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書籍版二巻特典SS

(´・ω・`)らんらんきたわよ

『豚ちゃんの不機嫌な一撃』




「頼む総帥さん。俺たちもこの後ソルトバーグに向かうんだ」

「バックアップはしてくれるって言っていたじゃない!」

 ソルトバーグへの視察へ向かうべく、自分の魔車へと向かおうとしたところ、四人の若い冒険者の一団に足止めをされてしまった。

 彼らの正体は『解放者一行』。

私たちギルドがバックアップする事を義務付けられた、この大陸の行末を左右すると言われて『いた』存在……そう、あくまで過去形だ。

なにせ、彼らが解放すべき七星『龍神』は、すでに私の古い友人である『彼』に倒されてしまっているのだから。

「……良いでしょう。急ぎの用事です。多少乗り心地が悪くても責任はとれませんが」

「ああ、構わない。ここの支部長から聞いたんだ、龍神はかつて北の森に封印されていたってな」

 自分の使命を全うしようと息巻く解放者『レン』。

 その実力は、異世界から召喚された者だけが持つ特有の恵まれたステータスと、恐らく元の世界にいた頃から修めていたであろう剣術が合わさり、同ランク帯では敵なしと言われている。

 その噂は総帥である私の耳にまで届くほどであり、実際先日の魔物の大氾濫の際には、獅子奮迅、他の追随を許さない程の活躍を見せたという。

 ……まぁ二名程、規格外の活躍っぷりを見せた人間がいた所為ですっかり影に隠れてしまってますが。

 ともあれ、彼らと共に魔車へと乗り込み、北へと進路を取るのだった。


「……ふぅ」

 高速で移動する魔車の振動に体力を削られながらため息を一つ。

 まだまだ改良の余地が残された客車の事を考えながら、私は目の前で繰り広げられている光景から目を反らす。

「……なんで、俺のランクがB止まりであいつが……」

「大丈夫よ。無事に解放出来たら冒険者どころか国の英雄……貴族にだってなれるのよ」

「ああ……けどやっぱり腑に落ちない。どうして魔族が平然としていられるんだ」

「あの……レン様は魔族が悪いものだと思っているのかもしれませんが、冒険者ギルドに所属している魔族の方はそれなりにおられますよ?」

「そう、なのか?」

 向かいの席で、彼らが私の友人について議論をかわしている。

 友人である『彼』の態度にまったく非がないとは言わない。

 けれども、目の前の一行が彼に懐疑心を抱くのは、おそらくそれが原因ではない。

 単純に嫉妬だ。

 彼ら一行は冒険者ギルドに所属が決まってから、近隣の村や首都周辺で経験を積んできた。だがその仕事ぶりや態度には『難あり』という評価が各支部から寄せられている。

 曰く、『傲慢で、他者の仕事を奪うような行為を繰り返している』と。

 依頼を受けているわけでもないのに、勝手に近隣の魔物を狩り尽くして報酬を出すように迫ったり、すでに他の人間が受けた依頼を、無理に自分たちに譲るように迫ったりと、やりたい放題だという。

 解放者という立場と、彼の周囲の人間がそれを良しとしているからこその振る舞い。

 しかも彼に賛同している娘は、ある派閥に所属している貴族の一人娘で、その親の影響力もあるのだろう。

 ……だが、相手があくまで自発的に依頼を譲っている以上、強く咎めることも出来ず、手をこまねいているのが現状だ。

 一応、彼らのストッパーになるようにと、冒険者ギルドに所属している娘を一人つけてはいるのだが、彼女の気質なのか周囲に流されるばかりでなんの効果も上げていない。

 もう一人の娘は、完全に研究者として七星を見に行くことだけを考えているので、なにも期待出来ない。改めて考えると、本当に頭の痛くなるメンツだ。

「総帥さん、聞いてるのか?」

「……なんでしょう?」

 ふと、自分が呼ばれていることに気がつく。

「あの男は、冒険者ギルドに所属して長いのか?」

「それは機密事項ですのでお話出来ません」

 彼からの質問に、私はやや面倒な事になりそうだからと、嘘の返答をする。

 すると、やはりこの答えに納得出来ないのか、頬を詰まらなさそうに膨らませ窓の外へと顔を向ける。

 すると突然、外を見ていたレンが大きな声を上げた。

「魔車を止めてくれ! 魔物だ、それもかなりデカい!」

 その言葉に、すぐに自分も窓から顔を出しその姿を探る。

 すると、街道からやや離れた林の合間から、大きな影がゆっくりと動いている様子を捉えることが出来た。

「魔車を早く止めてくれ! ……あれだけの大きさだ、仕留めたら相当なポイントになる、そうだろ!?」

「……急ぎの用事だと最初に言ったはずです。私のスケジュールを乱す事は許しません」

「ちょっと! あんたギルドの責任者でしょ!? このまま放っておくつもり――」

 私は揺れる車内で立ち上がり、天井の一部に備え付けられた緊急用のハッチを開ける。

「――誰も放っておくとは言っていません。少し静かにしてください」

 屋根の上へと出た私はそのまま、魔物の影が見えた辺りへと目を凝らす。

 こうしている間にも魔車はどんどんその魔物から遠ざかっていく。

 私はアイテムパックから愛用の弓を実体化させ、すぐに矢を番える。

 木々が視界の邪魔をする。いや、たとえ木がなくとも当てるのはすでに困難な距離だろう。

「それでも、私には関係ありませんけどね」

 まったく、我々がどれだけあなた方の事後処理に追われていると思っているのですか。

 まったく、私がどれだけ『貴方』を探していたと思っているのですか。

 私を悩ませる二人の人物を思い描きながら、私は弓術を発動する。

「『地平穿(チヘイセン)』」

イライラしていたからか、私が発動したのは場違いな一撃。

 その一撃を放った瞬間、すぐさま私は御者を務める職員に指示を出す。

「着弾地点はマインズバレーから北方約三◯キロの地点です。ソルトバーグに到着次第マインズバレー支部に連絡を。林を壊滅させたので、周辺の調査をするようにと」

 ……まったく。これから色々と面倒事が続きそうで嫌になります。

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