灰皿
灰皿
二人は走りながら近付いてくる女性達の攻撃をいなし、傷つけずに無力化していく。久信の後を勇司は走り振り向きざまに紫色の煙を吐き出した。
【紫煙・麻痺】
追いかけてくるよそ行きの格好をした奥様二人の顔に煙を吹き付け、動きを止めるとすぐに後を追い走り出していく。
久信は周囲を見渡し、襲いかかってくる男性警備員の顎先を掌底で打ち抜き一発で気絶させると江夏の居所に目をつける。すぐ後ろでは勇司がすでに追い付いてきていた。
「こりゃあ男への扱いが酷いな。さすがに可哀想だろ。」
「時間が惜しいもので、後で謝ります。ですがこれでは埒が明きませんね。」
百貨店の一階から匂いは広がり、上下の階から内部にいる人々が集まってきている。ガラスのの割れる音がフロアに響き、割れた香水の瓶から液体が溢れ一層匂いは強くなっていく。
「なかなか人の多いことで。デパート不景気じゃなかったのか?」
「勇司さん、一旦作戦を練ります。時間を稼いで下さい。」
すでに操られている人々は二人を囲むように人垣ができていて、江夏の姿も人の波に溶け込みその姿は確認できない。
【喫煙室】
二人の周囲に透明な壁がせり上がり完全に囲んでいく。下から灰皿が伸びてきて喫煙室内の匂いを浄化すると、二人は一度身体から力を抜くと、久信はガスマスクを外す。
「相変わらず便利な特技ですね。ここからが問題ですが、時間は稼げますか。」
「たしかにな。完全に囲まれてるけどこっからがどうやって脱出したもんかね?」
喫煙室の壁は全方位から叩き、蹴られているがびくともせず攻撃を受け続けていた。落ち着いて久信は周囲を見渡しながら特技を使っていく。
【思金神の眼鏡】
(順調に増えてきてますね。ですがどこかに発生源はあるはずです、香りを視覚化すればどうにかなりますか?)
更に圧迫感のある空間の中で久信は集中して特技を使い移動する強い香りを見つけ出す。
「見つけましたよ。やはり近くにいないと操る事は出来ないというわけですか。勇司さんいきます、道を作ってください。」
「えっ?どうやってだ?帰省ラッシュぐらい混み合ってきてるぞ。久信何かいいアイデアないのか?」
「それぐらいは自分で考えてください。20秒差し上げます。」
必死に言われた通りに20秒頭をひねる勇司は、なんとかアイデアを絞り出し実行に移していく。その間に久信は再びガスマスクを装着していた。
「よしっ、これっきゃないな。久信っ、足元に気をつけろよ。」
「足元ですか?分かりました。」
一本白い煙草に火をつけ、併設している灰皿に捨てると喫煙室は消え去っていく。そして人々が雪崩込んでくる瞬間に勇司は特技を使った。
【喫煙所】
床から筒状の灰皿が無数に生えてくる。操られている人々の足元を引っ掛け、バランスを崩させると将棋崩しのようにバタバタと倒れていく。
更にフロアの至るところに灰皿を生やし、動きを阻害していった。
「上出来ですよ勇司さん、では行きます。」
久信はバランスを崩す人々の間を走り抜け、江夏へと迫っていく。自らの身を守るため勇司は真銀煙で甲冑を装備すると、人々からタコ殴りにされているが、装甲を信じてその場から動かず、久信を掩護するべく床から灰皿を生やし続けていた。
ついに人々の間から逃げ出そうとする江夏の姿が二人の視界に入り、その走り出そうとした足元へ灰皿を生やし引っ掛ける。
バランスを崩した江夏はそのまま転倒し、久信は悠々と追い付くと横に立ちガスマスク越しであるにもかかわらず、少しの香りを感じていた。
「江夏さん、それくらいにしてもらいましょうか。すでにここだけでも少なくない被害者が出ていますしね。」
被っていた帽子を脱ぎ去り、激昂し何か叫ぼうとした江夏に久信はスタン警棒を押し当て、一気に気絶させる。
操られていた人々の動きが止まり、そこに勇司がボロボロになりながら匍匐前進でやってきた。
「容赦なくやったな。それにしてもまだ匂いかなり強いぞ、皆さん動かなくなっちまったし。」
「ええ、意識を失っても特技は有効のようですね。香りを身にまとっているわけですから、それも仕方ないですか。勇司さん、お願いします。」
「んっ?ああ、あれね。」
勇司は煙草入れから水色の煙草を取り出し、火をつける。
【水色煙】
吐き出した水色の煙を気絶した江夏に吹き付けていくと、徐々に匂いは薄まっていく。更に二度三度と煙を吹き付けると江夏の体からあらゆる香りが完全に消え去っていった。そして人々は徐々に意識が覚醒し、辺りは騒然とした雰囲気に包まれていく。
「なかなかに大事になったな。こりゃあ後片付けするの大変だぞ。」
「仕方ないです、重症者は出ていない事が救いでしょうか。この後の霰さんとのデートは諦めてください。」
久信からの発言に思わず勇司の時が止まる。
「おっ、お前なぜそれを?機密事項のはずなんだが。」
「あなたが携帯を忘れて言った時にメールが来たので代わりに返信しておきましたよ。そして安心してください、次の約束をしっかりしておきましたから。」
笑顔で話してくる久信に、勇司は何も言い返す気力もなくなり店員に混じりダラダラと後片付けを始めていた。そして静かに勇司は呟く。
「人の携帯勝手に見るなよな。それにしてもデートなのか?それともただのお買い物か?デートだったら何かと素敵だよな。」
ブツブツと呟きながらなぜか少しニヤけている勇司を、気味悪そうに眺め首を捻る久信であった。
特筆すべきこともない200話です。
ここまで読んでいただき感謝いたします。
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