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暇人、魔王の姿で異世界へ 番外編  作者: 藍敦
後日談

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33/59

書籍版一巻特典SS3

(´・ω・`)時系列的には龍神を倒した翌日の夜となっております。


『最初の冒険』




 彼女と森を出ると決め、出立してから丸一日が経った。

 移動速度を上げているためかなりのペースで森を突っ切っているのだが、それでも彼女が言うにはまだ全体の四分の一にも満たないという。

 森と呼んでいるが、もはや樹海と言ったほうがいいかもしれないな、この規模。

「それでも凄い速度で進んでいると思うよ。ずっと景色は変わらないけど、凄く楽しい」

「この辺りにはあまり来ないのか?」

「うん。私はあの氷山と、家の周り、丁度カイくんと初めて出会った辺りまでしか出歩かないんだ」

 つまり、彼女にとっては約千年ぶりの遠出というわけだ。そりゃ楽しいわけだ。

 今日はこの辺りで野営をすることにしたのだが、そう決まるや否や彼女はご自慢の大容量バッグからテキパキと野営に必要な道具を取り出し始めた。

 ウキウキと、まるでキャンプに来た子供のようにニコニコとテントの骨組みを組み立て始める。

「あ、俺にも手伝わせてくれ。なんだか楽しそうだ」

「ふふふー、これ私のお気に入りなんだ。見て、こうやって骨組みを地面に突き立てると――」

 楽しげにテントの骨組みを地面に突き立てると、まるでやわらかな粘土のようにあっさりと土がそれを飲み込んだ。

 彼女はそれを満足気に確認すると、グッグッと数度押し込み、その強度を確かめる。

「この通り、簡単に固定出来るんだ。これも魔導具で術式が刻まれているという訳さ」

「へぇ、便利なものがあるんだな」

 いいね、なんかいきなり未来的な万能道具を出されるより、身近な不便を解決してくれる道具の方がワクワクします。

「じゃあ残りの骨組みはカイくんが差し込んでいいよ。このサクッって刺さる感触がクセになるんだよね」

 なるほど、やみつきになる感覚ってやつですな。

 梱包材をぷちぷちと潰したりだとか、コーヒーの詰め替えでワンタッチで補充出来るヤツとか、専用の器具でクルクルと金具を巻き取る缶詰とかああいうのですね?

 ……マニアック過ぎるか。

 ともあれ、俺は彼女イチオシの魔導テントを組み立てていくのだった。

 テントを組み終えた俺は、彼女に次の指示を仰ぐ。

 実はこの手のアウトドアが好きなので、一緒にこういう作業をするのが楽しかったりします。

 すると彼女は、テントの周囲に杭のようなものを突き立てていた。

 あれは知っている、魔物避けの結界を張る魔導具だ。

 旅人の必需品で、数回使うとダメになってしまい、それなりに高価なものだそうだ。

 それでも命には代えられないので彼女が外の世界にいた時代は皆こぞって買い求めていたという。

 そして、設置者の魔力量に比例してその効果、持続時間が高まると。

「あ、じゃあもう少し待ってね。たぶん私の方が魔力が高いから、少しでも効果が高まるように私が設置するよ」

「じゃあお願いするよ。俺はこの三脚を設置しておく」

 そんなこんなで手分けして野営道具を設置していると、薄暗い森の中がより一層闇を濃くし始める。

 俺は魔術で火を起こし、薪を燃やす。ちなみにこれもリュエの自慢のバッグから取り出しました。

「ふぅ……こうやって野営をするのは初めてじゃないけれど、誰かと一緒にするのは初めてだよ。楽しいね、こういうの」

「そうだな……これからはどこに行くのも一緒だ、改めてよろしくな、リュエ」

「うん……よろしくね、カイくん」

 メラメラと燃える炎を一緒に眺めながら、しんみりと言葉を交わす。

 パチパチと燃える音と、フクロウのような静かな鳴き声、薪の燃える香りに混じる夜の匂い。

 いいな、こういうの。

「……ところでカイくん、ごはんどうしよう?」

「あ……料理用の道具とかはあるのか?」

「あるけれど、今から設置するのは難しいかも……そうだ!」

 彼女は名案が浮かんだのか、手を打ち鳴らしてごそごそとバッグを漁る。

 その姿が、まるで国民的なロボットのようでつい、笑みを漏らしてしまう。

 バッグを探るその仕草も、その表情も、今この瞬間が楽しくて楽しくてしょうがない、そんな喜びの感情が溢れ出しているようで、つい頬が緩む。

「実はね、このバッグには食材だけじゃなくて料理も入っているんだ。あの倉庫にはたまに料理も送られてくるんだよ」

「ああ、そういえば俺も見つけて食べたことあったっけ」

「そうなのかい? 私のお気に入りはね、たまに送られてくる野菜の煮物なんだけど――あった!」

「ああ、ラタトゥイユか。俺も前に食べたけど美味しかったなぁアレ」

 彼女が取り出したのは、小さな鍋に入れられた色とりどりの野菜の煮物。

 トマトベースで煮こまれた夏野菜、いわゆるラタトゥイユというものだ。

 冬空の下食べる料理としてはミスマッチ感が否めないが、それを可能とするのが彼女の倉庫、バッグ、魔導、この世界の力。

 そう考えると、案外こんなミスマッチも悪くないな、なんて。

 彼女はその小さな鍋を、焚き火の上に設置してある三脚にぶら下げて温めなおしている。

 温度がそのまま保持されているはずだが、恐らく冷めた状態で彼女の倉庫に送られてきたのだろう。

 ……一体誰がなんの目的で送っているのかは未だ不明なのだが。

「私はね、カイくん。君が来てくれてから毎日が楽しかったけど、夜はあまり好きじゃなかったんだ」

「そう、なのか?」

「うん。だけどね、今は凄く、凄く凄く楽しいんだ」

 そう言いながら彼女は空を見上げる。

 それにつられて見上げると、冬の澄んだ夜空が無数の光を湛えていた。

 焚き火の火の粉が、その星に吸い寄せられるように昇る。

 つい、俺の意識までもがその夜空に吸いよせられてしまうような、そんな錯覚に囚われる。

「そうだな、俺も楽しい。それに、リュエと外に出られて、本当に嬉しい」

「うん、私も同じ気持ちだよ――あ、鍋が沸騰しそうだよ」

「おっと」

 いい匂いにつられて、視界を空から下に戻す。

 あちあちと鍋を下ろす彼女を見守りながら、改めて俺は思う。

『君を連れ出すことが出来て、本当によかった』と。

 まだ一日、外に出て、旅が始まってまだ一日。

 それでも、彼女はもうこの旅を楽しんでくれている。それが、なによりも嬉しい。

 これから、きっといろんな場所で、いろんな経験をする。

 すべてが楽しいこととは限らないけれど、それでもリュエと一緒なら、俺はどんなことでも楽しめると、苦難を乗り越えられると確信している。

 楽しそうに笑う君が隣にいるのなら、俺はどんなことだったやり遂げてみせよう。

「はい、カイくんの分」

 決意を新たにしたところに、丁度彼女が器を差し出してくれた。

 ああ、そうだな、嬉しそうに差し出すその顔を見て、俺も気持ちを切り替える。

「おいおい、リュエの方が多いじゃないか」

「そんなことないよー?」

「だめ、そのズッキーニを二切れこっちにくれ」

「しかたないなぁ……」

 少しだけ頬を膨らませながら野菜を取り分ける彼女を見て、つい笑ってしまう。

 まったく、本当に楽しそうで、難しく考えている俺がバカみたいじゃないか。

 思うまま生きよう。二人で思うままに、気ままに旅を始めよう。

「美味しいね、この……ラタトゥユ?」

「ラタトゥイユ。これ誰が作ったんだろうな」

「誰だろうね? けど、ずっと旅をしていたら、いつかこの料理がある場所にもいけるかもしれないよ」

「ああ、その通りだ。これから、いろんな場所にいって、いろんなものを見て、いろんなものを食べるんだから」

「うん、楽しみで仕方ないよ。どうしよう、夜が好きになったけれど、今度は明日が楽しみで早く夜が終わって欲しい気分だよ」

 俺も、明日が楽しみだなんて思うのはいつぶりだろうか。

 夜が明けるのが、眠りが覚めるのが楽しみだと感じたのは、いつぶりだろうか。

 彼女に出会って、沢山のことを思い出させてもらった。

 忘れていた喜びを、生きることの喜びを。

「じゃあ、これを食べたらそろそろ寝ようか」

「うん、明日もよろしくね」

「ああ、これからよろしく、リュエ」

 さぁ、明日はどんな冒険が待っているのだろう――

(´・ω・`)このラタトゥイユを作ったのはレイスさんでした。


(´・ω・`)以上が一巻発売の特典のSSとなっております。

(´・ω・`)また、今月の25日(1月25日)には作者の別作品『パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~』の書籍版が発売されます

こちらも店舗特典SSが付属しますので、興味のある方は調べてみてくださいまし。


(´・ω・`)では、明日からは二巻の書籍版特典SSを掲載致します。

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