手負い
手負い
久信は宮原と目を合わせながらもすぐに特技を使おうとするが、その隙すらも与えてはくれない。地面に手を付き四足になると一気に低い姿勢で迫り、前足の爪で久信の足を引っ掛けると走り去って再び突っ込む姿勢を整えていた。
頑丈なはずのロングコートの裾が切り裂かれ久信の脛に浅くはない傷が走るが、倒れそうになる身体を片足で支える。
(これがあの方の得意な戦闘方法というわけですか。単純なだけに破り難いですね、ですが今のこの状態であれば。)
【思金神の眼鏡・最適化】
猛烈なスピードで突っ込んでくる宮原の動きを完全に読み切るように、久信の体は自動的に最低限の動きで爪を躱す。二度三度と襲い続ける直線的な宮原の襲撃をあしらうかのように身を翻している。
しかし自らの身体の事は考えていないようで、足の傷から動くたびに血が吹き出すが動きは微塵も衰えない。
久信は特殊警棒を抜くとタイミングを図り、突っ込んでくる宮原に合わせ振り下ろすが寸前で向きを変え特殊警棒は空を切る。避ける際に後ろ足に負担がかかり、宮原は苦悶の表情を浮かべ声を漏らしていた。
「クッ、イライラするなっ!なんでこんな場所でこんな事してるんだ!どいつもこいつも人のやる事にケチつけやがって、全員殺るか。」
「思うのは勝手ですが、口に出すと軽くなりますよ。」
久信の言葉で聴覚も戻ってきた宮原のボルテージが更に上がっていき、低い唸り声を上げながら歯を噛み鳴らしている。更に自らの煙草の煙から復帰してきた勇司が、銀色に輝く煙草に火をつけ久信の横に立った。
「じゃあここで止めなきゃまずいって事か。今が頑張り時だな。」
「勇司さん張り切っている最中に悪いのですが、あなたあれ避けられませんよ。私の足もこのような状態でフォローする余裕はあまりないので。」
しかし勇司は余裕を見せ、スーツのポケットからサングラスを取り出し掛けながらも、笑顔を見せていた。
「任せとけ。ただ単にあっちでスースーするのに耐えていた訳じゃないぞ。作戦を練った上にイメトレを三回してきた。」
「ではあまり期待はしていませんが、お願いします。何をするのかは知りませんが、あなたに合わせますよ。」
片方の手に火のついた真銀煙を持っているにもかかわらず、更に紫色の煙草を取り出し火をつけた。
(二つのタバコをどちらも火をつけ何するつもりでしょうか。これはもしかして久々に期待ができますかね?)
四足で後ろ足を気にしていた宮原は短期決戦で二人を仕留めようと、真正面からスピードを上げて突っ込んでくる。
勇司は紫煙の煙草の煙を吸い込み、口の中に襲いかかるピリピリとした刺激に耐えながらも、さらに真銀煙を咥えると煙を吸い込んでいく。
(これはダメかも・・・。とんでもない味しやがって。ヨウ素液と硝酸銀を混ぜたような味な気がする、・・・飲んだ事はないが。)
足を刈ろうと迫る宮原に対し、吸い込んだ煙を吐き出さないようにと勇司は必死に我慢しながらも、イメトレで想像した姿と現在の宮原の姿を重ねながら、煙を吐き出すタイミングを図っていくのであった。




