逃走中
逃走中
街中で勇司はお腹に手を当てながら、牛丼屋の前で足を止めていた。
「腹減った・・・、困った事に手持ちは五百円だしな。まずなんで俺逃げてるのか知らないぞ、無線も鳴らないし。」
少しの間ポチ袋の中身と牛丼屋を視線で行き来させていたが、諦めてどこかに身を隠そうと行く宛もなく前を歩く中年男性について行く。
するとなんの因果か手持ちのない勇司に縁のない、場外馬券場の中に前方の中年男性が吸い込まれていった。
入り口で立ち止まり、入るのを躊躇する勇司を追い越していく老夫婦の会話が耳に入る。
「今日は2−5よ、2−5。これしかないわよ。」
「お前に任せるよ。今五連続的中じゃからな。」
余裕のありそうな老夫婦の会話を聞き、場外馬券場の中へと意志とは無関係に吸い込まれていくのであった。
気付くとポチ袋が張り裂けそうなほど太り、中から紙を押し上げる。勇司が賭けた三レース全てが5−2、又は2−5の結果に終わり、複勝で全ての金額を注ぎ込んだ結果、ポチ袋の逆ダイエットに成功していた。
「これは稀に見る凄い事になったな。さっきの老夫婦はきっと女神とその周りを飛び回る天使に違いない、思い起こせば羽がうっすらあったような気もするし。」
気を良くした勇司は場外馬券場から出ると、先程の牛丼屋に駆け込み特盛り、味噌汁お新香、卵付きフルセットで注文しすぐに届いた品を勢い良く食べながらも思う。
(なぜこの潤沢な資金を持って俺は牛丼屋に来たんだ?旨いから問題はないが。そして何かを忘れているような・・・?)
するとサイレンが聞こえ、牛丼屋の前にパトカーが止まると勇司は逃亡中だという事をようやく思い出す。
「ごちそうさんっ!」
千円札を近くにいた店員に渡し、釣りも受け取らず出ていくと、外の備え付けの灰皿の横に立ち、ごくごく自然に煙草入れから白い煙草を取り出し火をつけた。
慌てることなく煙草を咥える勇司に、警戒しながら声を掛けにきた警官二人に対し白い煙を吐き出す。
【白煙】
吐き出された白い煙は二手に分かれ、警官二名の顔に纏わりつくと視界を塞ぐと、勇司はその間を走り抜けていく。
「いろいろとごめんなさいよっ!」
向かう先にはエンジンのかかったままの無人のパトカーがあり、勇司は乗り込むと未だジタバタしている警官をサイドミラーで確認しつつ、走らせていく。
「まっずいよなこれ。本格的に警察とぶつかりそうだけど、それ以前に久々のビックラックにテンション上がって油断してたな。」
ハンドルを握りながら警察無線を聞くと、すでに自分自身が完全に容疑者になっている事が分かり、上がっていた気分も盛り下がる。
「こりゃあ早いとこパトカー捨てないと捕まっちまうか。厄日か・・・?いや、当たりを含めるとトントンでもないな。やっぱり厄日だ。」
住宅街にパトカーを走らせていき、邪魔にならない袋小路に乗り捨てると、周囲に人気が無い事を確認してボストンバッグを持ち歩き出す。
「さてはて。では資金はまあまあ、ぼちぼちと逃げますかね。やっぱり逃げるといえば北かな?」
自らの勘に従い、北の方角へと進む勇司の逃走は未だ始まったばかりであった。
珍しく主人公のみのお話です。
まあ書いてる本人にもよく分からない事件ではありますが。




