山中
山中
徐々に歩き辛くなる山の中で、久信は徐々に近付いていることを確信していた。
(これは痕跡をわざと消していないと言うよりは消せていない、消す余裕がないというのが正しいようですね。なかなかに本藤兄弟に手こずりましたか。)
「勇司さん、どうしましょうか?困った事に近いですね。このままですと出会うことになりますがどうしましょう?」
「お気楽に言ってくれるなよ。出会うって狼とだよな?非常に嫌な予感しかしないんだが。」
しかし二人は歩みをやめる事なく進んでいくと、生き物の断末魔が聞こえ思わず足が止まった。
「今のは?なんかプギャーって声聞こえたよな。プギャーってなんなんだよ。やっぱりこれは止めとくか?」
「プギャーではなくヒャギューじゃありませんでした?確かにこれ以上近付くと我々の存在がバレてしまいそうですが、しかしここまで来たら行ってみましょう。まだ今回の全容が掴みかねていますしね。」
風向きまでも計算に入れながら、二人は慎重に遠回りしながらも断末魔が聞こえた方角に向かっていく。
そこには倒れた猪の腹に顔を突っ込む男の姿があり、周囲には肉を噛みちぎり血を啜る音だけが流れていた。勇司と久信は呼吸する事も忘れその様子を眺めている。
「あれは完全に捕食してるよな。お食事の邪魔するのは悪いからここは一旦帰宅がいいんじゃないか?」
「お食事のバランスが悪いですね。それより片目が潰れていますし、脇腹の深い傷も治っていないようです。あれ程に深い傷を負うとは間違いなく強襲されたという事でしょう。」
「それを返り討ちにしたってわけか。じゃあ何かしらあちらの組織で揉めて、その原因はあそこで生肉食べてる方にあると。」
「そんな所でしょうね、実情は分かりませんが。あの方は少々は我が強そうですしね。ここで0班を呼ぶのが正しい選択でしょう。」
少しこの場から離れ、無線を繋ぎワンボックスと連絡を取る。無線を切ると久信は少し難しい顔をしていた。
「0班が来るには少し時間が掛かると。そしてこの場からすぐに離れろという指示でした。すぐに動きます。」
二人はすぐにワンボックスの方向へと急ぐが、後方から耳を塞ぎたくなる程の咆哮が聞こえてくる。木々に止まっていた鳥が一斉に羽ばたき、思わず二人は振り返り足を止めた。
「何か怒ってないか?それも凄い勢いで。」
「たしかに怒ってますね。仲間だと思っていた方に襲撃され傷を負い、怒り心頭で吠えていると。普通に考えたら山を下って復讐ですね。」
「山を下るってやっぱりこの道だよな?あっ、体からカビの強い臭いが出てる。やばくないか?」
「それ以前の問題ですね。我々の存在にすでに気付かれたようです。相手は狼ですし、急ぎますよ。」
二人は後方を警戒しながらも急いで来た道を引き返すが、襲われることなく本藤兄弟の殺害現場まで戻ってくる。
そこには顔を血で赤く染めた宮原が舌なめずりをしながら待ち構えているのであった。




