書籍版六巻特典SS3
『その森を抜けて』
アーカムとの決戦から一週間が経ったある日。
俺は思い出したかのように、リュエとレイスを誘いある場所へと向かおうと思い立った。
「かいぼん様だー! ねぇ今日は翼生やさないんですか?」
「黒いおめめにしないんですかー?」
「うむ。今日は魔王ではなく、カイヴォンとして、リュエとレイスを誘いに来た」
レイスと共に『ぷろみすめいでん』で寝泊まりしているリュエ。
時折こちらの屋敷に遊びにきはするのだが、互いに忙しく、なかなか会えないでいた。
そして、復興著しい旧ヒューマン保護区を通り抜けると、丁度レイスとリュエが、建物の周囲を農具で耕しているところだった。
「リュエ、レイス、ちょっと良いかい?」
「あ! カイくんじゃないか。どうしたんだい? こっちまで来るなんて」
「カイさん! すみません、こんな格好で」
「いやいや、こっちこそ突然すまないね。ちょっと今時間いいかい?」
「森の先にある泉……ですか?」
「そうなんだ。俺がこの街を変えていくきっかけにもなった場所でね、いつか二人を誘って行こうって思っていたんだ」
「ゼオフラウの群生地……凄いよカイくん、あの花は私の家の周りにだってそうそう生えない希少な物なんだ。是非行きたいよ!」
「すべての始まりの場所、ですか。是非行ってみたいです」
二人に話すと、直ぐ様行く準備を始めようと建物に入っていった。
少しすると、準備を終えた二人と共に遊びに来ていたと思われる子供達も出てきた。
その中には、俺と共にあの場所へ向かった少年、ケージュの姿もあった。
どうやら、この子達もギルドの採取依頼で向かう予定だったらしく、ギルドで護衛の人間をつけてもらおうとお願いしにいくところだったそうだ。
ならば丁度良い。俺達と一緒に行けば問題ないだろうと提案する。
ははは、これ以上ない豪華なメンバーだぞ、喜びたまえ。
「カ、カイヴォン様……良いんですか?」
「遠慮は無用だ。しっかり泉まで護衛してやるからな、安心しろ」
「わーい! カイヴォン様とレイス様とリュエちゃんと一緒だー!」
リュエさん、自分だけちゃん付けな事に少しだけ複雑そうな顔をしております。
子供達にとってはもう友達感覚なんですね、分かります。
街のすぐ外に広がる森林へと踏み入り、奥へ奥へと進んでいく。
先頭は俺、そしてそのすぐ隣にリュエとレイス。
子供達はそんな俺達の周囲を取り囲むようにして、しきりにリュエにちょっかいをかけていた。
リュエもリュエで、子供が好きな事もあり、ノリノリで子供の悪戯に乗っている。
「それにしても、結構距離があるねー。みんな、平気かい?」
「大丈夫だよ! リュエちゃんこそ平気? 私のお水飲む?」
「うん、平気。私は森育ちだからね」
「リュエちゃん、これ! これ知ってる? 食べられるお花だよ!」
「違う違う、それは食べられるんじゃなくて、蜜をとれるんだよ?」
恐らくここにいる誰よりも森に詳しい彼女が、子供達に様々な知識を与えながら、仲睦まじく過ごしている様子に、俺もレイスも自然と頬が緩んでいく。
あの夜。悲しみに暮れ一人泣いていた子供を見つけた時、俺は微かに『こんな現状を、果たして俺は変えられるのだろうか』と、先への不安を抱いた事もあった。
だが……今この繰り広げられている光景が、全てを物語っている。
楽しげな子供達の様子を、俺と同じく嬉しそうに見つめていたケージュに声をかける。
「ケージュ……私は、お前達に少しでも幸福な未来を指し示す事が出来ただろうか」
「はい! 母さんも、姉さんも、みんな幸せそうにしています! 勿論僕も!」
ああ――それは本当に良かった。それ以上の言葉が、今の俺には浮かばなかった。
さぁ、もうすぐ到着だ。森の出口が見えてきた事を皆に伝える。
そして真っ先に駆け出していく――我が家のエルフさん。
「私がいちばーん!」
「ああ! リュエちゃんずるい! 待ってー!」
「ふふ、本当にこうして一緒にいると……その、大家族みたいで幸せになりますね」
「ははは、確かにそうだね、レイスお母さん」
「……はい、あ、あな……」
どう呼ぼうとしているのかすぐに分かったのだが、やはりまだ照れが強いようでした。
はい、呼ばれたら俺も照れくさくてまともに顔を見られなくなってしまうと思います。
そして、走り出した皆にやや遅れて、その秘境へと辿り着いたのだった。
採取用に花束を作る子供。その他の花で花かんむりを編む子供。
泉を覗き込む子供と、それを心配そうに見つめるリュエ。
静かに揺れる水面と草花と、隣で自分の髪に手を当てるレイス。
景色だけではない。今共に居る皆が揃って初めて、最高の光景に昇華されるのだ。
かつて俺は、ここに二人を連れて行きたいと願った。
けれども、今ここに広がっているのは、俺の思い描いた理想を越えた光景。
それはまるで、『幸せ』をいう言葉をそのまま景色にしたかのような――




