマスター。若者の死亡率が上がってきていませんか?」
「え、マジか? ああ、本当だ。なんでだ。危険な病気が流行ったわけでもないし、銀スライム以降は特殊な魔物を送り出していないはずだが……」
《強化改造牧場・改》の力で、各種その中にいる存在たちのデータを収集できるように解魔法を組み込んでおいたおかげで、時間を進めた期間の住民のデータも取得できていた。
その表を眺めていたアーサーが、不自然な死因で亡くなる子供が増えてきていることを発見してくれたおかげで、そのことが早々に明るみに出た。
まだそこまで気にするような数字ではない。むしろ外の世界と比べれば、幸せなほど子供たちの死亡率は低かった。
しかしこれだけ亜獣人たちにとって都合のいい箱庭だからこそ、その少しでも際立って見えてしまう。
「村外派の方が多いんとちゃう?」
「数値にして2%ほど村外派の子供の死亡率が多いようですね。これだけでは、誤差や環境の違いによるものかもしれませんが。
とはいえ原因不明の体調不良により死亡です。このまま放置しておくと、さらに時を進めるほどに増えていきそうな気がします」
「病気はないはずだよね? なのに体調不良? 拾い食いでも……うーん、でもお腹も頑丈だよね。亜獣人さんたちって」
「完全に腐っていても、平気で食える種もいるしな。でもそうすると、余計に理由が分からない。ちょっと調べてみるか」
なにせ亜獣人たちは、一度安定した生き方を見つけると、外から干渉しなければ何千年でもずっとその生き方をし続けるような存在だ。
今の安定した時代で、特殊な行動をしているとも思えない。であればどんな原因があるのか。竜郎たちは認識阻害を使って、亜獣人たちのいる《強化改造牧場・改》内へ調査に出向いた。
死亡率が多かった村外派の村にやってきた。遊牧民から定住をはじめた亜獣人たちも増えはじめ、こちらはかなり多方面に広がっている。
それでもまだ亜獣人たちの分布は、竜郎が用意したこの世界の5%も進出できていない。
本当はもっと冒険してほしいと創った側としては思ってしまうが、今は関係ないと今まさに原因不明の体調不良で寝込んでいる2歳ほどの猿亜獣人の子供を見つけ、竜郎とミネルヴァが二人掛かりで原因を解析していった。
「これは……ちょっと対策しないと不味そうだな」
「こうなりますか……。普通の種族ならそこまで問題にならないはずですが、亜獣人ならでは──ということなのでしょうね」
「二人だけで納得しとらんで、早く教えてくれへん?」
竜郎は解析が終わると、猿の亜獣人の子供に手をかざす。
すると見る見るうちに顔色が良くなり、体力は落ちているが今すぐ死の危険がある事態は回避できた。
「直ったってことは新種の病気とかだったのかな?」
「いいや。直ってない。今俺がしたのは、ただの対症療法に過ぎないからな」
「一週間もすれば、またこの子は同じようなことになるでしょうね」
「ふむ……。先ほどのマスターが言っていたことから察するに、魔力が関係していますか? 先ほど行っていた治療は、その子の内部に溜まった魔力を散らしているように見えましたが」
「さすがアーサー。鋭いな。ちょっと、この世界は亜獣人たちにとっては魔力が濃すぎたんだ」
「通常の世界なら関係ないのでしょうが、この箱庭の中は全て主様の膨大な魔力で構築されていますからね。
吸っている空気も、そこに生える草花や木の実も、生まれる魔物ですらも魔力の塊のようなものです」
「だけど誤算だったのが、亜獣人は魔力への順応値とでもいうべき値が極端に低かったんだ」
「それが低いと死んじゃうくらい体調が悪くなるってこと? ただの魔力で?」
「イメージとしては魔力というものを消化できないのが、亜獣人なのです。
消化できないものが、ずっと胃の中に溜まり続けたらそれはもうただの有害な異物でしょう」
「あー、そういってもらえると分かりやすいかも」
「せやけど、それはおかしない? これまで800年間、普通に生きとったやないの」
「あ、そうじゃん。なんで最近になってこういう子が出はじめたの?」
「むしろ何世代も繋いだからっていうのが正解だな」
「この大量の主様の魔力で作られ、魔力で満たされた世界で、生まれて死にを800年間繰り返し続けたことによって、生物としてある意味では進化しはじめているのです」
「進化? ピ〇ューがピカ〇ュウになるみたいな?」
「その例えはどうなんだろう……。けどまぁ、この環境だからこその、遺伝子の変異がおきはじめているのは間違いない。
もともとの亜獣人たちは、魔法への適性が低すぎて魔力を溜め込む素養すらなかったんだ。
ほぼ魔力0。この世界じゃかなり珍しい種族だった。魔法系が生まれながらに苦手な人が多い獣人ですら、さすがにそこまでじゃないしな」
「ですね。その代わりに身体能力が高かったり、五感の鋭さや、他の感覚器官が発達したり、異様に体が丈夫であったりという種として優れた面もあったわけですが……ここでは、そこまでの能力も必要なかったというのも、遺伝子の変異が起きはじめた原因ではないでしょうか」
「あー……、それもあるのか。言われてみればそうだよな。人間だって使わなくなったから尻尾が消えた。
それみたいに生きるのにそこまで高い身体能力や感覚、丈夫な肉体が必要でないのなら、そこが退化して、退化したことで生まれる新しい可能性が魔力への適性だったわけか」
つまり竜郎たちが、ひたすらに亜獣人たちにとっての楽園を作ってしまったことで、生きるために100%のスペックを発揮する必要はなくなった。
またシステムによるスキル取得も解禁されたことも大きかった。
それによりさらに便利に、楽になり、そこまでの身体スペックは必要なくなっていった。
結果、本来獣人よりも優れていたはずの亜獣人たちの肉体を使った戦闘能力に全投入されていた体は、そこまで必要ないと時代の流れで遺伝子的に薄くなっていき、その薄くなった分を補うように、この世界の魔力への適性を得ようとする進化がはじまりだしたのだ。
「ではマスター。これから亜獣人の中に、魔法使いが生まれるということでしょうか?」
「それは、もっと先の話になるはずだ。それこそまだ千年、ともすればもっと長い時間がかかるかもしれない。
今はまだ、その途中の可能性の状態なんだ。中途半端に魔力に適応しようとしたことで、それを放出する術もないのに限界まで肉体に溜め続けてしまう。
そもそもまだ魔力がある肉体という状態にも、彼らの遺伝子は適応していないのにだ」
「ある意味では拒否反応でもあるのでしょうね。未熟ながらも溜め込む構造ができたのはいいけれど、その魔力に対して細胞は拒絶する。
ただでさえ消化不良を起こした体に、細胞の拒絶。この二つが合わさったことで、この中途半端な遺伝子を持った子供たちは、大人になる前に死んでしまうのでしょう」
「ほな逆に言うたら、魔力をどうにかする手段を何かしら用意できたら、死なんで済むってことやな」
「だろうな。だから俺たちの方で、またテコ入れをするしかない。
亜獣人たちがさらに進化していって、最低限死なずに済むくらいまではアシストすべきだろう」
「それがここに連れてきた私たちの責任だろうしね。じゃあ作戦会議しないとだ!」
「よし。じゃあそれまでは時間の流れは遅くしておこう」
現実時間の1日が、この世界では0.1秒となるように設定しておき、竜郎たちは亜獣人たち用に用意した区画から、外へと脱出した。
次も木曜日更新予定です!




