少しの成長
少しの成長
慎介はあまり表情の変わらない金属で出来た顔にも関わらず、完全に動揺を見せていた。
訓練室には黒胡椒を挽く音だけが響き、試しに弾の切り替えを行うと辺りに香ばしい薫りが広がり、コーヒー豆がミルされ砲身から出てくる。
「昼飯から装備を変え忘れたな。・・・こいつはまいった。」
慌てて自らの装備を確認している慎介を見ながら、勇司と久信は構えたシールドから身を乗り出し、顔を見合わせた。
「これはもしかして、もしかするとチャンスってやつか?」
「油断は出来ませんが、そのチャンスというのは正解のようですね。」
二人はすりこぎ棒とフライ返しを握りしめる慎介を油断せずに眺めながら、シールドを両手で持つ勇司を先頭に、距離を詰めながら久信は正確な射撃ですりこぎ棒を撃ち抜く。
残ったすりこぎ棒の半分は勢い良く投げられ、シールドに当たると粉々に砕け散り、シールドは健在であるが思わず勇司の体はビクッと震える。
「凄まじい強肩です事。だけどこれくらいならまだいけるな。」
久信はロングコートの中からスタン警棒を二本取り出し、一気にシールドの後ろから飛び出していく。以前の久信に比べ、明らかに単純なスピードが上がりその足取りは軽い。
横から薙ぐ様に振り抜くスタン警棒をフライ返しで受け止め、更に逆から振られるスタン警棒を下がって躱すと爪先のブースターを起動させ、一気に下がって距離を取る。
「あっさり避けられましたか。しかし避けるという事はサイボーグだけあってスタン警棒は有効のようですね。」
「ああ、とりあえずしばらくその線でいってみようか。じゃあ行くぞ。」
勇司はシールドを慎介に向けて一気に迫っていくと、その後ろに姿を隠すように久信が続く。
するとフライ返しを床に置き、慎介は右手を体にはめて戻すと構えをとり、近づいてくるシールドを眺める。
「装備が無いと戦えなくなる程ヤワじゃない。」
右の拳を引き、踵から腰、さらに肩甲骨、そして肘のブースターを順次起動させると、一瞬身体がブレて見える程の高速移動から、右の正拳突きを打ち込む。
拳が当たった瞬間に真銀煙で出来たシールドは霧散し、拳が突き抜けるがそこに二人はいない。
攻撃がくる寸前に、二人はシールドを残して後ろに下がり、勇司はすでに次の煙草に火をつけていた。
慎介は多少の驚きと感心が入り混じった声を出す。
「今のをよく対処できたな。」
「ええ、ここの班にきて散々攻撃され続けましたからね。そして出た結論は全部の攻撃がヤバいから緊張感と、全体的に敏感肌になる事が大事ってやつです。」
勇司の言葉に思わず笑みを浮かべ、慎介は再び構えを取る。
「ハハハハッ!そいつは違いないな。とりあえず二人共合格だ、しかしもう少しだけ付き合ってもらうぞ。実力を知りたい。」
そして三人は再びぶつかり合い、勇司と久信の正式な0班入りが決まると同時に、26班に帰るという勇司の小さな願いは終えるのであった。
この物語、全体的に慢性的な女性不足で悩んでおります。




