狼男
狼男
勇司は座り込みながら震える両手を抑えようとしているが、その手は言うことを聞かない。さらに震えは急に止まると、ダラッと垂れ下がり力を失っていた。
「勇司さんっ!どうしました?煙草の副作用でしょうか?」
自らの両手を心配そうに見つめる勇司に久信が話かけるが、勇司は身体に起こった原因を必死に考えている。
(なんだこれ?風邪か?そういえば節々に傷みがあるようなないような。いや違うな、・・・アレのせいか。)
「さっきの刀の柄にやられちまったよ。直接握るのはやめた方がいいみたいだな、いい勉強になったなった。」
久信は唖然とした表情を浮かべ、大きく溜息をつく。
「はぁ・・・、一瞬でも心配した自分を撲殺してやりたいですね。自らの心を鍛え直すために、山に入って滝壺に飛び込みましょう。しかし既に山伏検定二級ですから、その修行を行えば一級になりそうですしちょうどいい機会ですね。」
徐々に麻痺毒は体に馴染むと勇司はゆっくり手を揺らしながら立ち上がり、未だ倒れている宮原を二人並んで眺めていた。0班と搬送班の到着を待つが、その姿はなかなか現れない。
突然後方から足音がし、二人はピクッと反応するがそこには何か探し物をする霰の姿があり、驚いた表情を浮かべている。
「あれっ?勇司君、久信君、もしかして捕まえたの?すごいねー。ここらへんに携帯落ちてなかった?」
二人は霰の言葉を聞きながら倒れている宮原がピクリと反応するのを見逃さず、勇司は煙草入れから赤い煙草を取り出し、久信は軽く眼鏡に触れ宮原に近付いて行く。
「霰さんをっ!」
「あいよっ!」
【思金神の眼鏡・最適化】
【赤煙】
宮原の体の中では解毒が進み狼の形態を取ると、ようやく力が入るようになった前足に力を込め、霰に飛び掛かる。
赤い煙を吸い込んだ勇司は、体の中に煙を留めると霰に向かって走り出す。自分の制御を超える動きに翻弄されながらも、霰を抱え込み横に飛んだ。
(間に合ったけど間に合ってないかも。鳴っちゃいけない音があんよ付近で大量に聞こえたぞ。明日はお休み貰えそうだけど、とりあえず労災ですねー。)
霰を抱えた勇司は着地もうまく行かず、地面を転がり腹の上に霰を載せたままスーツの背中の布地と引き換えに勢いを止めた。
不意打ちの初激を外した宮原は派手に着地をすると、すぐさま向きを変え勇司の背中目掛け飛びかかるが、空中で未だ傷口の残る脇腹に蹴りを喰らい打ち落とされる。
痛みの走る脇腹の傷を押さえ二足歩行に戻ると、久信を睨みつつ唸り声を上げながら戦う意志は微塵も衰えない。
「肋骨が一本抜き取られているわけですか、よく動けるものですね。我慢強いにも程がありますよ。」
久信は宮原の潰れた目の死角へ死角へと移動を繰り返しつつ全く無駄のない動きで近付いていくが、宮原は片目の視界に慣れてきたのかあっさり対応し視界から外れる事が出来ずにいた。
(同時に使うのは負担が大きいのですが仕方ありませんね。私では仕留めきる事が出来ないのが問題ですが。)
【視界操作・狭窄】
眼球に走る鈍痛に表情を歪ませながらも、宮原の目を見ながら特技を使うと視界が急激に狭くなる。
久信は一気に距離を詰めると懐に飛び込むと、脇腹の傷口にボディフックを当て、さらに膝を叩き込むとすぐに距離を取ろうとするが、両肩が掴まれ鋭い爪が深々と刺さっていく。
「傷口狙いと死角狙いでようやく捕まえたぞ。苦労かけさせやがって。」
掴んだまま久信の首元を噛み千切ろうと、大口を開け引き寄せるが顎の下にクロスした両腕を入れ鋭い歯の噛み付きを防ぐが、肩にはなおさら深く爪が食い込んでいった。脂汗を流す久信に対し、更に宮原は力を込め引き寄せていく。
「力が足りないな。そんな力じゃ対抗も出来ないぞ。」
「・・・ええ。周りが見えていないあなたには力では負けていますね。」
するとさっきまで倒れていた二人の姿がないことに気付き、狭くなった視界でゆっくり首を横に向けると、そこには肩を貸してもらっているが身長差の問題で明らかに立ちづらそうにしている二人の姿がすぐ目の前にあった。
【紫煙・麻痺】
【爪化粧・紫】
霰の体に不釣り合いな長く伸びた紫色の爪が鼻先へと刺さり、勇司から吐き出された紫色の煙が全て宮原の口の中へと吸い込まれていく。
力の抜けた宮原を振り解き爪を抜くと、久信は肩から血を流しつつも未だフラフラと立ち続ける狼男の姿を冷静に眺めていた。
「ここまでくるとさすがですね。尊敬の念すら出てきそうですよ。」
そして勇司は霰に体を支えられながらも、銀色に輝く煙草を取り出し、火をつけると二回に分けて大きく吐き出す。
【真銀煙・リボルバー】
勇司の両手には二丁の大振りな回転式拳銃が握られ、一丁を久信に投げ渡す。
「やっぱり狼男といえばこれだよな。」
久信は慣れた手付きでシリンダーを開けて見ると、真銀煙で出来た弾が一発だけ入っている。
「確かにそうですね。勇司さん、なかなかに素敵なアイデアですよ。」
二人は揃ってシルバーのリボルバーを構え、なんとか立ち続けている宮原の胸にむかって引き金を引く。
発射された弾丸は揃って宮原の胸に撃ち込まれると、狼の形態を保てなくなり人に戻りながら倒れていった。
現場に搬送班が到着し倒れたままの宮原が搬送され、同時に到着した医療班によって歩くのもままならない勇司と、肩に深手と一時的に視力がガクンと落ちた久信が運ばれていく。
誰もいなくなった現場から、ビデオカメラを持った七三分けのスーツ姿の男がゆっくり出てきて呟いた。
「途中からだけど評価は悪くない。後は班長にお任せだな。」
そして男はスーツにシワ一つ付けず、革靴のまま山をスイスイと下っていくのであった。
これが三章最後の事件になると思われます。ここまで読んで下さった方感謝です。




