決め手
決め手
目の前にいる写真とは全く違う田沼の姿に、勇司は尻込みをしていたが横に並ぶ久信が足を一歩前に出す。
「調べたい事があるので、先に行きます。足を止める為の準備をしておいてください。」
「おっ、おうよ。お任せしとけっ。」
気負う様子も見せず肩の力を抜き、ロングコートの中からスタン警棒を取り出し歩く久信の後ろ姿を、勇司は少しの憧れと嫉妬の混ざった眼差しで見つめていた。
(あれにいきなり突っ込む勇気と対応出来る能力はないな。いいなー、思金神の眼鏡とかまず名前がいいよ。この時代に喫煙とか、どこで使えばいいんだ?何処もかしこも禁煙マークだらけだぞ。)
少し熱のこもった背中からの視線に気付く事はなく、久信は取り出したスタン警棒をぶらりと下げ、ゆっくり田沼へと近付く。
(先程の竜胆さんの動きが理想ですね。再現とまではいかなくとも、あれを理想として少しでも近付けたいものです。)
ボロボロになった白衣だけを纏う田沼は、両肩口から肥大化した腕を生やし四本の腕を広げると、異形の姿となる。先ほど見て予想していた姿に久信は驚く事はなく、さっさと距離を詰めていく。
伸ばされる手をスタン警棒ではじくと、全身に走る高い電流で痛みに顔を歪めるが、逆の二本の手を一気に伸ばす。
牽制しようとスタン警棒を更に振るが、田沼の手はスタン警棒を手の平でしっかり握りしめていた。
確かに電流は流れ続けていたが、先ほどは痛みに顔を歪めていたにもかかわらず、今はその素振りすら見せずスタン警棒を握ったまま引き寄せると、残りの腕で打撃を打ち込んでくる。
久信はあっさりとスタン警棒を捨て、カウンター気味に顔面へと拳を放つが、田沼は首の筋肉を肥大化して受け止めると脳の揺れを防いでいた。
四本の腕を使い逃がさないように広げ掴みかかろうとする田沼ではあるが、突然視界が一面白く染まり、掴もうとした腕は空を切る。バタバタと顔の前を払い、視界が開けた時には久信はすでに距離を取り、勇司は白い火のついた煙草を持ち四本の腕を気味悪そうに眺めていた。
「勇司さん、ナイスタイミングです。」
「そいつはよかった。それにしても全くもって効いてないな。」
「ええ。最初の攻撃で身体に耐性を造り出したようです。自らの身体のDNAを操作して作り変える特技というわけですか。」
「・・・変わりすぎだろこれ。もうちょい可愛く変化しろよ、女の子受けとか意識したら平和な特技だろうに。」
「あなたのその平和ボケした考えは素敵だと思いますが、その考えを容疑者と共有するのはなかなか難しそうです。」
すると破れた白衣を脱ぎ捨て、ボロボロになり丈のサイズの合わないスラックス一枚になると、声にならない息を一つ激しく吐いた。
空気が震え、肌に突き刺さる程の田沼の呼吸音に身震いしながらも、勇司は火がついたままの白い煙草を咥える。
【白煙】
吐き出された白い煙は、田沼の顔面を覆い尽くしその視界を遮る。隙を見逃さず、ガラ空きの足元にローキックを打ち込もうと前に出るが勇司は何者かの強い視線を感じ、思わず足を止めていた。
すると目の前に田沼の腕が振られ、勇司は思い切り後方にジャンプしなんとか難を逃れる。よくよく見ると、田沼の肩から生えた腕の手の平には眼が存在しており、その視界には勇司が映され瞬きまでしていた。
慌てて白煙を手の平の眼にも吐きつけると、勇司も距離を取り久信の横に並ぶ。
「ありゃあ不気味だ。そしてかなりこっちが分が悪い。」
「以前からの課題ですね。我々には一撃で決める術がない。どうしましょう?」
「そりゃあやっぱりしばらくは耐え忍ぶじゃないか?」
「あまり気は乗りませんが、その案でしばらくはいきましょう。」
二人は行動指針とも言えない物を一応決めると、対策を考える暇もなく再び戦闘に入っていくのであった。
とりあえず明けましておめでとうございます。
まだしばらくはこのお話も続きそうですので、お付き合いしていただければ幸いです。




