浜辺
浜辺
二人を乗せた軽トラはサイレンを消すと、聖堂拳会の道場の近くへ静かに戻ってきていた。しかしそこにいたはずの人影は無く、無人の道場だけが取り残され、すでに辺りは薄暗くなっている。
「いないな。もう行っちゃったのか?」
「そのようですね。私達が来た時に比べて轍が増えています。三台ですか、追いますよ。」
軽トラはスピードを上げ、またもや来た道を戻り出す。しばらく進んでいくが、怪しい車両の姿は見当たらずただただ周囲を走り続けていた。
「ますます不味いよな。どうしたもんだかね。」
「ええ、ですが聖堂拳会ですか。もしや・・・。勇司さん高速に乗ってください。」
軽トラは近くのインターチェンジから高速に乗ると久信の指示通りに車を向けていく。そして30分程走るとインターチェンジを降り、さらに人里離れる場所へと車を走らせていった。
「なあ久信、こんな山の中に何があるんだよ?」
「聖堂拳会という名で思い出しました。確かこの先にも道場があったはずです。夏、冬問わず合宿等が行われ、人目がつかずこのような状況だとちょうどいいですね。」
「なかなかにでかい空手道場なんだな。案外と儲かってるのか。」
「自流派の全国大会が行われる程度に会員数はいるはずですよ。あまり悪い噂などは聞いたことありませんが。」
そして軽トラを進めていくと海沿いに道場らしきものが見えてくる。そこには数台の車が止まっているが人の気配はないようだ。
「ここでもないな。つう事はそこにある空手の定番の地か?」
「そうですね、急ぎますよ。」
二人は軽トラを道場の前に駐めると、急ぎ道場から少し離れた場所にある海岸へと走っていく。
歩き辛い砂浜を進んでいくと、そこには無言で二人の男を取り囲む集団があり、囲まれている一人は先程話をした男であり、全身を血にまみれた姿で辛そうに立っている。
そして向かい合う男は無表情で立ちながらも、返り血を浴びているが拭おうともせず無機質な瞳で傷だらけの男を眺めていた。
そして無表情な男が急に前に出ていく。そして腕を振るとガードしている腕を切り裂き、道着の袖が血に塗れる。更に返す腕で首元を狙うと喉元を切り裂き口元と首から血液を溢れさせながら倒れていった。
「間に合いませんでしたか。勇司さん、とにかく容疑者の気を引いてください。」
「了解っと。それなら得意だよ。」
浜辺を走りながら勇司は煙草入れから、銀色に輝く煙草を取り出し火をつけた。
【真銀煙・プードル】
銀色に輝くプードルが地を蹴り、無表情な男へと突進していくが何かを察したのか直前で急ブレーキをかけて横に飛ぶ。男は出しかけた手を止め、落ち着いて構えていく。
「やはりプードル君だけでは可愛そうだよな。」
更に勇司は煙を吐き出すと銀色に輝くポニーを作り出し、プードルの横に並べていた。
突然の乱入者と仲間が血にまみれながら倒れている事に動揺している男達に冷静な声色で久信が告げる。
「その方を早く病院へ、まだ息はあります。見た所その方が一番の実力者みたいですね。ここからは私達がお引き受けします。これ以上やるというのであれば、あなた方もただでは済みませんよ。」
特局のIDカードを示し、有無を言わさずこの場から男達を引き離していく。男達から師範代と呼ばれている傷を負った男を担ぎ、全員が大人しく立ち去るのを見届けると、久信は勇司の横に並び、ついに容疑者との対面を果たすのであった。




