時間
時間
勇司は心配そうに見つめ、表情一つ変えない久信ではあるが心なしか興味深そうに二人の戦いを見つめていた。
「なんか端っこに追い込まれてるけど竜胆さんは大丈夫なのか?そしてなんであそこから逃げない?」
「理由はいろいろあるでしょうが、ここの建物を破壊しないためじゃないでしょうか?お互い大分気を使っているようですよ。」
たしかにここまでの戦いで、この行内で壊れた物は一つもなく傷付いたのは勇司の股関節ぐらいである。
「たしかにあのレベルが暴れまわれば銀行一つなくなるよな。」
「ええ。本気で踏み込んだだけで床に穴ぐらいは開くはずです。それをしないとは物好きな容疑者ですよ。」
未だに本気を出していない二人ながらも、その戦いは佳境に入っていた。
村重は筋肉で肥大化させた右腕を身体に巻きつけるように後方に引いて力を貯め、竜胆は軽く前後に足を開き、胸の少し下で拳を軽く握っている。
周囲の空気を全て吸い込むかのように村重は息を吸い込んでいき、胸が膨れ上がると呼吸を止める。
そして一瞬の静寂の後、村重は一気に吸い込んだ空気を吐き出しながら力を開放し、右拳を突き出していく。当たった物全て砕こうという勢いの拳が向かってくる中、竜胆はまだ動かない。
村重の力一杯握り、無数に走る傷や血管、筋などが浮き上がり変形した拳が胸の中心に当たろうとした瞬間、竜胆が動き出す。
迫ってきた拳を身体を捻りながら避け、右肩の付け根に向かって予備動作無しに左ジャブを繰り出すが村重の勢いは落ちない。さらに打撃音がまとめて一つに聞こえるほどの早い打撃を三発同箇所に打ち込むと、勢いは止まり村重の拳は銀行の壁直前で空を切っていた。
村重の目の前からスッと動き、後ろに回ると竜胆は声を掛ける。
「それでは時間ですので、今日はこれぐらいで。」
「名残惜しいがまだ勝てないか。また鍛えて収監施設から出たらまた呼ばせてもらうからそっちも鍛えとけよ。」
すでに竜胆は上着を羽織り始め、ネクタイの位置を直すと出口へと向かっていた。村重は少し残念そうに後ろ姿を見つめている。
「アポイントをもらっても仕方ないですし、時間が合えばまたお会いしましょう。」
自動ドアが開き、颯爽と立ち去って行く姿を勇司と久信は眺めていたが、この後の事について二人は悩んでいた。
しかし慣れた手つきで村重は取り出した携帯から電話を掛け、銀行内の掃除を始めている。
そして銀行内の床がピカピカになった頃、村重自身が呼んだ搬送班が到着し、大人しく運ばれようとしていたが二人に声を掛けてくる。
「股関節は悪かったな。二人共つっても一人とはやってないが、まだまだ強くなれよ。次逢った時には楽しくまた準備運動やろうな。」
何か言い返す気にもならず、搬送班に運ばれ村重の姿は見えなくなる。そして行内には二人が残されていた。
「なんか強烈だったな。0班になるとあんなの相手しないといけないのか?」
「どうなのでしょう?たしかあの御相手は勘弁願いたいですね。それにしても私は少し現金をおろしに来ただけなのですが、勇司さんはなぜ銀行に来たのでしょう?」
「んっ?」
恐る恐る時計を見てみると、時計は14時を過ぎている。勇司の顔が悲しみに染まり、ポケットから紙を取り出し何度も確認すると、思わず握りしめる。
本日14時までに換金せねばならない、将棋くじの当たりくじが紙切れになった瞬間であった。
三章の終わりが近いのに主要キャラの活躍がないぞ。
困ったもんです。




