退院
退院
清潔さに溢れた広めの病室には二つのベットが並べられ、そこには両足を吊られた勇司と両目を包帯で巻かれた久信が寝ている。
ここはAFC出資の病院であり、特局との提携により高い安全性と快適な入院生活を過ごせる贅沢な設備が整っていたが、残念なオーナーの趣味のせいか妹の素晴らしさを啓蒙する書籍や、病院内のオリジナル番組がテレビでは流されていた。
「斬新な切り口のアニメだったな。二時間姉が妹の好きな所を喋り続けてたぞ。何か聞き覚えのある声だったような・・・。」
「そういえば声優に初挑戦するとこの前メールがありましたよ。この目ですので画面を見る必要のない番組でしたが、聞くだけではそこまで楽しいものでもないですね。」
二人は時間を余らせた入院生活をテレビと共に過ごしていたが、異常なチャンネル数を誇る病院内のテレビに何を見ればいいのか常に悩み続けていた。
「今から五分後には中年だらけの将棋大会シーズン38だな。今回の見所はチャンピオンの72歳千里さんに、28歳の帆山さんが挑戦ってとこだよな。」
「二人共中年なのかは疑問ですが、楽しみなのは間違いないですね。私は千里さんの勝利は動かないと思いますが。」
たっぷり終局までの六時間半の番組を楽しむと、消灯時間となると全ての電気を消し二人は月明かりだけが部屋を照らす中、天井を見つめていた。
「久信、まだまだ修行不足だよな。一人捕まえるのに入院してちゃ話しにならないか。」
「そうですね。ですが入院だけで済んだという考え方もありますよ。宮原さんが最初から万全の体調であれば、こうして会話を出来る事なんてなかったでしょうし、亡くなった本藤兄弟に感謝するべきでしょうね。」
「感謝ぐらいならいくらでもするが、目の届く範囲を軽く守れるぐらいの力が欲しいもんだな。この仕事でしばらくは過ごして予定だし。」
「あなたでも先の事など考えるのですね、てっきり幼女の事ばかり考えているのかと。私はAFCの管理など副業がありますが、あなたは・・・。特技のロリコンをいかして託児所なんていかがでしょうか?」
口元の動きだけで驚きを表現し、笑みを浮かべながら話す久信を見て勇司は溜息をつく。
「ロリコンちゃうわ。そして選択肢がないというのはなかなかに寂しいもんだな。怪我が治ったらまた訓練な日々か、頑張るしかないかね。」
その頃、特局の地下の暗い一室では一人座っている男の肩から出た光が、壁に映像を映し出していた。勇司と久信による宮原を確保した時の映像を見ながら、何度か頷いている。
「面白い、二人でならだな。」
男は書類にサインをすると判を押し、映像に目を戻しながら表情を作りづらそうにしながらも、軽い笑みを浮かべていた。
二人の怪我はわずか三日で癒え、退院となると久信は眩しそうに空を見上げ、勇司は治った足を確認するかのように軽いジャンプを繰り返している。久信は何やら携帯に連絡が入ったらしく、すぐに対応していた。
「勇司さん、残念ながらお迎えは来ないようです。捜査で出ているらしく自力で一度特局にとの事です。」
「じゃあ仕方ないからタクシーでも拾って行くか。それにしても今日ぐらい帰してくれてもいいんじゃね?」
二人は病院前にいたタクシーに乗り込み、特局へとすぐに戻っていく。そして26室に入ると、そこには普段と少しだけ違う光景が広がっているのであった。




